25話 快晴の空を見上げて
銀箱の中でぐっすり寝ているアレンを起こし、203号室の白猫がうちの郵便箱の上で寝ていた日曜日。太陽が輝く快晴の空の下で、今日から本格的な魔法の訓練が始まる。
私は箒と杖を持って、自宅の庭の芝生に立った。すでに浮遊魔法で移動していたアレンは、うっすら苔の生えた庭石に登って、小さな人差し指を振りながら何かを呟いている。
「それでは、第1回魔法訓練を始める! 覚悟はいいか貴様ァ!?」
「はいよ」
「あぁ、今のはふざけただけだから気にしないで。それから、さっき呟いてたのは僕らが周りから見えないようにするためだよ。……変な勘違いしないでね!?」
「しないしない」
妙な言動を繰り返すこいつが、私に魔法という訳の分からない事を教えるのか…… とても心配だ。そのままアレンをよーく見ていると、本当にアレンの事が心配になってくる。呆れたという意味ではなく、本当に。
だって、もしも本当に箒で飛べるなら、その訓練の時には一人でやらないといけない。アレンが瓶や試験管を使って何かをやるなら、それが小さすぎて見えないかもしれない。だって、彼はまだ小人だから。今はまだ小動物にしかなれないと、昨日言っていたから。
訓練中に何か事故があったら、彼はうまく対処できないだろう。周りの小さな生き物達から身を守るのは、彼にとってとても大変な事だろう。
なら、彼が元の姿に戻れるようになるまで、私が魔法を使いながら守ってあげよう。小さくなった原因を見つけて、魔力が足りなければ私が補ってあげれば、彼だってずっと楽になる。そのために、私はここで精一杯努力をしよう。
退屈な日々を過ごす私に、その小さな手を差し伸べてくれた、アレンの為に。
「まずは箒の乗り方を教える! 箒にまたがり、飛ぶイメージで地面を蹴るんだぁ!」
「イメージだけか。よっと」
アレンの言う通りにして軽く地面を蹴ったら、若干ではあるが体がふわりと浮かんだ。小1の頃にやった自転車の練習とはまた違う感じ。だが、まだ慣れないので物凄く小刻みに震える。何回かやって慣れてくると、少しくらいなら周りの様子も確認できるようになってきた。
おー、アレンがいるぞよ。アレンは相変わらず小さいぞよ。
ちなみに、箒にまたがっている感覚はあまり無い。しいて言えば、箒を掴みながら身体全体が浮いている感覚だ。じゃないと痛いでしょ、全体重が箒という細い棒にかかったら結構痛いでしょ。
そんな感じで浮遊する私を見たアレンは、私自身のの心のツッコミなどおかまいなしに声を上げる。
「ああああっ 雪菜! よそ見しちゃダメだよ!」
「うわぁっ!?」
「大丈夫ー!?」
……よそ見に慣れるまでには、まだ時間がかかりそうだ。
こうして私達は魔法の練習を続け、自分の得意な魔法が氷魔法であることを再確認し、風魔法でアレンを庭石から吹き飛ばしたのだった。突風というにはまだまだ弱い風だが、魔法に慣れてくると台風並みの風を吹かせることも出来るようになるらしい。風というのは場所によって様々な向きに変化するので、使うのであれば難しそうな魔法だなと、私は顎に手をあててうーんと唸った。だが、ちょっと使うだけなら夏には電気代の節約にもなるし、これはこれで役に立つではないか。
私が魔法の素晴らしさに感心している頃、アレンは自分自身に浮遊魔法を使って、なんとか庭石の上に戻ってきたのだった。




