39話 宿題後の日課
帰宅後、私は宿題の理解プリントをシュアッと終わらせて、ゆっくり伸びをする。押入れの中で遊んでいたはずのアレンは、いつの間にか押入れの中のクッションを抱いて、まだかなぁとでも言うような目で私を見つめていた。紺色の瞳に入った部屋の明かりが反射して、私の顔が僅かに映る。
彼が待ちに待っているであろう魔法の訓練は、私の宿題後の日課と化していた。
魔法の訓練って言っても、夕食前にある僅かな時間にしかやれないから、休日みたいにずっとやっていられるわけではない。夕食後はあんまりうるさくする訳にもいかないので、アレンにいくつかの魔法の知識を教えてもらうくらいだし。
だから、大切な実技訓練はいつも休日にやっている。……なんたって暇なんだから。
それで、今アレンが大事そうに抱えているクッションの事なんだけど、あれは小六の時に作ったやつ。好みの柄というわけではないが、柄はピンク色のエッ◯ェル塔。持ち帰ってから一度も使わなかった物なのに、まさか異性に使われるとは……
変なクッションを抱えた変人に見えるけど、よく見てみるとちょっと可愛いかも。アレン自身が元々一矢にそっくりだったし…… 何を考えてるんだ私は。
「雪菜、早く始めようよ~!」
「はいはい、ちょっと待ってて」
痺れを切らしたアレンが、クッションをぎゅっと抱き締めて私を呼んだ。ついでに体操座りとなると、初対面の正座の時よりはゆるくなった方なのか。その姿に違和感を憶えた私は杖を取り出し、魔法使いの雰囲気を醸し出しながら、彼に物体浮遊術を使う。これもまた、ただ浮けとイメージするだけ。それだけで、アレンが抱いていたクッションはするりと腕を抜けて、私のところまで飛んでくる。
こんなに簡単なものなら、誰だって出来たんじゃないのと聞きたくなった事もあった。私自身、こういう魔術を使うことは得意なんだけど…… 箒でアクロバティックな動きをしたり、何故かやるかもしれないと言われている格闘技や剣技などの、武術の実戦をしたりするのはとことん苦手。元々文化部一筋だったこともあり、少しバランスが悪いのだ。いや、ハッキリ言って大分悪い。
こんな私より、もっといい人材はあったはず。何か裏があるはずなのだ。しかし、私はずっと聞こうとしなかった。面倒だったし、また彼が思い出せずに終わるんじゃないかと思ったから。そういえば、お嬢様ってどんな人なんだろう。その単語を聞かなくなって、しばらく経つ。お嬢様って、今いくつなの? 私の事は知ってるの? アレンはお嬢様の事をどう思ってるの?
聞いたってどうにもならないような謎ばかり。あまり役に立たない頭脳は、その質問を考えるだけで精一杯だった。変なところで臆病な心は、彼にその質問をすることをためらった。
お嬢様って呼び名だけでもヤバそうだし。
「雪菜、どうかした?」
「別にー」




