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勿忘草の丘  作者: 中さん
第3章 僕は君が好き、君はあの子が好き。
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107話 失わないという誓い

【百合亜 視点】

「はぁ………」



重いため息をついて、私はエルティエの魔導書を本棚にしまう。机の近くにある窓、そこに大切な魔道書と同じ色の瞳が映り、銀色の髪が陽だまりに反射した。

お母様の紫色の瞳と、お父様の銀色の髪…… 私は双方の色を継いでいる。でも、私はお父様のことをよく知らない。どこの出身なのか、なんの種族に属しているのか、それと2人が結婚する前のお父様の苗字も。最近では顔も思い出せなくて、まして声なんか覚えているはずがない。昔はそれを知らない事が嫌で嫌で仕方がなかったけれど、今では軽く思い悩む程度になったというのも、自分自身の薄情さにまた嫌気がさす。

ついには親友にストレスフルかよと心配され、気づけば妹の知里花とも上手く接することができなくなり、さらに解決策も見当たらないという負の連鎖。知里花は私を大事にしてくれているし、私も彼女の事は命をかけてでも守りたい。私達の会話がぎこちないのは、苦笑いの雷華に言われたとおり、私の方が気を遣いすぎているからなのか…… こればかりは、自分が頑張って克服するしかないのかしら。

そんな私の最大の悩みである"奴"の襲撃は、今回で4回目。東部の一部の住宅街が破壊されたけど、前よりも被害は小さかった。それでも死傷者が出たことに変わりはなく、家族を失った悲しみに暮れるていたはずの人々が、私の家を後にして帰って行った。それでも、去っていく彼らの背中に、暗い感情はあまり無いような気がしたわ。彼らはまだ諦めていないし、もう一度平和な日が訪れると、信じ続けている。数年に一度、悪霊が街を破壊し命を奪っていくことを、酷く恐れているわけではない。

また作り直せばいいと、はにかんだ笑顔で言ってくれるのだ。何処からそんな元気が湧いてくるのか分からないけれど、彼らの優しさがあったからこそ、この街は何度もやり直す事ができたの。前の襲撃で街を出てしまった人も、あっちの世界で喫茶店やアパート経営をしながら、いつも私達を助けてくれる。やはり、この街の人々には感謝しかない。日之影家やフェアヴァルト家も、街の皆に信頼されている分努力しなくては。

もうこれ以上、幸せを失いたくないから。

お母様も、お父様も、数少ない友人も、もう失うことがないように。



「ただいまー!」



雷華が帰宅した時には、大きな開閉音と共に彼女の無邪気な声が聞こえる。まるで、遊びから帰ってきた子供の様に。私は彼女と接する時、元々の性格せいか冷たい表情と冷めた口調で接してしまうけれど、本当は優しい彼女が大好き。

だって、雷華は私の初めての友達だから。

私がどんなに素直じゃなくて、引っ込み思案で、泣き虫でも、雷華は私のそばにいてくれた。もしかしたら、素直じゃないのは世羅の方が勝るかもしれないけど…… 幼い頃のあの日の様に、ずっと一緒にいられたらどんなに幸せなことか。

いつか私が素直になったら、"ありがとう"と真正面から伝えたい。その日が来るまで、彼女が命を落とすことがないように、慎重に冷静にやっていかなければ。

………あぁ、考え事なんかしていないで、早く皆を出迎えないと。



「おかえりなさい。ケミストリーの街はどうだった?」

「道に迷って賊に捕まったんだ。ホント散々だったぜ」

「悪運が強いのね」

「それな」



扉の隙間から東雲色(しののめいろ)の髪が見えた気がするけど、今日はクラーレさんも来ているのかしら。雷華曰く、くじ引きであの氷魔法が得意な子が、果物の詰め合わせを当てたみたい。結構な量があるみたいだから、後でちゃちゃっと切ってしまいましょう。クラーレさんと話が終わったら、皆でフェアヴァルト家の人々に会いに行かなくちゃ。

あの氷魔法の子達より少し年上の、林檎好きの子が待っているから。

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