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勿忘草の丘  作者: 中さん
第1章 魔女の目覚め
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20話 儚い恋と喫茶店

静かな店内のカウンター席に座った後、おしぼりで手を温めた叔母さんはモーニングを注文し、オーナーの娘さんと仲良くお喋りしていた。

一応娘さんは叔母さんよりも少し年上らしいが、低身長と麻呂眉と大きめのお口のせいで、どこか幼く見えてしまう。ワンレンボブでグラマーっぽい所しか、大人っぽく見える部分がないのだ。

そんな娘さんの眉間の上には、米粒くらいの大きさの綺麗な赤ホクロ(老人性血管腫?)がある。鼻が"無い"と言っていい程まっさらなのも、彼女の血縁者の特徴だ。

私は彼女らがキャッキャとお喋りしている間に、例のアルバイターを探していたのだが、結局店内には見当たらず。

きょろきょろしていても恥ずかしいだけなので、捜索に飽きた私は、しばらくカウンターの木目をなぞり続けていた。さっき私が手を拭きまくった青色のおしぼりは、布の角が冷たくなりはじめている。


数分後、夕霧特製のフレンチトーストが出る前に、私が勇気を出して注文したハーブティーが目の前に出てきた。湯立つティーカップの模様は、やはり見たことのない形だ。

カップを差し出してくれた、黒いエプロンの下に水玉オレンジの襟付きシャツを来た人…… 名札を見る限り、さっきは見当たらなかったアルバイトの人だ。

悪戯な笑みを浮かべるその人に目を奪われ、青紫のお茶の湯気が僅かに揺らいだ。



「こちら、自家製ラベンダーティーでございまーす。癒しの効果があるって事で、何かあったのかお嬢ちゃん。悩み事があるなら聴いてやるぜ?」



私の周囲に響いたのは、その人のイメージ通りの中性的な声と、叔母さんが証言した男前な口調。

私のことをお嬢ちゃんと呼ぶ、見た目の年齢が10代後半くらいのその人は、片方の口角をクイッと上げて「うちの白猫が世話になったな」と言う。

どうやら、先程の光景をこの人に見られていたようだ。

あの不思議な白猫と戯れていた時は、喫茶店から人の気配なんてしなかったはずだが……

そんな事を考えながらお茶を飲んでみると、体験したことのない香りが鼻の奥にむわっと広がる。


あ、これは無理だ。飲めない。


そばに置いてあった水と一緒になんとか飲み干したが、子供に向かない風味のハーブティーというものは、しばらく飲まないようにしようと誓うのであった。

私を見てケラケラ笑う、その人の深い赤茶色の髪と瞳は、瞳の方が若干色が薄い。どこか私の親友である澪を連想してしまうけれど、言葉遣いはかなり違うことが分かった。

私のベリーショートの黒髪と、最近ボブの長さにも届きそうな澪の茶髪の、中間ぐらいの長さの髪をハーフアップでまとめている。

その赤茶色の頭には、所々ほつれている赤いバンダナが巻かれていた。このアイヌ文様が描かれているバンダナは、その人のトレードマークだろうか。

その人が後ろを向いた時に、赤いバンダナの隙間から見えたバレッタは黒の革製で、隅っこには白いライラックの花飾りが一つだけつけられていた。

バレッタのことを尋ねてみたところ、昔病気がちだった親友が作ってくれた、思い出の品らしい。

名札に下の名前は書かれていなかったが、その人の苗字は"亜瑠斗(あると)"という聞いたことのないもので、本人も「変な苗字だよな」とどこか寂しげに笑っていた。



「また来てくれよ、今度は友達も呼んでさ。ところでお嬢ちゃん、名前は?」

「私、繋木雪菜です。亜瑠斗さんは、どうしてここでバイトをしてらっしゃるんですか?」

「親友に頼まれた調査の為に来てるんだ、去年の6月からな。そうだ、次に来るまでにハーブティーが飲めなかったら、親友直伝のホットココアでも淹れてやるよ」

「が、頑張って飲めるようにしてきますから、心配いりません!」

「そうかそうか、頑張りなー」



私をからかう亜瑠斗さんに、少しだけ反抗をしながら、私達は喫茶店を後にした。

この会話の一部始終を聴いていたアレンは、私のバッグの隙間から水色の頭をひょっこり出して、私にテレパシーを送る。

未だに記憶喪失気味の彼の話は、相変わらずとてつもなく曖昧な内容っぽいが、とりあえず返事をしてあげようではないか。



「ねぇねぇ雪菜、もしかしたら喫茶店のあの人、君が魔法使いだって事に気づいてるかもしれないんだけど……」

「え、だとするならアレンの存在も知ってるってこと? それって大丈夫?」

「まだ記憶が曖昧だから、ハッキリしたことは分からないんだよぉ…… でも、僕や師匠の知り合いのような気がするんだ。多分悪い人じゃない」

「ふーん。じゃあ、アレンはあの白猫とも会ったことがある感じ?」

「喫茶店のあの人と一緒なら、可能性はありそうだね。まだ本来の姿を見ていないから、誰なのかは分からないや」



私は亜瑠斗さんや白猫の事ついて彼と会話をした後、何かを探し出せなかったというような顔をした叔母さんと一緒に、のこのこ家へ帰るのであった。

叔母さんの初恋っぽい人は見当たらなかったが、少なくとも亜瑠斗さんということはないだろうし、一体誰なのだろうか。

それにしても、ゲームのセーブデータが消えた件、澪にどうやって説明しよう……

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