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組織間抗争ーその1ー

「やっと見つけた! 麻川!」

「!」


 振り返ると、狩野と井伊島がこちらに向かって走ってきていた。


「アトラクションの中薄暗くてどこにいるか分からなかったから、合流出来てよかった」


 狩野がほっとしたように息をつく。


「舞は? はぐれたの?」


 井伊島の問いかけに俺は咄嗟に嘘をついた。


「あ、ああ。園神は先に避難させた。俺はお前ら探そうと思って……」

「そう。無事ならよかった」


 井伊島の安心した顔にちょっとだけ罪悪感が湧く。だけど、戦争をしに行ったなんてとてもじゃないが言えない……。


「俺たちもはやく避難しよう」


 狩野が先を促す。


「ああ」


 どうでもいいが、こいつって意外としっかりしたところもあるんだな。さっきから表情が見たこともないくらい真剣だ。まあ、こんな状況じゃ当然か。


 俺は1度だけ園神が去っていった方へ目を向けると、遊園地の出口へ向かって歩き出した。





 人の流れに乗って歩いていると、視界の端に黒い影が映った。黒い服を着て顔を半分黒い布で覆った男。そして、手にはキラリと光るもの――刃物だ。


「危ねえ!!」


 俺は狩野と井伊島の腕を掴み、思い切り引き寄せた。


「うわっ!」

「きゃあ!」



ヒュッ……!!



 ナイフが空を斬る。


 間違いねえ! こいつ、俺たちを狙ってやがった!!


「きゃあああああ!!」

「ナイフ持ってるぞ! 逃げろ!!」


 近くにいた客が騒ぎ出す。大勢の人が一気に出口へ向かって走り出す。大混乱だ。


「お客様! 落ち着いてください!」


 係員の叫びなどもはや聞こえていないだろう。


「……」


 黒服の男は周りの騒ぎなど無視して俺たちだけを見ている。


「なんだよこいつ。俺たちを狙ってんのか?!」


 狩野が井伊島を庇うように前に出る。


 俺も狩野の横に並んだ。


 すると、建物の影から同じような黒服の男がさらに3人とガタイの良いスキンヘッドの男が1人現れた。


「まったく運がいい。1発で終わらせるつもりだったんだがな」


 スキンヘッドの男が口を開く。


「お前たちはあの女と行動を共にしていたな? 恨みはないが利用できるかもしれないのでな。拘束させてもらう」

「はぁ?! 意味わかんねえぞ! あの女って何だ!!」


 スキンヘッドの男の発言に狩野が怒鳴り返す。だが、俺は違った。



 園神か――!



 おそらくこいつらは、園神を狙っているやつらの仲間か何かだ。園神が電話で自分は餌とか何とか言ってたのはこういうことだろう。つまり――。



 こいつらは殺しの世界で生きてるってことだ……。



「……」


 やばい。下手すれば全員やられる……!


 手の平にじんわりと汗がにじむ。どうする?!


 周りを見れば人気はすっかりなくなっている。分かってはいたが、やっぱり皆逃げちまうよな!


「殺すつもりはないが、逃げられない状態にはさせてもらおうか」


 そう言うとスキンヘッドの男はこちらに突っ込んできた。後方に黒服4人も続く。


「おい逃げるぞ!」


 俺は狩野と井伊島に向かって叫ぶ。


「ああ!」

「うん……!」


 俺たちは出口に向かって走り出す。


 だけど、このままじゃ追い付かれる!俺たちとあいつらとじゃスピードが違いすぎる!

 俺は何か使えるものがないか辺りを見渡す。


「!」



 建物の影に消火器!



「きゃあ!」

「!」


 隣を走っていた井伊島の姿が消える。


「井伊島!!」


 振り返ると転んだ井伊島に狩野が駆け寄ろうとしているところだった。


 しかし、狩野よりも先にスキンヘッドの男が井伊島の髪を掴む。


「痛い!」

「こんの!井伊島から離れろ!」


 狩野がスキンヘッドの男に向かって殴りかかる。



がしっ!



 狩野の拳は井伊島の髪を掴んでいない反対の手で防がれる。


 やべえ! 2人が捕まった!


 俺はさっき視界に入った消火器を引っ掴むと2人の下に走る。消火器の栓を抜いてスキンヘッドの男の顔面に向かって噴射してやった。



ブシュ――――!!



「2人とも逃げろ!」

 俺はさらに黒服の4人にも消火剤を向ける。


「ごほごほっ――助かった麻川!」

 消火剤の煙の中から狩野と狩野に手を引かれた井伊島が出てきた。


「礼はいいから急げ!」

「ああ!井伊島掴まれ!」

「きゃっ!」


 狩野はそう言うと井伊島を横向きに抱き上げて走り出した。このイケメン野郎!



ブシュ……シュ……



 やべっ!消火剤が切れた!


 俺は慌てて空になった消火器を捨てて走り出す。


「やってくれたな小僧!!」

「!!」


 振り返ればスキンヘッドの男。


「あ……」

「麻川!!」

「麻川君!!」


 遠くで狩野と井伊島が俺を呼ぶ声が聞こえた。





 舞は園内を走りながら、愛華との会話を思い出していた。



ピリリリ……ピリリリ……



「はい、舞です! 愛華さん!?」

『よォ、無事だったか舞!』



ギャギャギャキィーー!! パァンパァン!! ――ドォオン!



 通話口の向こう側から車のブレーキ音、発砲音、爆発音が聞こえてくる。


「大丈夫ですか?! 愛華さん!!」

『あァ?! 誰に物言ってやがる! ちょっと襲撃に遭ってるだけだ! それより舞、お前今須賀尾アドベンチャーワールドってとこか?!』

「はい、園内で爆発が起こっています!」


『チッ! めんどくせえことになった!いいかよく聞け! 殺し屋組織クロコダイルがわたしたちに宣戦布告しやがった!』

「!」

『狙いはお前だ! 府抜けた殺し屋は必要ないとかなんとか言ってたが要は――』

「アタシを餌にしてG2を引きずり出すつもりですね?」

『おそらくな! そっちに向かおうとした途端この襲撃だ!』


「どうしますか?」

『あァ?! 愚問だな! 売られた戦争けんかは買うに決まってんだろ!!』

「ふふっ、そうですね」

『ユキとおやじも別ルートでそっちに向かってる! わたしたちが行くまで持ちこたえろ!』

「分かりました」



ピッ



(敵は殺し屋組織クロコダイル……)


 たしかそう大きくはない殺し屋組織だ。舞も名前を聞いたことがある程度である。


(そんな組織がなんでわざわざアタシたちに戦争を……)


 舞の所属するG2は殺し屋組織でも1,2を争う規模である。わざわざ戦いを挑むメリットが分からない。


「!」


 殺気を感じて舞は右方向に飛んだ。



パキュン!



 標的を逃した弾が地面を穿つ。


「あぁら、ざぁんねん。外しちゃったわぁ」

「……」


(来たわね……)


 舞はゆっくりと振り返る。


 そこには金髪のショートカットに赤いワンピースの女と、長い黒髪を後ろでひとつに束ね黒の革ジャンを羽織った男がいた。


「殺し屋組織クロコダイルのメンバーね」

「えぇ、そうよぉ」


 女がにっこり笑う。


「こんなところで騒ぎを起こすなんて馬鹿じゃないの?」


 舞はポンチョの下――左の脇の下に装着していたFNハイパワーを引き抜く。


「あなたがこんなところにいるのが悪いんじゃなぁい」


 女も銃を構える。シグP226だ。


「一般人巻き込んでんじゃないわよ……!」

「あなたが一般人に紛れ込んでるからいけないのよぉ。お友達も可哀想に……」

「!?」


 舞の目が大きく見開かれる。


「拓斗たちに何をしたの?!」

「さぁ?どうなるかはあなた次第じゃなぁい?」

 女は楽しそうに笑う。


「チッ!」

(拓斗、皆! 無事でいて!)


 舞は地を蹴った。





 俺の目の前に大きな背中がいきなり現れた。


「!?」

「ふんのぉああ!!」

「!!??」


 いきなり現れた白髪交じりのおっさんは気合の声と共に拳をスキンヘッドの男の腹に叩きこんだ。


「ぐあ!」


 腹に直撃を食らったスキンヘッドの男は堪えきれずにそのまま吹き飛ばされる。


 おっさんの登場に黒服4人の動きも止まる。助かったのか……?


「あ、なたは……?」


 俺の口からかすれた声が漏れる。


「わしはここの係員だ! さっさと避難せえ!!」

「え?」


 大の男一人吹き飛ばす遊園地の係員? いや、無理がある。


「園神の、関係者……?」

「何っ?!」

「え?!」


 考えを口に出したつもりはなかったのだが、どうやら口から出てしまってしたらしい。


「園神の……えっと友達で、麻川拓斗です」

「ああ! 君が拓斗君か!」

「はい」

「そうか、それで狙われとったのか! わしは島倉元太! 舞の上司みたいなもんだ! ここはわしが引き受ける!」

「はい! ありがとうございます!」


 俺は軽く頭を下げると、狩野と井伊島の下へ走った。


「おい! 大丈夫か! つーか、あの人は!?」


 狩野が問いただしてくる。


「大丈夫だ。えっと、あの人は警察の特別部隊の人だ! 早く逃げろって!」

「そうか! 助かった!」


 狩野と井伊島はほっとした顔をした。


「……」


 2人には嘘ついてばっかりだな……。


「何をしている! 追え!!」


 攻撃から回復したらしいスキンヘッドの男が黒服の男たちに指示を出す。


「!」

「おい、行くぞ!」

「ああ!」


 俺たち――井伊島は狩野に抱えられたままだが――は出口に向かって走り出す。



パキュン! パキュン!



「うわっ!」

「うおっ!」

「!?」


 男たちの声に俺は走りながら振り返った。


 すると、なぜか男たちはこちらを追わずに止まっていた。何だ?


「後ろは気にするな! うちの狙撃手が足止めする!」


元太さんの声。


「……」


 おいおっさん! そんな大きな声で狙撃手とか言っていいのかよ!

 さっきの「パキュン」って音は狙撃音か!


「狙撃手だってよ! 警察はすげえな!」


 狩野が完璧に勘違いしているが、もうどうでもいい。つーか、それでいい!


 俺はいろいろツッコむのを諦め、走ることに集中した。


 これからここは戦場になるのだ。早く逃げないと!




 なんとか危機を脱した俺たちは、ようやく遊園地の出口を視界に捉えたのだった。




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