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転移列島  作者: NAO
混沌編 混沌の始まり
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証人喚問

2026年(令和8年)1月3日午前8時【地球南太平洋 ニューカレドニア沖 ユニオンシティ・メガフロート『マリーン・シティ』】


 ジョーンズ司令官が瑠奈に呼び出されてメガ・フロート外縁まで部下達と来ていた。


「じゃっじゃっーん!これが、瑠奈をマッカーサーっちのお仕置きから救ってくれた、ジョーンズおじさんへのお礼っス!」


 ミツル商事戦闘団マルス・アカデミー・アンドロイド軍楽隊のエレクトリカルファンファーレが鳴り響く中、巨大なブルーシートが取り除かれた港湾ドックに、全長90m程の笹かまぼこ型のずんぐりした黒色装甲を持つ戦艦が姿を現す。


「どうっスか?アメリカ空軍C17Aグローブスター輸送機&B52ストラトフォートレス戦略爆撃機の素材を惜しみなく贅沢に使った、瑠奈特製『マンスフィールド級空中戦闘艦』っス!」

料理を紹介するように戦闘艦を紹介する瑠奈。


 斬新な紹介にジョーンズ司令官の背後に群がるユニオンシティ守備隊と、イスラエル軍特殊部隊隊員からどよめきが起こる。


「この戦闘艦の特徴は何と言っても、空中に浮上しながら作戦行動が取れるんっス!」


「艦首、中央、艦尾底面に備え付けられたハイブリッドジェットエンジンを使って垂直上昇可能な上、イオン電気推進システムを使って火山灰の中でも高速空中航行可能ときたっス!」


「武装は三連装レールガン砲台4基、多目的ミサイル垂直発射筒(VLS)16基、アイアンドーム・システム対応8連装短距離対空ミサイルランチャー4基、20㎜CIWSバルカン砲8基の重武装!まさに空飛ぶ要塞ッス!」


 瑠奈がっス!っス!と興奮しながら説明を続け、ジョーンズは思わず顔を綻ばせる。


「素晴らしい……。火山灰で使えぬ航空機をアレンジして、こんな物を作り上げるとは……我々地球の兵士が扱えるものなのかね?」


「大丈夫ッス!操縦や航法装置は、C-17輸送機やB-52爆撃機と同じ大型航空機仕様っス!武器系統の火器管制も、イージス艦と同じ様にしているっス!」

胸を張って答える瑠奈。


「エクセレント!」

ジョーンズが瑠奈を両手で抱き上げクルクル回りながら高い高いをすると、ドヤ顔で万歳して喜ぶ瑠奈。


「お嬢!これと同じものをIUDF(イスラエル連邦国防軍)にも売ってもらえないだろうか!?」


 ジョーンズの傍らでワイズマン中佐が玩具を見つけた子供の様に、目をキラキラさせて瑠奈に縋りつこうとしていた。


「いいっスよ!ライセンス販売で良ければ、1隻当たりメルカバMK-Ⅳ(マークフォー)戦車400台と交換ッス!」


「……えぇ~。我が軍のクフィール戦闘機1個中隊分でどうだ?」

「えーっ!?火山灰で飛べない飛行機なんて要らないッス!」


「くっ……手強い。国防大臣に相談するから、大月社長によろしく言ってくれお嬢!」

「承りッス!」


 瑠奈の返事を聞くと、ダッシュでイスラエル特殊部隊の駐屯場所へ向かうワイズマン中佐。直ぐに本国と連絡を取り合うようだ。


「ミス瑠奈!私へのプレゼントは大変光栄なのだが、あと2~3隻我が国で買えないか?」

ジョーンズがモジモジしながら瑠奈に申し出る。

 彼は商売が苦手なのだ。


「良いっスよ!でも、おじさんの所で限定っスけど?」

「オーケー約束しよう。私の直属部隊であるデルタフォースが使用する。月面小役人共には使わせんよ」


「じゃあ、物々交換で良いッス!」

「我が軍のエイブラムス戦車かね?それとも、ニミッツ級航空母艦『カールビンソン』かね?」


「うーん、惜しいっス!オーロラ戦闘機1個小隊、3機でどうっスか?」

「……あれは、数が少ないのだ。本来はトップシークレットとされるシロモノなんだが」


「むーん。足りない分は、オハイオ級原子力潜水艦3隻で手を打つッスよ!」

「くっ!やるなぁ……ええいっ!私の指揮下にある、オーロラ2個小隊6機と、整備施設を譲渡しようじゃないか!」


「ジョーンズおじさん太っ腹っス!契約成立ッス!」

瑠奈が万歳をしてジョーンズに飛びつく。

 

 苦笑するジョーンズ中将だが、人類初の空中艦隊が編成できるので満更でもなさそうだ。


「なんで小学校の宿題が出来ないのに、最新軍事兵器の取引で商才が炸裂するのだろう?」


 駐屯場所で通信士がイスラエル本国を呼びだす間、ジョーンズへ巧みに揉み手する瑠奈を見ながら首を傾げるワイズマン中佐だった。


 ワイズマン中佐の要望通り、新テルアビブ国防省からメルカバ・マークⅣ型戦車400両の譲渡は承認されたが、火星新大陸で新たにミツル商事が製造工場を建設した場合に限り、ライセンス生産で取得出来るとの条件が付いた。

 瑠奈は直ぐに火星日本列島の横浜に居る満へ連絡して内諾を得ると、アルテミュア大陸中央部ヘル・シティ地下区画で陸上戦車を”改造”する許可を姉の美衣子や結から取るのだった。


 ミツル商事が取得したマンスフィールド級空中戦艦、メルカバⅣ戦車400輌等の最新兵器は、名取大佐や石原准将ら現場指揮官を歓喜させたが、岩崎官房長官、桑田防衛大臣は、国会で左派系野党から”専守防衛”とは異なる性能ではないかと厳しく追及された。


 対馬事変以来、国内での政治的存在感が限りなくかすみに近かった左派系野党は、水を得た魚の如く嬉々として国会の予算委員会で澁澤政権の”軍事的拡張主義”を非難するのだった。

 左派系野党の非難はエスカレートし、ミツル商事の大月満社長と大月瑠奈を''国会証人喚問''に招致するに至るのだった。

 予算委員会に出席する澁澤総理大臣、岩崎官房長官、大月満は、瑠奈が’’恐らく確実にやらかす’’であろう答弁を想像して胃がしくしくと痛くなっていくのだった。


 しかし、ミツル商事と瑠奈の地球における活躍ぶりを最近のニュース報道や、大月家の中小企業も見捨てず救い上げる家族的経営手法をテレビ放送を通じ知っていた世論は、瑠奈の月面召喚命令に批判的だった。


 また、瑠奈に先駆けて行われた証人喚問における桑田大臣、石原准将や名取大佐の答弁も

「予測不可能な火星原住生物に対する防衛的運用において、費用対効果がある」

「火星原住生物には先制攻撃や防衛の区別をする概念が無く、ひたすらに人類を食料としている」

等と、本来では公表を差し控える非公開情報まで開示する形で詳しい説明が行われた。


 そして大月瑠奈の証人喚問が衆参両院合同予算委員会で始まった。


「人類生存圏の防衛と拡大という建前を掲げ、澁澤総理の軍事的拡張主義を忖度そんたくしたマルス人は、不戦の誓いを掲げる日本国人民を再び太平洋戦争のような悲惨な戦争に導くのでしょうか?」

野党第一党である立憲地球党の女性副代表が鋭い口調で尋ねる。


「ええっ?何言ってるんスか?『火星原住生物』対策として攻撃は最大の防御っス! 

 皆さんはセラミック盾とスタンガンを持って、巨大ワームやサソリモドキの群れに挑むんスか!?そんな事したら直ぐに死んじゃうっスよ!?」

元気よく持論を展開する瑠奈。


「……」

真正面から来た正論に沈黙する立憲地球党副代表。


「……おおぅ」

滅多に見ない瑠奈の雄姿に感激する満。


「……これは」「歴史的瞬間だわ。流石我が妹」


 美衣子と結は、レア映像に感動して妹の証人喚問映像をNEWイワフネハウス庭にある桜の木の下にタイムカプセルとして埋めるのだった。


 国会の予算委員会は、瑠奈が発明した『マンスフィールド級空中戦艦』について、2026年度補正予算で自衛隊の取得が計上される予定となった。

ここまで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m


【このお話の登場人物】

・大月 瑠奈=マルス文明地球観測天体(月)人工知能。結の妹分。

挿絵(By みてみん)


・ぺレス・ワイズマン=イスラエル連邦軍派遣 軍事顧問。中佐。

・ジョーンズ=ユニオンシティ国地上軍総司令官。中将。

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