32話 相合傘じゃありません
最近女子の間で流行っている恋バナ。
確かに面白そうだけど、私自身はまだ恋をしていない。あるいはまだ自覚していないのだろう、そもそも自分の事がきちんと理解できていないのだ。
それは澪も同じで、彼女も好きな男子はいないらしい。もう随分長いこと、聞いてないけれど。最近は叔母さんもそういうのが気になるみたいで、本来結婚しなければいけない年齢なのはそっちなのに、たまに聞いてきたりする。たまになので鬱陶しくは思わないが、少し返答に困った。
まぁ、今更叔母さんが結婚しても普通に困るけど。
この歳で心惹かれる人間がいないって、どうだろう。確かにそういう子もいるっちゃいるし、私だったらみんなにとって、今のままの状態がイメージどおりなのかもしれない。私自身、自覚のない状態でそういうイメージの人格を形作り、冷酷な少女を演じていた可能性もある。
それが良いのか悪いのか、私には分からない。
「雪菜、この傘ちょっと小さいから、もっとこっち寄らないと肩が……」
「そんな事したら狭くなって一矢が濡れるでしょ、私は雨が好きだから」
「ふーん。たまに変わってるよな、雪菜って。つーか傘持たせてごめん」
「いい。私が頼んだ事だし、一矢が持つと身長差で危ない」
「おい」
そう、私達は世にいう相合傘というものをやっているのだ。小学校の時には、突然降ってきた雨で友達の折りたたみ傘の中に入れてもらう事なんて当たり前だったのに、どうしてこんなに素っ気ない対応しか出来なくなったんだろう。
黄色っぽい彼の折り畳み傘は、身長差から考えて一矢が持つと辛いだろうから、彼よりも背が高い私が持っている。私は一矢の方に傘を傾けているから、肩が少し濡れていた。
彼は私のことを気遣っているようなのだが、今言った通り、私は雨が好きだ。夏だと涼しいし、傘をささずに濡れていると自分の中に溜まった汚れを少しだけ洗い流してくれる気がする。だとするなら、台風はもっと好きかな。いや、やっぱり私の得意魔法といえば氷だし、雪が一番。雪以外に好きな気候を言うとすれば、涼しい風の吹く雲がかかった青空の方が好きだ。だからかもしれないが、私は秋が一番過ごしやすい。
それにしても、さっきから一矢がこっちを向いてくれないし、話しかけてすらこないな。ようやく口を開いたかと思ったら、出てきたのはこんな小さな言葉だった。
「なんか、ちょっと恥ずかしいな……」
「そう?」
その時、一矢の頬がほんのりと紅く染まっていたのに、私は気づいていない。




