96話 ズィーゲルの森の獣人
「なぁ紗羅、本当にこの方向で合ってるんだよな?」
「う、うん。アルセニック湖にはサフィロの花が繋がってるはずなのに……」
花を探して辺りをうろつく紗羅に、慣れない環境で心配になった一矢が声をかける。私達はアルセニック湖の近くの場所にワープしていたので、そこへの入り口であるズィーゲルの森につくのにはあまり時間がかからなかった。ちなみにこの森の名前、個人的に発音が難しいので、もう2度と口に出したくない。
そして、私達の問題は森に入ってからが始まりだった。入り口からアルセニック湖に道筋の様に続くサフィロという特殊な花があるのだが、今は中々それが見つからない。仕方がないので今は適当に歩き、紗羅の方位磁針でなんとかなっている状態なのだ。
またテレポートを使えばいいと思っていたのだが、ここは森なので大きな目印がなく、かといって大きく移動すると世羅の身体が危険だ。あの日と同じ様な黒猫には変身できるのだが、まだ体調が万全ではないため、無理に動くと余計に負担がかかってしまう。
「サフィロの花って確か、綺麗な瑠璃色の花粉が有名なのよね…… 日光や月明かりで蒼く光り輝くらしいけど、そんなの見当たらないわよ」
「一矢が疑うのも仕方ないって所かぁ、昔来た時はもっと蒼かったんだけどなー。あの花、ラピスラズリの宝石みたいで綺麗でさ、大海原の夜空っていうか……」
「そうよ、絶対コレも"奴"の仕業よ! 今度会ったらマジで許さないんだから!」
「この間あんなに怯えてたのに、よく言うぜ……」
「ななな、なんで知ってるのよ。らい姉も来てたの?」
「いーや、アイツがチクった」
「あぁアイツ……」
紗羅と雷華さんの会話で聞こえてきた、アイツというのが誰なのかは分からない。もしかしたら、ルシア状態の紗羅がたまに探していた、あの人影のことなのかもしれない。
こんな感じで歩き続けて、5分くらい経った頃だろうか。様々な植物の蔓に絡まった木々の隙間から、天から差し込む太陽の光とは違う、柔らかい金色の光が漏れ出ている。
その先から出てきたものは、人でも幽霊でもない。白の混じった茅色のふんわりウェーブ髪を、腰につきそうな程の長さに伸ばした、8つぐらいの歳の少女。ピンと立ったふさふさの尻尾と、頭のてっぺんに生えた二つの耳が、彼女が普通の人間でないことをものがたっていた。
可愛らしいススキの様な金の髪飾りが、僅かな木漏れ日に反射する。撫子色のベルトにつけられた鮮やかな花と、白い瞳と同じように輝く水晶玉が、光り物に興味がある私の目を奪った。
「貴方達、道に迷ったのですか?」
「え、えぇ。クラーレさんを訪ねてこの森に来たんだけど、アルセニック湖に続くサフィロの花が全然咲いてなかったの。だから、さっきまで方位磁針でなんとかしてて…… 迷った」
「それはお気の毒に…… 確か、貴女は日之影さんの家の紗羅さんですね。ここまでお疲れ様でした。クラーレ先生の所には、私が案内いたします」
「わぁ、ありがとうルピナス! 遭難しかけてたからどうなるかと思った……」
こうして遭難していた私達は、このルピナスという獣人さんに助けられたのだった。
彼女は体が幼いのに、精神はとてもしっかりしている。その上、この辺りの地形はほとんど把握している様子だ。頭がいいのか、それとも単に精神年齢が大人なのか、この不思議な世界であればどちらもありえそうな話だが…… もし何百年も生き続けているとするのなら、あっという間に過ぎ去る時の感覚が、どんなに切ないものかも理解できるのだろうか。
顎に手を当て、しばらく考え事をしながら歩いていた私。そのまま草木を分け入って進み続けること数分、無表情な彼女が少し心配そうに目を伏せて、振り向きざまに私達に口を開いた。
「この辺りは稀に人攫いの魔物が出ますので、お気をつけください」
【ルピナス Lupinus】♀
《迷子を導く救いの遠吠え》 戦闘方法:獣化、マチェット
〔好きな物〕薬草、満月、ハープ 〔嫌いな物〕大きな石、井戸、戦争
豆知識… 身体年齢8歳。狼に変身可能。現在はクラーレさんの家に住む。
ひとこと「私、こう見えても100年は生きています」




