109話 花開く二人の従者
私達は百合亜さん達に連れられて、商店街の大通りを越えた西側の道にある、大きな屋敷の前に来た。
青空を写し出す小川の煌めき、雪山の冷風に耐えた逞しくも美しい植物達、その風景の中心にそびえるのがこの建物だ。
ここは、この街の政治などを手助けし、時には魔法使いの依頼にも出向くフェアヴァルト家が建てた屋敷。
百合亜さんは常に日傘を差し、銀の髪にあたる暖かな春の光を遮り続けていた。だから百合亜さんは、他の人よりも色白なんだろうか。紗羅にその事を聞くと、昔から身体が弱くて、体力がないのもそのせいなんだと。でも、伊達眼鏡なのにはまた違う理由があるらしい。
まぁ、紗羅や世羅の肌も血が通ってなさそうなくらい白いけど。そっちはまた違う理由だろうかと思ったが、百合亜さんのもとへ駆け寄る紗羅に、これ以上質問を続けることはできなかった。
アンティークかつ飾り気のない豪華さのある扉を、百合亜さんが片手でノックをすると、クラーレさんの時と同じように人の声がした。
あの時とは違う、低い男性の声が聞こえる。
「ごきげんよう、バトラーさん」
「こんにちは、百合亜さん。おや、今日はミリヤ様のお好きな林檎を…… いつもありがとうございます」
「いえ、ほんの気持ちだから」
扉を開けてくれたのは、水色の髪の執事の様な人。その長くクセのない髪の毛を、後ろで束ねている。
後で紗羅が教えてくれたが、彼の本名はバトラー・エキナセア。名前がバトラーだからと言って、バトル専門の人というわけではない。
一応戦えないことはないと、隣の紗羅は言っているわけだが…… その整った姿と言葉遣いは、まさにこの屋敷の執事に相応しいような気もした。
バトラーさんの苗字のエキナセアは、どこかで咲いていた花の名前と同じ。真ん中にハリネズミのような棘があり、花言葉は"貴方の痛みを癒します"。確か、ギリシャ語のエキノースが元だった気がする。
ところで、私のななめ前にいるアレンが、私の方を振り向いて手話やジェスチャーを使ってきているのだが、一体何事だろうか。
生憎、手話は少ししかできないのだ。今のところ、私が理解して使用できる動作は4つだけなので、頑張る彼にはお疲れ様ですとしか言えない。
あ、そうだ。読唇術はできないが、私はれっきとした魔法使いなのだから、少しくらいなら読心術も使えるだろう。
えーっと、おじょうさまって言ってるな…… え、お嬢様?
バトラーさんの主君であろうミリヤ様って、お嬢様なのか。
結構前にそんなワードを聞いた覚えがあるな、出逢ったばかりの時にアレンが言っていた"お嬢様"のことかも。
確か、私が魔法使いになる一番のきっかけにもなったであろう、お嬢様の頼み事。そういうのは全部、ここで決められていたのだろうか。
百合亜さんは、彼に林檎が入ったバスケットを手渡した後、彼の水色の瞳と目があって顔を伏せていた。バトラーさんの方は気づいていない様子だが、百合亜さんの顔がちょっと紅いような…… これは新しい情報だが、それよりも知里花さんのバトラーさんに向けた視線が怖い。この案件については、しばらく放っておくべきだろうか。
そういえばあの林檎は、この屋敷のお嬢様へのプレゼントだと、クラーレさんも言っていたな。
「えぇ、あの子に渡して頂戴。あと、今日はそのミリヤさんに用があるの。案内してくれる?」
「かしこまりました。皆様もご一緒なさいますか?」
「いいえ、私とクラーレさんだけでいいわ。他は"彼女"に任せていい?」
百合亜さんはそう言って屋敷の奥の方を覗き、私達の方向へ走ってくる10代くらいのメイドさんを見つけた。一方、手渡された林檎に気を取られていたバトラーさんは、背後から迫る彼女に気づかない。
「はーい! みなさーん、ご案内しますの!」
「うわっ!? いきなり大声出さないでくれよ、新米メイド……」
【バトラー・エキナセア Butler・Echinacea】♂
《忠実多忙な青年執事》 戦闘方法:暗器(遠近両用)、ボウガン、体術
〔好きな物〕主人、うさぎ、靴磨き 〔嫌いな物〕梅干し、藁人形、暑さ
豆知識… 187cmで20歳(もうすぐ21)。年下には百合亜と主人にだけ敬語。何故か知里花に毛嫌いされ、困惑中。脱ぐとすごい。
ひとこと「新米メイドが雇われたのは、良い事なのかどうなのか……」




