27話 まだ三日しか経ってない
「あぅぅぅ……」
「アレン、生きてる!?」
軽い気持ちでアレンに魔法をかけた私は、ただ単に原寸大のサイズに戻れと念じて指先をを振り上げたから、小さな水素爆発の様な音と同時に白い靄が吹き出したせいで酷く焦っていた。
突然の出来事に混乱し、人影が見える方向を目指して必死に靄をかき分ける。涼しげな深い靄の中で、本来存在しないはずの、薄い布地に包まれた細い腕が、私の切り揃えられた爪先に当たった。
それで、今に至る。ついさっき、アレンの弱々しい声が聞こえてきたところだ。目を見開いた私の隣に、私と同い年くらいの少年が、薄く苔の生えた庭石の上に座っていた。少年の見た目は、少しだけ大人びた感じの一矢。未だに落ち着きがなく、きょろきょろと自分の身体を見回している。
……多分、私の魔法が成功したんだろう。
しばらくして状況を把握したアレンは、私の方を見て微笑む。
「雪菜ってやっぱり凄いなぁ。僕がちょっと教えただけですぐにできちゃう。羨ましいよ」
「あ、ありがと。まさか本当に成功するなんて思ってなかったから……それに、私がすぐに出来たのは、アレンの教え方が上手かったからだよ」
「えへへ、そうかな。ありがとう!」
そう言うと、アレンは恥ずかしそうに笑ってみせた。頭をかきながら、内心とても嬉しそうに微笑む。彼の花開くオーラを伝えようとするように、水のような丁度いい冷たさの春風が、私の指先をすり抜けていった。
「わぁ、雪菜って真正面からみるともっと美人だね!ショートなのも可愛いし」
「ありがとう…… でも、そういうのは本当に大事な人にしか言っちゃ駄目だから。分かった?」
「え、あの、承知いたしましたー!」
割と大事なことを彼に教えたつもりだったのだが、それを聞いた彼は幾分か戸惑った感じで返事をする。だったらあんたの顔とその行動は何だ、情けない。なんて言ってやろうかと思ったけど、私はアレンが元に戻ってくれた事だけが嬉しかったからやめておいた。
ただ、嬉しかった。まだ出会って三日だけど、これから一緒に暮らしていく人だったから。役に立ててこんなに褒められたのは、あんなに温かくて優しい笑顔を向けてもらえたのは、叔母さん以外初めてだったから。尊敬してもらえたのは、澪以外初めてだったから。
アレンの笑顔は、叔母さんとはまた違う温かさがあった。彼の笑顔をもう一度横目で確認するたび、無意識に口元が緩む。
「あ、雪菜笑ってる! やっぱり可愛いよ!」
「ちょっと、屋外だからあんまり大声で言わないでっ!」
「ごめんごめん。でも周りには見えないんだから、いいじゃないかー」
「もう……」
小さくか弱いものを守りたいという気持ち。
恋とは違う、暖かい想い。
これから守られるのは、どっちなんだろう。




