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初めての友達

「はあ……はあ……はあ……」


 拓斗のところから逃走した舞はキャンパス内を無茶苦茶に走っていた。


 ようやく足を止めてみると、そこはサークル活動の部室が集まっている棟だった。


「はあ……こんなところまで来ちゃった……。1限目はもういいかしら……」


 舞は入学して1カ月と少しで「サボり」をマスターした。


(まったく、何が恋人よ。ありえないわ……)


 舞は心の中でため息をつく。



 確かに舞は拓斗に出会うまで学生生活とやらに興味がなかった。祖父である玄造がしつこく進めてきたことがあるが、すべて無視していたくらいだ。舞にとっては殺し屋として生きていくこと以外に人生の選択肢はなかった。それを変えたのが、拓斗だというだけだ。


 拓斗が高校3年の夏、「弾丸」の回収任務で初めて舞は学生という存在を知った。始めは「弾丸」以外のことはどうでもいいと思っていたが、拓斗と話し、学生生活を送る中で「悪くない」と思えるようになったのだ。


 そして、子供のころからの因縁の相手――影井一将と勝負をつけられたのも大きい。殺し屋として一区切り付いて、改めてこれからの人生を考えた時、「学生」という選択肢が浮かんできたのだ。


 祖父にそのことを話すと、瞬く間に受験の準備を整えられた。殺しの仕事と受験勉強を並行して行ったこの期間は舞にとっても地獄だった。だが、おかげで無事須賀尾大学に合格できたのだ。


 合格した大学が拓斗と同じだったのはただの偶然ということに舞はしている。



(そうよ。この大学にしたのだって、興味があっただけで拓斗は関係ないんだから!)


 舞は自分にそう言い聞かせ、朝の出来事をなかったことにした。


「あの……」

「!」


 舞は突然背後から声をかけられ、驚いて振り向いた。


(いけない! ただの学生の気配すら読み落とすなんて!)


 舞は気持ちを落ち着かせる。


「……あなたは?」


 改めて声をかけてきた人物を見た舞は首をかしげた。まったく知らない女子学生だったからだ。


 セミロングの髪は黒く、前髪を目の下辺りまで伸ばしている。服装は黒いブラウスに黒い膝丈スカートと全身真黒だ。胸に下げた水晶のネックレスが目立っている。身長は舞より低く150cm前半。可愛らしいが、どこか不思議な雰囲気を醸し出している。


「すみません。わたしは文学部歴史学科1年、井伊島奈緒子(いいじまなおこ)。オカルト研究会に興味ありませんか? 廃部の危機なんです」

「……オカルト?」


 ここはサークル活動の中心のような場所。どうやら部員の勧誘を行っていたらしい。


「そう。世の中には科学で説明できないことが五万とある。一緒に人知を超えた力について語らいませんか?」


 奈緒子は伸ばした前髪の隙間から瞳を覗かせ、舞を見つめる。


「なるほどね。悪いけど興味ないわ」

「信じてない?」

「なくはないのかもしれないけど、そこまではね?」


 舞は肩をすくめてみせる。


「分かった。ちょっと視てあげる」


 そう言うと、奈緒子は胸に下げていた水晶を通して舞を視た。


「……武器を手に戦っている」

「!!??」


 舞は驚きに目を見開く。殺し屋のことは当然拓斗以外には話していないのだ。



「どうしてそのことを……」

「焦らないで……。わたしはあなたの魂を視ただけ」

「魂?」

「そう。あなたの魂は戦士のカタチをしている」

「そんなことが分かるの?! すごいわ!」


 舞のリアクションに奈緒子は口元だけで笑う。


「大したことない。わたしはこことは違う次元の異界……アルデラで魔女をしていた女の魂を持っている。この水晶を通せば、アルデラでどんなことをした者の魂かすぐに分かる」

「……いかい?……アルデ、ラ……?」


 舞は首をかしげる。そして、理解することを放置した。


(学生生活はアタシのしらないことばっかり! こういう不思議な力を持った子もいるのね!)


 と、納得した。


「ねえ奈緒子。アタシ、園神舞って言うの。良かったらトモダチにならない?!」

「え……?」


 突然の舞の申し出に奈緒子は前髪の隙間から覗かせた目を大きく見開いた。


「おじい様が言っていたわ。学生はトモダチを作ってセイシュンを謳歌するものだって。拓斗以外にトモダチを作りなさいって言われてたんだけど、今までうまくいかなくて…」


 今まで舞に話しかけてくれた学生はそれなりにいたのだが、友達にまでなれた人は1人もいない。


 正直、舞には彼、彼女たちの話には着いていけなかった。真の弁当について語ってみたら以降話しかけてくれなくなったこともある。


「でも、奈緒子とならトモダチになれると思うの! だって、アタシが戦ってることを一目で見抜いたんだから!」


 舞は奈緒子の手を握る。


「いいの? わたしなんかで……」


 奈緒子は恐る恐る舞を見上げる。


「わたしのこの話を聞いて友達になろうなんて言ってくれる人、初めて会った……」

「そうなの?! すごい力なのに!」

「ありがとう……」


 奈緒子は嬉しそうに笑う。


「じゃあ、これからよろしくね!」

「うん、よろしく……」


 こうして舞は人生初の友達作りに成功した。


(拓斗にも紹介しなくちゃね!)


 舞は無邪気に笑う。



 奈緒子が中二病患者だということを知らずに――。




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