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転移列島  作者: NAO
火星編 コンタクト
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交信

2021年9月2日午前5時【東京都三鷹市 国立天文台三鷹キャンパス内】


「予定よりも早くお集まり頂いて申し訳ございません。緊急のお話があります」

JAXA理事長の天草が、各国宇宙関係者を前に恐縮しきりに挨拶する。


「昨日、孤立している我々に向けて通信を送ってきたと思われる存在が我が国で発見されました」

天草が衝撃的な情報を伝えた。


「抜け駆けとは、誠実な日本人らしくない」

極東NASAのゲイツ所長が皮肉たっぷりに言った。


「いつもフェイクニュースばかり公表する貴国が言えた分際か?」

極東ロシア宇宙庁ボストークのマレンコフ通信局長が言い返した。


昔の米露冷戦を思い出してうんざりした天草理事長が割って入った。


「抜け駆けではありません!30年前から、貴国駐留軍司令部であるコマンド・ケイプが常時監視している場所なんですがね」


「まさか!あそこ(尖山)が動いたのかね!?」

驚くゲイツ。


「はい。厳密には動いたと言うか、目覚めたと言うのが正確な所です」

天草が説明した。


「我が国の接触者によると、彼らは同胞達から孤立している様です。今回のコンタクトを送ってきた相手ではありません。尖山での接触については、これから行うコンタクトが終わり次第、全ての情報を開示します」


「まずは1つ1つ、やるべき事をやりましょう」

天草がコンタクト開始を宣言した。


 各国は反対しなかった。


          ♰          ♰          ♰


 同日午前8時、東京上空にぽっかりと空いた"穴"へ向けてミリ長波の電波が指向されて発信された。


「ハロー、こちら地球日本国。応答せよ」


 国際合同交信チームのリーダーであるJAXA理事長の天草が呼び掛ける。


 しばらくすると、自動的に国立天文台電波望遠鏡管制室のメインスクリーンに、頭髪のない、鱗に覆われた顔が2つ映った。予想されていた事とは言え、人類と異なる異星人の容貌を目の当たりにした各国メンバーが息を呑む。メンバーの中には、驚愕のあまり首に掛けたロザリオを握りしめて神の名を呟く女性研究者もいる。


『初めまして。第3惑星の皆さん。私はマルス・アカデミー・プレアデスコロニー・メローネ研究所のアマトハです』

たどたどしい発音だが、明瞭な声音をした日本語で話す異星人。


『同じく、プレアデスコロニー・ケラエノ研究所のゼイエスです』

二人とも鱗の色が白銀と銀色で微妙に違うが、同じ爬虫類から進化した人類と思われた。


 アマトハが送った通信は、琴乃羽が見つけた神代文字で解読し、日本語とほぼ同じ発音だと認識されている。実際にスクリーンから聴こえる音声も、日本語のそれだった。

 天草の横で耳を傾ける各国メンバーへは、同時通訳で伝えられている。


「私は日本国宇宙航空研究開発機構(JAXA)で理事長を務める天草です。私の周りにいる他のメンバーも各国宇宙機関の代表です」


 周囲の各国メンバーを紹介していく天草に合わせ、ぎこちない表情で異星人へ挨拶する各国代表。


「私達は自らを、太陽系第3惑星『地球』で進化した人類なので"地球人"と呼んでいますが、アマトハさん達の場合はどう呼ぶのが正しいのでしょうか?」

天草が尋ねた。


『天草さん。私達は太陽系第4惑星「マルス」出身です。

40億年前、マルスが将来生存に適さなくなると予知したために、プレアデス星団へ移住しました。ですから、私たちの事は"マルス人"と呼んでください』

アマトハが答える。


『初めまして、ゼイエスです。天草さん達は永年、マルス・アカデミーが観察していた第3惑星で進化されていたはずですが、何故「マルス」にいらっしゃるのでしょうか?』


 ゼイエスは、自分達マルス人が生命を作り出し、生命の進化を司ったとは言わなかった。

 ゼイエスの質問に対し天草は、日本列島が大規模な戦乱に巻き込まれて消滅の危機に瀕した事、その際、電磁フィールドらしきもので列島が防護されて火星へ転移したと説明した。


『……そうだったのですか。その電磁フィールドは、私達アカデミーが設置した生態系を見守る為のものです。

  "普通の天変地異"では稼働しませんが、"生態系そのものが消滅の危機にさらされた時"に限り作動するものです。転移システムは、電磁フィールド内部の生態系を最大限ありのまま維持するように設計されているのです』

ゼイエスが説明した。


「……なるほど。私達はマルス・アカデミーのおかげで命拾いしたと言うことですね。では、この通信はプレアデス星団からですか?」


 ゼイエスの説明を直ぐには理解出来ない、と感じた天草が次の質問をする。


『いいえ。我々はとある理由で母星「マルス」へと戻って来ました。ですから、貴方方と同じ惑星上に居ますよ』

答えるアマトハ。


 アマトハを映すスクリーンの半分が日本列島を含む火星北半球の画像に切り替わり、日本列島から見て北半球西側の一部分が点滅する。マルス側のデータ受信していたJAXAのスーパーコンピューターが地球人類側の情報に変換してモニターに表示する。

 モニター画像は航空写真だろうか、まるで人の顔をした巨大な岩山が荒野にポツンと置かれたように見える。天草の後ろに居た女性研究員がワオ!と歓声を上げる。


「……シドニア地区、ですか」


 人面岩の画像を見て呟く天草。人面岩から少し離れた場所では、正三角形をした建造物が等間隔で一列に並んでいる。中学生の時、夢中になって読んだオカルト雑誌の火星ミステリースポット記事を思い出した天草。


『はい。此方の地下には、マルス・アカデミー本部と研究施設が置かれていました。その施設を稼働させて皆さんへメッセージを送りました。惑星規模の環境変化が小康状態になったので、皆さんを保護していた電磁シールドを今朝から薄めています』

説明するゼイエス。


「ええ。日本の観測機が飛んだすぐ後に、私達ユーロピア自治区も偵察機を飛ばして日本列島を覆う壁の向こう側を観測したわ。もっとも、私が見たところ3万フィートから上はだまだ放射線が危険な値だったわ」

白衣を着た女性研究員が肩を竦める。


「……ほぉ。ユーロピア自治区はユニークな研究者がいる様だ」

極東NASAのゲイツ所長が感心した様に呟く。


「褒められて光栄ですわ。私の事よりも、今は現状の把握が先よ。アマトハさんでしたね?惑星規模の環境変化とは一体何なんです?」

女性研究員がアマトハに訊く。


『あまりの状況変化に驚かれるのも無理はないでしょう。皆さんが転移してきた事によって休止していたマルス地下のマントルが活動を再開したのです。結論を申しますと、マルスの大地に大気と海が復活したのです』


 ゼイエスが説明しながら、火星各地の画像を呼び出す。いずれも、赤く荒れた大地と明るい青色をした海、灰色がかった雲が映っている。天草を始めとする地球人類側は、唖然としてモニターを凝視したまま固まっていた。


『惑星規模でのマントル活動の再開は、磁場を生み出しました。そして火山活動で生じた噴煙と二酸化炭素や水蒸気を大地に繋ぎ止め、海洋と大気圏を復活させたのです。私達も、皆さまの第3惑星で生命が誕生した時だけしか観測していなかったので少々驚きました』


「私としては、少々という表現程度で済む貴方に驚きますけれど?」


 すかさず応える女性研究員に興味を持った天草が注目する。彼女がロザリオとは別に首からかけていた認識票は「ユーロピア自治区 ジャンヌ・シモン」と表示されていた。


「あなたは、ユーロピア自治区首相!?」

思わず息を飲む天草。


「ムッシュ天草。その話は交信後にしましょう」

あっさり躱すジャンヌ。


「アマトハさん。同じ惑星という事で有れば、近い内にお会いできるのが楽しみです。ところで先程、私達を"見守っていた"とお話されていましたが、それは"私達の衛星"である月面からでしょうか?それとも、火星やプレアデス星団からでしょうか?」


 緊張の余り、額に汗を浮かべたゲイツ極東NASA長官が質問する。アメリカ人が世界に誇るNASAにとって月面着陸は、合衆国が誇る人類史の輝かしい1ページだったのだ。


『違います。私達マルス人は、天体型調査研究ラボ「ルンナ」で第3惑星衛星軌道上を回りながら見守っておりました。すなわち、皆さんが「月」と呼んでいる衛星になりますね』

ゼイエスが説明する。


 地球人類の認識がひっくり返る様な衝撃的な答えを聴き、絶句する各国メンバー。


「……信じがたいですね。この衛星が人工物ですって?」


 動揺しつつも、人類が過去に月面を調査・観測したデータをアマトハ達へ送信する天草。


『これは……酷いな。あなた方が呼ばれている「月」とは、衛星自体が人工物です。……かなり激しく損傷していますが』


 データを受信して内容をさっと見たアマトハが、顔を曇らせて呻く。


『なるほど。このような地球にしか表を見せていない"傾いた"姿勢だとプレアデスコロニーにアンテナが向けられないから通信が送れなかったし、我々の信号も受信出来なかった訳か』

嘆息するゼイエス。


『ルンナとの交信は15000年前に突然途絶えました。どうやら、彗星の影響で致命的な損害を受けたようですね』

天草から送信されたデータを再確認しながらゼイエスが言った。


『恐らく乗組員はルンナから脱出し、第3惑星に降り立ったものと私達は推測しています。我々はルンナ乗組員を救助すると同時に、マルスへ"戻ってきた"皆様とコンタクトする為に此処に居るのです。

 地球人の皆さん。私達の同胞探しを手伝って頂けないでしょうか?』


 アマトハが僅かに頭を下げた。異星人もお辞儀をするのか、と場違いな思いをしつつ思案する天草。両隣に陣取る各国宇宙関係者達は当然、相手との交渉材料としてイワフネ達の情報を使うだろう。地球人としては、「あり」だが、マルス人には、人類の文明を遥かに超越した存在に、使って良いだろうか?


 天草は、内閣官房室と大月達の最初のやり取りの録画を思い出す。

 "彼らは常にこちらの気持ちを配慮してくれる"だったかな?

 それは、彼らに読心系の能力がある事を暗示してはいないか?そうだよな、格上に「下手な」小細工は失礼だ。異星人相手には正面からぶつかるしかあるまい、と天草は決断する。


「……お二人は、イワフネさんと言う方をご存知でしょうか?」


 悪戯っぽい顔をしつつも優しく微笑む天草は、彼らの消息を伝えるのだった。

ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m


【このお話の主な登場人物】


天草(あまくさ) 治郎(しろう)=JAXA理事長。

・ゼイエス=マルス人。アカデミー特殊宇宙生物理学研究所技術担当。

・アマトハ=マルス人。アカデミー特殊宇宙生物理学研究所 所長。ゼイエスの善き理解者。

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