第1話
爽やかな風が吹き草木の揺れる音で目が覚める、どうやら木陰で休んでたら知らないうちに眠っていたようだ。
僕は大きなあくびをした後立ち上がり体を伸ばした。これをしないと起きたって感じがしないんだ。
木陰から出ると朝日の眩しさに少しだけ目を開けられなかったが、直ぐに明るさに目が慣れていき俺はゆっくりと目を開いた。
空を見てみると、青空の中に真っ白で触ったら凄く心地よさそうな雲が浮かんでいた。青空だけもいいけど、雲があったほうが僕はやっぱり好きだな。
そんな美しい空を見いっていると。
「純……」
僕の名前を呼ぶ声が微かに聞こえた。気のせいだろうと思っていたが、その声は次第に大きくなっていき。
「純、純! ねぇ起きて純!」
名前がしっかりと聞こえるようになり、閉じている目を開けると朦朧とした意識のなか目の前には泣きながら僕の名前を呼ぶ女の子がいた。
「あ、あぁ、いっ」
徐々に意識が自分の元に戻り始めてくると、体の痛みも認識し始めた。いつのまにかこんな傷をおったのだろうか?
「純! よかった! 目が覚めたんだね!」
目の前の女の子が目が覚めたことに喜び、僕の体を起こしたと同時に抱きついてきた。いつもなら恥ずかしさで動揺してしまうのだがいまは体の痛みのせいでかおかげかそんなことは気にならなかった。
「だ、抱きつかれるとすごく痛いから出来ればやめてほしいかな」
「あ、ご、ごめんね! そういえば頭を強く叩かれていたよね、大丈夫!? 記憶はなくなってない!? 私のことは分かる!? 自分の名前は!?」
そんなに大きな声を出さなくても聞こえてるけどなぁ。けどこれ以上心配させたくないからそんなことよりちゃんと彼女の名前を答えてあげた方がいいよね。
「君は草原緑ちゃんであだ名は緑ちゃん、僕は森木純一郎あだ名は純……であってるかな」
「あってるよ純! ちゃんと忘れてないみたいだね、よかった~」
完全に安心しきったのかまた涙を流しだして、本人もビックリしていた。
しかし何で僕はこんなに傷だらけなんだろうか。それは全く思い出せないな。
「ねぇ緑ちゃん、何で僕はこんなに傷だらけなんだい?」
「そ、それはね」
「それは俺をぶちのめす為に人質に取られた妹を助けるために無謀にも指名された待ち合わせ場所に一人で突っ込んでって返り討ちにあったからだよ」
「大地さん」
「よっ、いい夢見れたか純ちゃんよ」
奥の方から現れた日焼けをした筋肉隆々の男ーー大地は緑のお兄さんでこの辺りでは有名な番長だ。そうだ、思い出した。僕は緑ちゃんが捕まえられた画像をみて急いで待ち合わせ場所である倉庫に一人で駆けつけたんだけど、ヤンキー達に簡単にやられちゃっている所に大地さんが現れてそこで気を失ったんだ。
「足が早くても腕っぷしが強くないなら意味ないだろ。人質が増えるだけだ」
「お兄ちゃん!」
「本当のことだ、仕方ないだろ」
「あははっ、そうだね……」
僕は元気そうな緑ちゃんと大地さんをみて安心しながらも、気を失ってる時に見た光景が忘れられずにいた。
「ん? 大丈夫か純、頭を殴られたんだからな。立てなさそうならちゃんといえよ」
「うん! 私が肩を貸してあげるからね!」
「お前は不安だ、俺がやるよ」
「いや、大丈夫だよ。それより病院いくなら時間も時間だから早くいかなきゃね」
「なら、さっさと行くぞ」
そう言うと大地さんはさっさと倉庫の出口に向かっていき、緑ちゃんは少しだけ不満げな顔をしながらも大地さんに続いていった。僕もゆっくりと立ち上がり、ふらつかないかを確認した後二人の後に続いて外に出た。
人の手によって丁度良い温度に調節された気味の悪い風が常に途絶えることなくそよそよと吹き、家にある電球の何倍も大きい電球から放たれる光は、時間帯によって教科書で見た太陽のように朝はひたすらに明るく、夕方はオレンジ色の光に包まれ、夜は完全に光が途絶えるようになっている。地面は一切の隙間なくコンクリートで埋め尽くされ、草ひとつすら生えることを許されない。いくら上を見ても青空や雲はひとつも見当らず、殺風景な灰色の壁で覆われている。
ここはP-093ドーム。人間が荒れ果てさせてしまった地球で唯一安心して暮らせるように作られた場所。