53話 繰り返される時間割
世羅の伝言をアレンから聞き、そんなこんなで学校が終わる金曜日。アレンの師匠の強さを目の当たりにし、自分達の無力さを思い知った登校時間だった。ちなみに、氷柱で彼の腹を貫いた際についた、冷たい何かの正体は…… 普通に彼の返り血だったらしい。わざわざ血を拭ってくれたアレンに、流石に冷たすぎないかと尋ねたが、元からビックリするぐらい体温が低い人らしい。いつか倒れそうだな、あの人。
今日は地獄の全教科であるため、明日が終われば土日だと、そう信じて教室まで歩くしかなかった。左腕が使えない一矢も、頑張って鞄を持ち上げているのである…… 可哀想に、今度は右肩が脱臼しそうだな。
「さっき見たんだぜ、白いあいつ。強そうだったよなー!」
「私、そいつから色々聞いた。今週の日曜日の午後に、荒澤中央小学校まで会いに行くことになった」
「まじか!? 俺も行きたいなー、幽霊じゃなかったかー」
「うん、強い人だった」
幽霊はいないけど、弱っちい魔女はここにいるよって、言いそうになった。しかも、どこか誇らしげに。他の人間とは違うという特別な感じが、私の心の中にも少なからず残っていたんだろうか。
でも私、嘘偽りなく素直に伝える事は苦手だし、その上言葉を紡ぐ勇気もない。心の闇に苦しくなって目を伏せようとしても、一矢の汚れのない純粋な茶色い瞳が、私のドス黒い瞳を掴んで離さなかった。
やめてよ、また頭が痛くなる。
苦しさが広がっていき、心臓を中心に肺、肩、腕、肘、手首、指先まで。視界も暗くなってきたが、私は頑張って堪えた。彼に迷惑をかけたくないし、さすがにこんな所で倒れるわけにはいかない。
何か、思い出せる。保健室に行く前までの出来事が、思い出せる。私はもう人間じゃない事、家族同然の二人を疑った事、今の自分の状況がひとりぼっちだと思ってしまった事。心配になって、この世から消えたくなって、もう一度人生をやり直したくなって…… そのせいで倒れたんだ。
「どうしたんだよ雪菜、また顔色悪いぞ」
「別に」
「別にじゃねえよ。なんかあったら俺に言えっていつも」
「じゃあさ、一矢は私がどんな奴でも話を聞いてくれる?」
「……は? どういう事だよ。雪菜は雪菜だろ?」
あぁ、ついカッとなって言ってしまった。きっと、一矢は言葉の意味を理解できていない。でも、その意味を理解できていないから、今ここにいてくれるんだろう。
なら、この気まずい状況を打破する為に、私はどうするべきだろうか。そういって悩んでいても、結局何も変わらないまま、私達は古惚けた校舎へと入っていった。
いつになったら、彼に悩みを打ち明ける勇気を持てるようになるのかな。




