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なにこれカオスーその1ー

 昼休み。学生食堂。壁際4人席。

 俺は園神、そして、他2人と共に昼飯を食っていた。


 2人のうち、1人は朝の騒動から付きまとってくる狩野蓮司。狩野は園神から昼飯に誘われたことを知るや否や、「同伴させろ!」と喚き散らした。おかげで再び注目の的になり、俺は狩野の要求を呑まざるを得なかった。


 そして2人目は俺も知らない女子学生。園神からのメールは「紹介したい友達ができたから、今日お昼一緒に食べない?」だった。この女子大生が園神の紹介したい友達だろう。こうして直接見るまで半信半疑だったが、ついに園神にも友達ができたのか……。


 今まで友達作りに失敗していた姿を知っているだけに感慨深い。見た目も普通だ。


「えーと、まずは自己紹介からでも」


 いきなり狩野が仕切りだした。面倒だからそのまま任せておく。


「俺は狩野蓮司。麻川の友達で経済学部ビジネス経済学科1年。よろしくな」

「おい、いつ俺たちが友達になった?」

「こいつは麻川拓斗、文学部社会学科で同じ1年だ」

「無視かこのやろう」


 もういい。放っておこう。まともに相手をすると疲れる。


「アタシは園神舞。文学部英語学科1年よ」


 狩野のことを不審者を見るような目つきで見ていた園神だったが、俺と友達と聞いて警戒を解いたらしい。いや、園神こいつ友達じゃねえから。


「わたしは井伊島奈緒子。文学部歴史学科1年。――ねえ舞、この人たちには話して大丈夫なの?」


 なにやら井伊島が園神にこそこそと話しかけている。


「大丈夫よ。拓斗は信用できるわ。蓮司はよく知らないけど、拓斗の友達なら大丈夫よ」


 園神のエールを受け、井伊島が顔をこちらに向けた。


「実はわたしには……こことは違う次元――異界アルデラの魔女の魂が宿っているの」

「は?」

「え?」


 俺と狩野の頭の上に「?」マークが浮かぶ。


「アルデラはすでに滅んでいて、魂だけがこの地球に飛ばされてきた。悪しき王とその配下の魂もこちらに来ている。そいつらの魂が宿ると犯罪者に身を落としてしまう。わたしはこいつらの魂だけを攻撃できる武器を作れる人と材料、そして、悪しき王を倒すメンバーを探している。幸い、悪しき王はまだ器を得ていないから、早い方がいい……」


「……」

「……」


 つらつらと井伊島の口から訳の分からない設定が紡がれる。


「アタシは戦士の魂を持っているらしいわ。いざとなったら協力するつもりよ」

 園神がとんでもないことを言う。


 どう考えても頭おかしい中二病患者だろこいつ! 何信じてんだ! この世間知らず!!


「おい! 狩野!」


 俺はまだマシに思えてきた狩野に助けを求める。


「麻川……」

「ああ! どうする!!」

「とりあえず、可愛いは正義だ!!」

「……」


 ぐっと親指を突き出してくる狩野。


 ダメだこいつ使えねえ!! 丸投げしやがった! たしかに井伊島は見た目は可愛いと思うけど!!


ふと、井伊島に視線を戻すと、井伊島は首から下げた水晶を俺たちにかざしていた。


「まさか……こんなことって……」

「え? 何?」


 一体何の儀式が始まったんだ?!


「奈緒子は水晶を通して人を見ると、その人が何の魂の持ち主か分かるの」


 園神が自分のことのように誇らしげに話す。


 いや、知りたかったけど知りたくなかった!!


「ねえ、拓斗の魂はなんだった?」

「なあなあ、今度4人で出かけないか?」

「こんな魂と……こんなところで出会えるなんて……!」


 園神、狩野、井伊島が好き勝手に話し出す。なにこれカオス!!





時刻は18時45分を回ったところ。

俺はバスに揺られていた。隣の座席には狩野が座っている。


どうしてこのような状況に陥っているかというと、昼休みのあのカオスの中、狩野の「4人でどこかに遊びに行こう」が多数決で可決されたからだ。もちろん俺は反対した。


 授業終わりにどこに行くか話し合おうということになったのだが、井伊島はオカルト研究会の活動、園神には用事があった。そこで、俺と狩野がとりあえず話し合うことになったのだが、狩野が今日バイトがあったことをすっかり忘れていたのだ。慌ててバスに乗り込んだのだが、何故か俺まで連行された。ふざけんな。


「遊園地がいいか?カラオケはまだ皆の趣味が分からないからやめといた方がいいよな?」


 狩野が楽しそうに話しかけてくる。


「つーか、これってWデートだよな! 麻川、井伊島さんは任せた。俺は園神さんにアタックする!!」


 こいつぶん殴ってやろうか。勝手なことを。


「お前、園神のこと好きなのか?」

「正直まだよく分からないが、気になってはいる!! 恋はこういうところから始まるんだ! 付き合ってないなら別にいいだろ!!」

「ああ、好きにしろよ」


 園神が殺し屋ってことも知らずにいい気なもんだ。俺なら絶対ごめんだ。


 こんなやり取りをしていると、バスが目的地へ着いたらしい。一先ず狩野と一緒にバスを降りる。バス代は狩野が払ってくれた。ちょっと見直した。ちょっとだけな!!


 バス停からしばらく歩いて見えてきたのは、全国展開しているCDやDVDのレンタルショップだった。


「お前ここでバイトしてんの?」

「ああ。スタッフが可愛いからな!!」

「……」


 ほんと歪みねえなこいつ……。


 すると、件のレンタルショップから1人の男性が出てきた。途端に狩野の顔が引き締まる。何だ?


「お疲れ様です! 店長!」


 ああ、なるほど。バイト先の店長さんだったのか。そりゃふざけられないな。


 店長と呼ばれた男は、その役職のわりに若そうだった。年齢は20代後半くらい。優しそうな目に楕円形の銀縁眼鏡をかけている。身長は170cm程度。髪は黒の短髪だ。


「ああ、狩野くん。今日もよろしく頼むよ」

「はい! 店長はもう上がりっすか?」

「今日は早番だからね。これから約束もあるから、定時で上がらせてもらったんだ」

「デートっすか?!」


 お前はすぐにそっちに結び付けるな…。


「ははは、残念だけど違うよ」


 流石店長さん! 流し方が大人だ! 俺も見習わないと。


「それじゃあ、僕はもう行くね。何かあったら僕に引き継ぎよろしくね」

「はい!」


 そう言い残すと店長さんは颯爽と去っていった。


「あの人めっちゃいい人なんだよ。俺、店長に着いてく!!」


 狩野が去っていく店長さんの背中を見ながら熱く語る。


「特にクレーマーとか問題起きたときの対応がやばい!! 困ってたらさり気なく助けてくれるんだ!」

「へえ」


 俺も感心する。若そうなのに店長やる人はやっぱりしっかりしてるんだな。


「じゃ、俺はバイト行ってくるから遊園地のリサーチは頼んだぞ! 麻川!」

「は?! ……おい!!」


 狩野は言いたいことだけ言って店に入っていきやがった。おのれ……。




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