101話 見習い魔導師の本気
「おかしいなぁ…… 確かに近づいてきてるはずなのに」
城の中を突き進むと同時に、紗羅の手に浮かぶ淡い水色の光は、段々強くなってきている。しかし、我々の表情は一向に明るくならない。目的地に近づいてきているのは事実なのだが、世羅達が見つからないのも事実なのだ。そんなこんなで先程の森の時のように、とりあえず適当に城内を歩き回っている。
あぁ困ったな、このまま場内を歩き回っていてもらちがあかない。さすがに夕方までには戻らないと、叔母さんも心配するのに。それに、ずっと魔物と戦っていた二人も疲れてきている。特に紗羅なんかは、一緒に戦っているアレンを守る形で立ち回るので、既に可愛いお顔の眉間にシワが入っているという状態。戦力となっている二人の内一人だけが疲れているなんて、非常にバランスが悪い。
アレンは前衛に出たいと思っているようなのだが、ちょっと心配性で意地っ張りな紗羅が、良いわけないでしょと言って中々許してくれない。彼女はあの街の光景にはあんなに怯えていたのに、たったひとりで魔物を抑え込もうとしているのだ。
自分が守ってあげなければと、謎の責任感を背負って、矛盾する心に苦しんでいる。本当は助けて欲しいのに、ひとりは凄く怖いのに…… 月曜日の時だってそうだ、泣きながら私達に訴えていたじゃないか。
必死な彼女の様子を見ていると、アレンの方も本気で心配してきたようで、遠慮がちにも彼は紗羅に呼びかける。
「さ、紗羅さん。疲れているなら僕が魔物を倒しますので、無理だけは絶対にしないでくださいよ?」
「だから、私は平気だってば。そんな事よりも早く片割れを見つけなきゃ」
「あぅ……」
しかし、そんなアレンの言葉など御構い無しに笑う紗羅。彼女は早く仲間の無事を確認したいとでもいうように、どんどん前へと進む。彼女にとっては、自分の命よりも片割れを救出する方のが大事なのだろう。
そこまでして守りたい物があるだろうかと思うと、真っ先に世羅や雷華さん達の顔が頭に浮かんだ。えっと、この人達は確か、紗羅の大切なもののひとつ。確か、月曜日に言っていた、あの言葉の中にあった。
"小さい頃から一緒だった大切な人々"
紗羅が守りたい物はそれだ、彼女は幼少期から孤独を恐れている。
そう感心していると、よそ見していた私の側に大きめの魔物がいた。顔のない魔物は私に標的を定め、鉄のような腕を容赦なく振り下ろす。風を切るその腕はとんでもなく重そうで、一発当たったら死は確定だろう。
あぁ、まだ死ぬ覚悟すらできていないのに。もう少しだけ有意義な人生を過ごしたかったと、私はぼんやりとした瞳で魔物の黒い手を見つめていた。
……しかし、私には未だ金槌の様な腕で頭を打たれた感覚がない。
「雪菜、怪我してない!?」
「! ……う、うん。平気」
ふと意識を戻すと、目の前には綺麗にバラバラになった魔物の残骸が、黒い霧を出しながら消滅している所だった。真っ黒なロボットの様な魔物だったので、むせかえる様な血の匂いも、生々しい返り血も、アレンと私の体にはついていない。その残骸を見た瞬間、もう一度あの瞬間が蘇る。
瞬殺だった。アレンのあの表情、魔法の力、身のこなしまで、全てがいつものアレンと違った。まるであの時と同じ、霰粒橋で刀を交えたあの時と……
「き、気をつけてね、雪菜……」
「ごめん」
「ほらほらみんな、もう目的地が近いわよ~」
「本当ですか!?」




