4話 二人きりの教室で
ガラガラ ガターン……!
「誰もいない……」
「やった、1番だ!」
半ば勢いよく開いた扉と彼の高い声が同時に響き、シーンと静まり返る1年6組の教室。彼の変声期はまだまだ先だろう。
そんなこいつと一緒にいると、何故かは分からないが不思議と楽しくなってくるのだ。真面目で優秀な雰囲気の中に子供らしさが見え隠れする、可愛らしい奴だから…… そういってはいるが、自分自身でも正しい理由は分からない。
でも、一矢とは1年生の頃からほとんど同じクラスだったから、いつも色んなことで勝負していた。そんな勝負に付き合わされるのが、どうしようもなく楽しかった。だから今朝の勝負の話もすぐにのったし、本来勝てない勝負をするタイプではない私でも、彼の話にはよく耳を傾けるようにしているのだ。
こんなこと澪に話したら…… 茶化されるわぁ。
「Buongiorno! 雪菜、一矢!」
『うわぁ!』
突然誰かに背中を叩かれ、二人揃って変な声が出てしまった。ぼんじょるのに驚いた私達は、できもしないような攻撃態勢になり、咄嗟に後ろを振り返る。
白髪碧眼ポニーテール…… びっくりした、ルシアか。
彼女の名前はルシア・セグレート、得意攻撃は背後からぼんじょるの。
ここの中学校入学と同時に日本に帰って来た、いわゆる帰国子女さんだ。小学校の頃からイタリアに行っていたそうで、イタリア語と日本語はどちらも上手らしい。
ただし、日本語はいつも敬語。向こう側でイタリア語を覚えた代わりに、現代のゆるい日本語をすっかり忘れてしまったのだろう。
確か、彼女はイタリア出身のお父さんと日本人のお母さんのハーフだった気がする。だから白髪碧眼なのだろうか…… 透きとおった白髪というのがどうにも気になるところ。
プラチナブロンドのような気もするが、光の当たり具合によって青っぽくなったり、時には赤くなったりもするから、本当に真っ白という可能性も捨てきれない。
それと、あの綺麗に整った顔が本当に凄い。いつか、ご両親の顔も拝見したいところだ。
日本人のお母様は、多分物凄く美人なのだろう。お父様も、負けないくらいハンサムかもしれない。本人がすごく可愛いのだから、両親もそうなのではないかと考えるのは、わりと自然なことだ。
私と同じつり目というところは、彼女と少しだけ共通点を感じられて嬉しい。
そういえば、ヨーロッパはパスポート無しで国々を渡ることができるとか…… もし暇があったら、今度あっちの写真を見せてもらおうかな。
荷物をロッカーに片付け、特にやることもなくなったので、なんとなく一矢とルシアを観察する。
どちらもはしゃいでいれば年相応、あるいは少々幼いように見える外見だが、何かのスイッチを押すと突然静かになるのだ。驚異の集中力を発揮したり、推理力がぐーんと上がったり…… とても不思議な人間である。
ちなみに、ルシアと一矢は私と同じ、窓際後ろの3班。班は四人で構成されているので、あと一人足りない。
私の隣の席に座るであろう3班の守護神、勇助だ。