44話 少年の疑問
「あの黒猫、本当は化けた魔導師なんじゃないの?」
「うん…… もしかしたら僕の師匠かも」
「え、師匠?」
宿題後の魔法の練習中、アレンはずっと黒猫の事について呟いていた。アレンはあの黒猫の事を師匠と言ったのだが、あんな可愛い奴が本当にアレンの師匠なのか? でも、本当に師匠が猫だったとしたら、なぁんだけじゃ言葉が通じないでしょ。アレンは猫語を話せるわけでもないし、テレパシーや読心術の習得も全てあの師匠に教わったはず。それともあの黒猫の姿は、203号室の白猫のような仮の姿であって、本当の姿が他にあるというのか? そもそも白猫の正体すら分かっていないのだが、そんな考えが浮かぶのは何故。
もしこの推理が正しいとするのなら、本当は人型だとか何だとか…… もしかしたら、実体そのものがないのかも。
そんな風に私が疑問の表情を浮かべても、アレンはちっとも気づかない。
「アレン、亜瑠斗さんって猫派なの?」
「えー、絶対犬派だと思ってたんだけど…… あの猫姿ってもしかして、変身している2人の好みなんじゃない? 少なくともうちの師匠は、猫派だったような気がするんだ」
「にゃんこ……」
今度喫茶店に行ったら、あの黒猫も亜瑠斗さんの猫なのか聞いてみよう。もしそれが本当で、黒猫がアレンの師匠だったなら、亜瑠斗さんや白猫は仲間である可能性が高くなる。勿論、それは可能性に過ぎないけど。
もうすぐ仮入部が始まるから、会えなくなる前に一矢にこの事を相談するべきか。けれど、それではアレンが使えない人という捉え方になってしまうかもしれないな…… いつも側にいる奴だから。
「アレン、その人の個人情報や過去は覗けたりするの?」
「いやー、その魔法は結構頭を使うから、僕にはまだ難しいんだ。特定の能力を持つ種族の人なら、簡単に出来るらしいんだけどね」
「ふーん」
「これは別に、僕の頭が弱いってわけじゃなくて、えっと…… あ、僕の故郷で撮った写真が魔導書に挟まっていたから、もしかしたらそこに写ってるかも。それで頑張って、ちゃんと思い出すね!」
「あー、小人時代に抱いてた茶色い魔導書のことか。じゃあ頑張って」
私は興味を示していないかのように反応しただけだが、アレンは勝手に言い訳を始めた。慌てる彼の相手が面倒くさくなって、適当にアレンの言葉を聞き流す。私の反応にしゅんとした彼は、物体浮遊術であのエッ◯ェル塔のクッションを引き寄せて、昨日みたいにそっと抱いていた。
確かにクッションを抱くその姿は可愛いけれど、あんたのそっくりさんである榎原一矢は内面的に勝ってると思うよ、すごく色んな意味で。やっぱり、外見は瓜二つでも中身は全然違うんだな。でも、こんな可愛い一矢(中身は違うが)はなんか新鮮。と言っても、すぐにそんな目で見てはいけないような気分になり、私は吊り上がりそうになった口元を、パーカーの黒い袖で隠して勉強机に突っ伏す。勢いよく伏せたせいで机に頭を打ち付けてしまい、ゴンッと大きな音が響いたが、そんな事はもうどうでもよくなっていた。
これはなんというか、変な気分だ。




