28話 忘れられない夢
今日から私は、2段ベッドの上で寝る。
相変わらず、きょうだいなんて一人もいないのに、何故か2段ベッドがあるのだ。
アレンは諸事情により寝る場所が無いので、小人サイズに戻った状態で押入れに銀箱を置き、その上にハンカチの敷布団を敷いて寝た。
そういえば私も、修学旅行の時に似たような事をやった覚えがある。
押入れの中に布団を入れたまま、普通に寝たのだ。それなりに暗いので寝心地は良かったが、間違えて戸を閉められたりしないか心配だった。
あれは結果的に壁に頭を打って目が覚めたし、アレンも銀箱の壁で頭をぶつけて起きられるだろう。
「あ〜、千羽鶴…… 千羽鶴折りませんかぁ、ししょー」
癖が強いアレンの寝言を聞きつつ、柔らかい掛け布団を脚に絡めて、ひとり物思いに耽る私。
"ししょー"という聞き覚えのない単語が気になったが、そんな事など今はどうでもよくなるくらいに、私の意識は脳の方へ引き込まれていた。
ところで、取り残された2段ベッドの下には何があるのか、少し説明させてほしい。
小さなカーテンがかけられているあの場所には、魔法道具と趣味の物と、今までに買ってもらった古いお人形でいっぱい。
それに、部屋の片付けをするなら、物置は下の方が楽だろうと思ったのだ。
原寸大に戻ったアレンも、その気になれば勿論入る事ができるのだが…… 何より会って三日の相手と、同じベッドで一緒に寝られるはずがない。
第一、彼が千羽鶴やら何やら言っているのを、2段ベッドの上から聞きたくないのだ。
というわけで、唯一眠れそうな押入れも小さいから、アレンはちょっとばかし縮んで就寝。あの時の私の魔法が助けになったのか、自身の体の大きさを自由に変えられるようになったらしい。
彼は銀箱の周りに蚊帳の様な魔法陣を張り、ぐっすり眠っている。
私の2段ベッドには、小学校に入ってからずっと使っている目覚まし時計もセットしてあるし、絶対起きるだろう。それでも起きなかったら、彼の蚊帳状の魔法陣を、思いっきり引っぺがしてやろうではないか。
私は薄い布団の中で一昨日の夢のことを考えていた。
あの夢の意味は一体何だったんだろう、何故彼は私に"忘れないで"と言ったんだろう。何故それを言った少年は、アレンにそっくりなんだろう。そうこうして悩んでいるうちに、かちかちと時間は過ぎていく。ぱっちりと開いた黒い瞳は、未だに眠る気配を見せない。
勿忘草の丘の夢、アレン似の少年、忘れないでという言葉。銀色の箱についていた、碧い勿忘草の髪飾り。今日の午後に、ようやく夢の中の少年と同じサイズになったアレン。
もしかしたら、何か関係があるのかも……
いやまさか、そんなはずない。私はあの丘を見たことがないし、あんな場所でアレンと会った覚えもない。年だって、あの夢の中では結構離れていた。
そもそも彼自体、アレンじゃなくて一矢だったという可能性もある。でも、どっちにしろ夢に出てきた理由は分からない。それに彼の一人称は僕だったし、一矢には顔に二つのホクロがある。
他の可能性があるとすれば、アレン以外の魔法使いによる幻術か。
とすれば、あれは予知夢?
いやいや、そんなはずはないだろう、あれは単なる夢なんだから。無意識の中でごちゃごちゃになった記憶が、夢の中に出てきただけ。記憶が呼び戻されたってことになると、やっぱりあそこに行った記憶があるってことになってしまうけれど、人間の夢としてはこっちの方が正しいし。
大丈夫、大丈夫。悪い事は絶対に起こらない…………
そうやって自分をなだめているうちに、いつの間にか眠ってしまったようだ。




