21話 消えたゲームは空の上
喫茶店から帰って来た後、叔母さんは私とアレンに留守を任せて買い物に行ってしまい、暇になった私達は魔法の練習をしながらあのゲームを見てようかと思っていた。魔法の練習と言っても頭の中でイメージをするだけなので、なんだったら遠隔魔法でコントローラーを動かしてみようか。
叔母さんの寝室に置かれているゲーム本体のスイッチを入れた後、テレビの真っ黒な画面が白く光る。その後すぐに画面は暗くなり、中央の四角い枠の中に、問題のあのゲームが浮かび上がった。スタート画面は蛍のような光が飛び交う夜の森、時折黄色いワンピを身につけた妖精がこちらを覗き込む。彼女は無邪気な妖精で、この森で倒れていた主人公をサポートしてくれるのだ。
「Spirit of the World」というゲームなのだが、こいつのパッケージには製作会社やお問い合わせ先が何処にも書かれておらず、ネットで調べてもそんなゲームは全然見つからない。ゲーム本体は最近発売されたばかりの新品で、普通に売られている物なのだが、一体何故……?
ゲームにはこれといって不具合があったわけでもなく、カセットの方も目立った損傷はなかった。推理して答えが見つからないのであれば仕方がない、正直に澪に話すしかないか。
「雪菜ちゃーん、澪ちゃんから電話ー!」
いつの間にか帰って来ていた叔母さんの声が下から響き、その音波は階段の狭い壁を跳ね返って寝室の扉を震わせる。彼女の呼び出しの大声にくっついて、「愛しの澪ちゃんよー!」という言葉が聞こえた気がするが、彼女が澪のことをどんな目で見ているのかはあえて聞かないでおく。
急いで階段を降りて居間に行き、叔母さんから受話器を受け取ると、向こうから機械を通した親友の声が聞こえてきた。
何かあったら電話で連絡し、何もなければ荒沢中央小学校で午後1時半に集合と言われていた気がする。彼女が今電話をかけてきたということは、何か予定の変更があったのだろうか。
「もしもし澪、どうかしたの?」
「やぁ雪菜、一緒に遊ぶ人数が増えるんだけど、いいかな? 最初に一矢が一緒に遊びたいって言い出して、ついでに森野勇助っていう子が来るんだ」
「あぁ、知ってる人だから大丈夫だよ。それと澪、実は叔母さんがくじ引きで当ててきたあのゲーム、一昨日見てみたら消えちゃっててさ…… ごめん」
「え、マジ!? もしかして、ゲームの不具合でもあったの?」
「多分そうだと思うんだけど、実際はよく分からなくて。とりあえずそっちに行って詳しく説明するね」
「うん、じゃあ1時半に小学校ね!」
「了解」
彼女に事情を話せた分、多少は心が軽くなったので、叔母さんのでりしゃす昼ごはんもきちんと食べる事ができた。昨晩はいつもと様子が違ったから、叔母さんとちびアレンに心配されたのに。人間の精神というのは、こんなにも不安定なものなのだろうか。
私の場合、つい昨日あったばかりのアレンに心配をされてもどうってことはないのだが、いつも私を気にかけてくれている(恋愛は余計)叔母さんさえも心配させてしまうのは誠に申し訳なかった。昨日も今日も体調は特に悪くなく、今となっては最近の自身の健康さが不思議でならない。
「ねぇ雪菜、僕も一緒に連れてって!」
「いいけど、ずっとバッグの中にいてよ?」
「うん!」
叔母さんのでりしゃす昼ごはんを食べ終えた後、私は昨日つくったバッグの中に例のゲームと小鳥のアレンを入れ、駆け足で外の倉庫へ向かう。あの御守りを入れっぱなしだったことに気づかないまま、白い塗装が剥げかけた扉を開くと、少々強い春の東風が私の短い後ろ髪をへこませた。
たとえ何度後悔しても、消え去ったセーブデータはあの青空から舞い降りて来てくれない。なら、もう一度繰り返してやればいいのだ。頑張れば話の内容を思い出せるし、今日は4人で謎解きが出来るかもしれないのだ。いつもよくやっているゲームは最大8人で遊べるが、例のゲームは1人用。でも、謎解きは何人でもできるんだから、それはそれで楽しいではないか。
バッグの中身をもう一度確認した後、アレンに魔導書と杖を入れられたことに気づく。目を泳がせるアレンの頭を軽く小突き、私はヘルメットを着用した。ちなみに、致命的なバランス感覚のせいで、あっても使えなさそうな箒は、私の部屋に放置してある。
ようやく準備が完了し、中学に入ってから使っているベージュの自転車を出す。普段は徒歩通学なので平日は使わないが、小学校の時に使っていた自転車が小さくなってしまったということで新しく買ってもらったのだ。
私は自転車をこいで、待ち合わせをしている学校まで走った。小さな坂を下りる爽快感が、後悔を引きずりがちな私の心を落ち着かせる。水色の鳥に化けたアレンは、自転車の前籠に入れられた鞄の中から外を覗いていた。私は鳥などの生き物には耐性があるから、アレンが鳥に化けられて本当に良かったと思う。私の場合、アマガエルや鼠はともかく、虫なんかに化けられたら大変なことになるからだ。
……そうだ、今度は犬や猫に変身してもらおう。
なーんてことを考えていたら、いつの間にか小学校に着いた。
「お、雪菜~! やっほーい!」
「澪、早いー」
やけにテンションが高い女子、黒田澪が飛んでいる。飛ぶたびに彼女の茶髪がふわりと舞い上がり、着地することによってぺたんと落ちた。これで髪が短い系女子は全員集合完了、残るは男子のみ。
私と澪はたとえ中学になって会えなくなろうと、学校の外で沢山会えるのであれば、接し方なんて変わらないものである。こうして予定の時間より早く来てしまった私達は、正門の隅に自転車を置いて今日の予定を話していた。




