Wデートーその1ー
俺は今、須賀尾アドベンチャーワールドに来ている。
須賀尾アドベンチャーワールドは、ジェットコースターや観覧車をはじめ定番どころのアトラクションを揃えたファミリー層から俺たち若者までが楽しめる遊園地だ。
時刻は10時を少し回ったところ。
俺以外のメンバーは、園神舞、狩野蓮司、井伊島奈緒子の3人。
そう――俺はついにこの問題児3人と一緒に遊ぶ日を迎えてしまったのだ…。天気もあいにくの晴れでどうしようもない。
「いやー、まさにデート日和だな! 麻川!」
「……」
遊園地に着いてから狩野の奴はずっとテンションが高い。服装は細身のジーパンに英語のロゴが入ったプリントシャツ、腰に赤いチェック柄のシャツを巻いて髪をワックスで整えている。これがまた似合っていてムカつく。
「変な乗り物がいっぱいあるわ……」
と、アトラクションに感動しているのは園神。薄手のベージュのポンチョに赤い膝丈スカート、ブーツを履いている。ちょっとかわいくて動揺したのは内緒だ。
「所詮は作り物。アルデラに比べれば大したことない」
と、ブツブツ言っているのは井伊島。水晶のペンダントは相変わらずで、真黒のワンピースを着ている。はっきり言って怪しい。
「……」
俺、今日1日持つだろうか……精神的な意味で。
「よし! まずはジェットコースターだろ! 行こうぜ!」
狩野が先陣切って走り出す。
「おい待て! はぐれるだろうが! ――園神、井伊島行くぞ!」
俺は園神と井伊島と共に慌てて狩野を追いかける。
つーか、狩野。Wデートとか抜かしてたお前が1人で思いっきりエンジョイしてどうすんだよ!!
目的のジェットコースターに着いてから待ち時間は20分だった。人気のアトラクションにしては早い方だ。ラッキー。
昼飯はどこで食べるかなんて気の早い話をしていたらあっという間に順番が回ってきた。ちなみに昼飯はレストランでゆっくり食べることになった。まあ、俺たち遊園地を回るのに特にこだわりもないからな。
1列2人乗りのジェットコースターに、俺は何も考えず狩野の横に座った。
「遊園地と言えばやっぱりこれですよねーって! なんで麻川が隣に座ってんだよ!!」
「はあ?」
なんでって、お前の後ろに居たからそのままの流れで座っただけだろうが。
「俺は! 女子と隣同士で座りたかったんだよ! Wデートっつたろ!」
「はい、安全バーを降ろしまーす」
「先に言っておけよ!!」
「では、いってらっしゃいませ~」
「察しろよ!!」
「無茶言うな!! ってあ」
「あ?」
おい、いつの間にかジェットコースター動いてんじゃねえか……。
ガゴン!!
頂上までやってきたジェットコースターが一旦止まる。
「ああ!! もう始まってんじゃねかよおおおおお!!!」
ジェットコースターは狩野の悲鳴と共に始まった。
「うるせえええ! 他のアトラクションで女子と隣同士になればいいだろうがあああ!!」
「貴重な機会を1回分返しやがれえええ!!」
「知るかあああ!!」
つーか、なんで俺はジェットコースターに乗りながらこいつとこんなくだらないやり取りをしてるんだ!!
結局、俺と狩野はジェットコースターが終わるまでお互いを罵り合った。
「くそ、貴重な1回を……」
「まだ言うか」
ジェットコースターから降りても狩野の機嫌は悪かった。これ俺のせいか?!
「なかなかスピーディーで楽しかったわ」
「アルデラに住むドラゴンのような生き物に乗ったことがある。あれはもっと速かった」
「へえ、楽しそうね」
園神と井伊島は俺たちのことなど気にせず女子トークをしている。内容はあれだが。
「ねえ、あのカップがいっぱいくっつてる乗り物は何?」
園神がひとつのアトラクションを指さす。
「あれはコーヒーカップ」
「乗りますか?! 園神さん!?」
アトラクションの説明をしようとした井伊島を遮って狩野が園神に話しかける。
こいつ、あっという間に復活しやがった。
「え、ええ」
園神は狩野の勢いに若干引きつつ頷く。
「では行きましょう!!」
狩野にすれ違い様、「今度は隣に座るなよ」と言われた。誰が座るか。
コーヒーカップの待ち時間はなく、すぐに案内された。
座り方は狩野、園神、俺、井伊島の順で狩野は園神と井伊島に挟まれてご満悦だ。
「さて、回しますかね」
狩野が真ん中のハンドルを掴む。
「おい、ほどほどにしとけよ。気持ち悪くなる」
「何を言ってる麻川! こういうのは思いっきり回すもんだ!!」
「馬鹿やめろ! 俺らそういうテンションが許される年齢か!!」
もう大学生だぞ!
何が始まるのか分かっていない園神に、我関せずの井伊島。ここは俺がやるしかねえ!
「楽しむのに年齢は関係ないぞ! 麻川ぁああああ!!」
「ぎゃあああああ!!」
「きゃあああああ!!」
「……」
俺がハンドルを掴む前に思いっきり回しやがった。俺と園神の悲鳴が響く。
髪を振り乱しながらも無言の井伊島が恐怖だ。
「ハ――ハッハッハッ!!
――――――――――うえっ」
馬鹿がいる。
俺は気持ち悪くなって立てなくなった狩野に肩を貸してやりながら、コーヒーカップを後にした。
「休憩がてらレストランでも行くか?」
「……」
狩野は無言で頷いた。これに懲りて少しは大人しくなればいいなあ。
「午後からは男女のペアに分かれてアトラクションを楽しみませんか?!」
ダメだ。全然懲りてねえ。
水1杯で復活した狩野がそんなことを言い出した。
「必要性を感じないわ。自由じゃダメなの?」
園神がライスをフォークでつつきながら異を唱える。
「新たな交友を深めるためですよ! 園神さん! ほら、俺と麻川はもう友達だし大体の人となりも分かる。でも、園神さんと井伊島さんのことは分からない! そこでペアに分かれて親交を深め、より良い関係を作りましょうというわけです!」
「……」
よくもまあ、こんな台詞がさらさらと出てくるもんだ。
「わたしは別に構わない。魂の件で個人的に話したいこともある」
「…奈緒子がそう言うならいいけど」
「じゃあ決まりで!!」
おい、いいのか? 井伊島の魂云々の話に付き合いきれるのかお前!!
「男女でジャンケンをして、勝った方と負けた方でペアを作りましょう! さあジャンケンだ! 麻川!」
「お前正気かよ……井伊島の話に対応できるのか?」
俺は小声で狩野に問いかける。
「大丈夫、可愛いは正義だ」
「……」
そうだ、こいつはこういうやつだった。
「よし、ジャンケン、ポン!!」
俺がグーで狩野がパー。ただのチーム分けのためのジャンケンだが不愉快だ。
「勝ったのどっちですか?!」
「アタシよ」
園神が手を上げた。
「よろしくお願いします!! あ、次のアトラクションお化け屋敷にしませんか?!」
下心が見え見えだぞ狩野……。
「お化け屋敷って?」
「ホラーハウスってアトラクション。その家には成仏できなかった幽霊がいるという設定」
「幽霊?」
園神の顔色が若干悪くなる。
「大丈夫です、園神さん! 園神さんは俺が守りますから!」
「……」
何言ってんだこいつ……。