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転移列島  作者: NAO
アナザーワールド編 昏迷胎動
321/462

関東近海攻防戦 ①

2027年(令和9年)3月27日午前7時【東京都千代田区永田町 首相官邸】


 統合幕僚長が後白河副総理に、此処に来てから三度目となるUSO迎撃作戦について説明を行っていた。


「何度もご説明したように、状況は逼迫しております。直ちに防衛出動を命令して下さい!

 シビリアン・コントロールの名の下、立憲地球党の政務隊員が指揮系統に介入している状況では、防衛出動準備命令までしか認められていないのです!

 このままUSOを迎撃すると、自衛隊が憲法違反を犯す事になってしまいます!」


「統合幕僚長。私は外遊中の我妻総理から、非常事態に於いて"党・政府が一致して"対応する事、と強く言い含められていてね。

 シビリアン・コントロールを重視する代々木の立憲地球党党本部を尊重せねばいけないのですよ。どうか、そこのところをご理解頂きたい……」


 ソファーに座ったまま、統合幕僚長に頭を下げる後白河副総理。


「代々木は何と言っているのですか?」


「直ちにNSC(国家安全保障会議)で検討し、国会承認を得た上で防衛出動命令を発出すべきだと言っている」


「遅すぎます!巨大ワームは国会承認を待ってくれません!

 国会承認は緊急事態を除いた場合の用件です!今この瞬間、国民の命が危険に晒されているのです!」


 テーブルにバン!と手を叩きつけ、向かいの後白河に詰め寄る統合幕僚長。


「統合幕僚長。前政権では拙速な判断をした結果、北米大陸攻略作戦で陸上自衛隊にどれ程の犠牲者が出たと思っているのかね?ここで対処を誤れば政権は持たないのだ」


 統合幕僚長に詰め寄られても、態度を変えない後白河副総理。


「……副総理。犠牲者ではありません。戦死者です。自衛隊員は国家の危機に立ち向かった結果、戦死してしまう事も理解した上で入隊しているのです。

 指揮官の誤った作戦指揮で有れば、その責めは指揮官が負えばよろしい。今の状況で市民に犠牲者が出た場合、私の他に副総理までもが責任を負う事になりますが、それでもよろしいのですか!?」


 後白河副総理の苦り切った表情が更に渋くなっていくのが統合幕僚長にも読み取れたが、防衛出動命令まで更に1時間を要するのだった。


          ♰          ♰          ♰


2027年(令和9年)3月27日午前7時50分【千葉県銚子市沖15Kmの太平洋】


 久し振りに火星日本列島海域に侵入した海ワーム達は、ご馳走にありつく前に沸き立つ歓喜の感情を全長200mの巨体を大きく波打たせ、海上を素早く突き進む事で表現していた。


 直径5mの大きな口の周辺に無数に生える髭の様な触角が、目前に迫る陸地から流れる大量の生物の匂いと暖かい海水を感知しており、アルテミュア大陸沿岸部で生まれて以来となるご馳走に興奮していた。


 同時に、ご馳走と共に害意を持つ存在から放たれた電波信号を察知した巨大ワーム達は大きく群れることを避け、本能的に別々のご馳走へ向かい始めるのだった。


 こうして銚子市沖まで侵入した巨大ワーム達は、ご馳走の匂いが漂ってくる河川の千葉県外房沿岸部を北上するグループ、内房の東京湾から流れる暖かい海水を感知して南下するグループの二手に分かれていくのだった。


 燃料切れで現場を離れたPー1哨戒機の後を引き継ぐべく、館山基地からシーホーク対潜水艦ヘリコプター1機が到着したが、巨大ワームはソナー探知範囲外へと移動していた。


 対潜ヘリコプターはやむを得ず現場判断で増援哨戒機到着までの間、スモーク投下地点外周にソノブイをまばらに投下して捜索するしかなかった。


 20分後、かろうじて外周北端に投下したソノブイが北上する複数のUSOを探知すると、東京市ヶ谷の防衛省総合指令センターは統合幕僚監部から派遣された立憲地球党政務隊員の意向により、対戦車ヘリコプター部隊と習志野市に駐屯している陸上自衛隊第1空挺団、埼玉県大宮市に駐屯している第1師団第31普通科連隊を霞ヶ浦駐屯地に移動させる命令を発令するのだった。


 更に30分後、警察庁政務隊員からの指摘で国民への告知を失念していた事に気付いた防衛省総合指令センター付き政務隊員は、Jアラートを千葉県、茨城県に発令、両県沿岸部住民の内陸部避難を指示するのだった。


          ☨          ☨          ☨


2027年(令和9年)3月27日午前8時40分【関東地区 千葉県・茨城県】


『—――—――千葉県、茨城県沿岸部に重大な脅威が接近中です。海岸沿いの住民は内陸部に指定された防護施設へ避難してください』


 テレビ・ラジオ・防災無線を通じて午前8時40分に発令されたJアラートは、通勤・通学途中の千葉県、茨城県住民をパニックに陥れた。


 そもそも、重大な脅威とは何か?沿岸部とは何処までを意味するのか、内陸部とは何処になるのか?要領を得ないJアラートに地方自治体と住民は、4年前に北海道稚内市を襲った巨大ワームの惨状を思い出しながら各々の想像に従って行動を始めるしかなかった。


 通勤・通学途中の会社員や学生達はJアラートに従って直ちに職場や学校を出て東京、水戸方面へ避難するべく最寄り駅に集団で殺到し、一部の会社員や学生は水素エンジンに切り替わった自家用車で避難を試みたが、ガソリンスタンドを改装した水素ステーションは電力不足で水素を生成出来ない為に閉鎖中であり、道路や交差点の真ん中で水素燃料が尽きて立ち往生する車が続出した。


 Jアラートを受けて緊急出動した警察・消防車輌は立ち往生した一般車輌が道路を軒並み塞いでいた為に各所で大渋滞に巻き込まれ、結果として住民への避難誘導に致命的な遅れが生じる事となるのだった。

ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m


【このお話の登場人物】

・後白河 政則=日本国内閣副総理大臣。財務大臣と外務大臣を兼務。

 元自由維新党党員。澁澤首相暗殺未遂事件の後、岩崎に造反して離党、立憲地球党に合流した。

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