12話 現実的に考えて
「……どうかしました?」
「あ、いや、大丈夫」
魔女になってほしいと言われた瞬間、私の頭に白いアイツの顔が浮かんだ。そう、あの白いヤツ。なんというか、ウサギみたいな見た目で、外見だけなら結構可愛い感じのヤツだった気がする。
いや、そいつの話は魔法少女じゃなかったか…… 魔女ではなかったはずだが。
実際、彼の声はヤツ程高くない。声変わりの最中のような微妙な高さで、ウサギの面影も一切感じられないのだ。
今の白いヤツは関係ないと見て、話を進めた方がいいな。
とりあえず、魔法使いになるとはどういうことだろう。
混乱する私の脳内で、月夜に輝きを散らすトンガリ帽子の少女が見えてくる。魔法使いになったらそんなことも簡単にできて、日々の生活がずっと楽しくなるはずだ。
でも、そんな力を私に与えて、何をしたいのだろう。
それも、あのお嬢様が頼んだことなのだろうか。一体どういう目的なのかも分からないし、さっきからこの小人の言うことは、現実的に考えればありえない事ばかりだ。
どう考えたっておかしいだろう。目の前の15cmの小人が、銀箱に正座しながら「魔法使いになってヨ」とほざいている状況なんて。
受け入れたくない現実をなんとか拒んでいるのに、細かいことは気にするなと、私の信号がビービー鳴り響く。
妙な耳鳴りにうなされ、一度落ち着くために頭を抱え込む私…… そんな私に追い打ちをかけるように、申し訳なさそうに笑うアイツがいた。
「あはは、いきなり魔女になれって言われても困っちゃいますよね」
「うん、困る。魔女になること自体はまぁ、嫌ってわけじゃないから、別にいいけど…… それになっても、この後どうすればいいのか分からないし」
「はい、魔女になって何をするのかはまだ思い出せません」
「……」
なんだか、それじゃ駄目だろと言いたくなった。
状況整理中に口を挟まれた事と、アレンの天才的なボケっぷりに腹が立ち、私は彼をこれでもかと言うほど睨みつける。
そんな私の様子を見て、彼もなんとなく状況を察したらしい。しばらく地面を見て黙り続け、私が深ーいため息をついた後に、ようやく話を再開した。
「でもでもっ、雪菜さんのお母様には魔法使いになってもいいと、許可をとっていますので!」
「私の母さん、今海外にいるんだけど?」
「えっ、雪菜さんって一人暮らしなんですか!? 確かに、並の人間よりサバイバル能力が高そうなお方ですが…… 野生動物の肉も平気だったりします?」
「全然そんなんじゃないし、猪肉は美味しいでしょうが。私、今は親戚の叔母さんと一緒に住んでるの。その叔母さんにも許可はとった?」
「あわわ、そちらはとってないかもです……」
「それじゃ駄目でしょ。まぁ、今夜聞いてみるけど……」
「ああああ、ありがとうございますー!!」
頼りない彼に心配は募るばかりだが…… 今も海外で働きながら仕送りをしてくれる、あの母さんが承諾しているのなら仕方がない。
一応魔女になると言っておこう。話を聞く限り、そこまで大変なものではなさそうだし。この色のない学生生活に少しでも花を添えてくれるなら、この話、断るべきではないだろう。
立ち直ったアレンの地味に長い話によると、私は彼と一緒に魔法の練習をしたり、彼らの故郷の勉強(?)のようなものをやったりするらしい。
魔法を使う方法は意外と簡単で、魔法使いである人々は、頭の中でイメージするだけで使えるそうだ。しかし、その時には出力に応じた体力も消費するので、強い魔法を連続で使い続けると、体力が無い人はすぐに倒れてしまう。
アレンの知っている人にも、体力のない大魔法使いがいるそうな。
私も魔力や体力は十分あるそうなので、明日辺りからちまちま練習していく予定らしい。
……問題はバランス感覚なのだが、なんとかならないだろうか。
で、これは私の母さんも全て知っている事らしい。一体何者なのだろうか、私の母さん。記憶喪失気味のアレンと比べれば、今の所は母さんの方がいろいろ知っている様子。
でも、叔母さんに許可をとっていたかどうかは不明…… 本当にいいのかこれ。
「ねぇアレン、もうタメ口でいいよ。その声聞く限り、歳は近いでしょ」
「あ、わかりまし…… わかった! 確かにそうだね、僕も10代前半だよ」
「ところでさ、何の目的もないまま魔法使いになるなんて寂しくない? だから、今の所は最強の魔法使いを目指すっていう感じで、自分なりに楽しい人生を歩もうと思うんだけど……」
「ありがとう雪菜、そういう目標を作ってくれて。本当に、記憶喪失気味でごめんなさい」
「とりあえず、そっちは記憶を取り戻さなくちゃね」




