54話 ダンサー系女子
午後の授業の睡魔に耐え抜いた後、そのまま掃除を終えて下校をしていた私は、一矢の妹について考えていた。
正面から見て左側に涙ボクロがある一矢とは違い、逆の位置に小さなホクロがある、ゆぅちゃんこと榎原柚香ちゃん。
彼女は小さい頃から、ダンサーになることが夢らしい。実際に、結構昔からダンス教室に通っているそうで、実力は中々のものなのだそう。
顔もお母様似で、可愛いからストレスが溜まった時には癒してもらっている。実は、お兄さんの顔にもよく似ているそうだ。私の場合は、この兄妹が仲良く並んで立っている所を見た事がないので、詳しい違いは分からない。
しいて言えばもう一つ。一矢を正面から見た時の口の右側に、小さなホクロがあるのだが、これがゆぅちゃんにはないのだ。
ちなみに、お母様にもゆぅちゃんとお揃いのホクロがあるらしく、何もないのはお父様だけなのだとか。
子の遺伝子に嫌われた親父さん、お疲れ様です。
それで、ゆぅちゃんの好きな色はピンクでとても女の子らしいのだが、髪の縛り方は下の方に二つ。ついでに前髪ぱっつんなので、学校の校則なんて余裕でクリア出来そうな髪型なのである。
これは本人のお気に入りの髪型で、お母さんが強制的にやらせている訳でもない。そんなゆぅちゃんの髪色は、やはりお母様譲りで、漆のような艶のある黒髪黒眼なのだ。
私は小学校の運動会やお楽しみ会で、偶然ゆぅちゃんと同じ班だったから、今でも何かと仲が良い。昔私が通っていた習字の塾も、いつの間にか彼女がいた。
しかし彼女のお兄さんは、ながーいことそれを知らないままだったそうだ。
「ゆぅちゃんは可愛い」
「なっ、あのセーブデータを消した忌まわしき柚香がぁ!? 」
「まだ根に持ってたの?」
「ああああああ」
記憶の隅に追いやっていた彼の記憶を、意地の悪い私がぐりっとえぐり出す。
本当に良いデータだったのか、思い出すだけで悲しいようだ。立て続けに悪いことが起き、一矢の心は悲しみと退屈の森に迷い込んでいた。
彼の気持ちは痛いほどわかる…… 確かにあの喪失感は辛いだろう。
もし、私が彼にやってあげられる事があるのなら、日曜日の事をアレンに頼んで一矢も一緒に連れて行けないか。データが消えたことによる退屈を、なんとか紛らわす事ができないものか。
それにしても、どうしてアレンは、私が魔法使いだと言おうとする行為を止めないのだろうか。
私にはわからなかった。自分から言い出そうと思ったことはないが、聞くことを忘れていたし、聞きたくもなかった。
私は、一矢に教えてあげたい。私が魔女だということを。
「あの白い奴に、もう一回会いたいんだよな」
「……聞いてみる」
「やっぱり本当にいるんだな。どんな奴なのかな、あいつ」
さっきから一矢は、幽霊のような世羅に会うことを諦めたくないという表情で、同じ様な言葉をずっとつぶやいている。
帰ったら、アレンに聞いてみようか。そんな考えを頭の中で巡らせながら、八百屋の交差点の信号を長いこと待った。そうだ、明日の午前中は夏用の服を買いに行くんだった。午後はまた、澪と遊べる。




