45話 あの子がいない
木曜日の午前6時半、私は眠たい目を擦りながら階段を降りる。居間を覗いても叔母さんはいないが、これはいつもの光景。いつも通り、叔母さんが作っておいてくれた朝食のそぼろごはんを食べ、無駄に重たい制服を着て歯を磨く。不思議な御守りがいなくなった鞄を、ライフルバッグでも扱うように左肩にかけ、家の鍵を閉めたことを確認して外へ出る。頬を撫でただけで静かに過ぎ去って行く朝の春風は、やはり今日も冷たかった。今日もまた、私はあの交差点に向かって歩きだす。時間も場所もいつも通りで、なんの変わりもない。藤色の西空を舞う鳥の群は、くるりと回って降下した後、突然爆発したように散っていく。いつも通りの日常を嫌っているはずなのに、それに定着して安心しきっていた。
……でも、私はまだ知らなかった。
一矢が、来ないこと。
鞄をリュックのように背負って走ってくる、間抜けな彼の姿が見えない。白く掠れた十字の上で私の顔を確認した後、安心した表情をみせる彼の姿が、ない。何かあったら連絡する、そう言って電話番号を教えあったのは、つい昨日のことなのに。どうしようもなく、胸騒ぎがする。ただの欠席であってほしい、なんなら早く来てほしい。約束した集合時間から5分が過ぎ、203号室の白猫が私の足元をすり抜けた頃、私はひとり(アレンを入れると二人)で学校に走って行った。
「あ、繋木さん。今日は一人なんだね、普段は一矢と一緒に僕らを待ってるのに」
「ルシアと勇助か…… おはよ」
「どうしたんですか雪菜、元気がありませんね。今日は一矢もいませんし…… 分かりました! 約束をしていたはずなのに、彼が来なかったんですね。ついでに寂しいとか心配だとかの感情が重なって、ずしっと気分が重いんでしょう! 心配しなくても大丈夫ですよ、私がついているので No problem デス!!」
「返答に困る」
「えー!?」
「あはは…… そうだ、一矢は怪我で遅刻だって聞いてるよ」
名探偵ルシアの推理は的中、なにこの子洞察力半端ない。周りの人は苦笑いしてるし。ちなみに、勇助はまだ緊張がほぐれないようで、一緒に遊んだことのある私をまだ苗字呼びしている様子。彼は周囲の人々と一緒に、お餅のように柔らかく苦笑い。……この二人は、私を慰めようとしているのか。
それにしても、一矢の遅刻の理由は怪我か。一体どこを怪我したんだろう、大丈夫かな。
「愛の力ですネ~?」
「!?」




