戻ってきた?日常
『須賀尾アドベンチャーワールド爆発事件』が遭った日から3日が経った。このニュースは未だに世間を騒がせている。
当然、そこにいた俺もゼミの仲間からいろいろと聞かれまくった。
今日は3日ぶりに須賀尾アドベンチャーワールドに出掛けたメンバー――つまり俺、狩野蓮司、園神舞、井伊島奈緒子――が集まることになっている。
時刻は12時30分ちょっと前。場所は学食の窓際4人席だ。
「いやー、あの事件からもう3日経つなんて信じられないよな」
学食の無料のお茶を飲みながら狩野が言った。
「たしかにな」
俺は相槌を打ちながら事件のことを思い出す。園内のパニックから火薬の焦げた臭いまで鮮明に思い出せた。
「舞も無事でよかった。あの日は結局会えずじまいだったから」
井伊島が心底安心したような顔で言う。
「心配かけちゃったわね。先に避難するよう警察に言われたの。連絡も遅くなってごめんなさい」
園神には俺が狩野と井伊島にした言い訳を事前に伝えておいた。あの日、園神は先に避難してそのまま自宅に帰ったことになっている。
「俺たちは襲われて大変だったんですよ。園神さんはそういうのに巻き込まれなかったから、むしろ良かったです」
「そうだな。あれはマジで死んだかと思った」
狩野の言葉でスキンヘッドの男と黒服の集団を思い出す。いや、本当によく生きてたな俺たち……。
「そのことだけど、まだお礼を言えてなかった。狩野君、麻川君、あのときは助けてくれてありがとう」
井伊島がぺこりと頭を下げる。
「いやいや。あれは俺も捕まってましたし。麻川のおかげですよ」
「いや、警察のおっさんのおかげだろ。俺もヤバかったって」
狩野の素直な礼が気恥ずかしくって適当な返事をする。
「つーか、お前さ。あの時の状態を維持すれば普通にモテると思うぞ?」
俺はふと思ったことを口にした。
「なんだと!? 詳しく教えろ!!」
狩野が物凄い勢いで食いついてくる。
「……だから、井伊島を助けたときのお前はただのイケメンだったから、それを維持すればモテるって」
あのときの狩野は男の俺から見てもかっこよかった。状況が状況だったからツッコめなかったが、このただのイケメンは誰だとさえ思った。
「何だ。無茶言うなよ」
「あ?」
「あんな危ない状況下での俺なんて維持できるか。むしろあんな状況二度とごめんだ」
「……」
それもそうだった。なんて奴だ。せっかくイケメンモードになれるっていうのに発動条件が「危機的状況下のみ」だなんて厳しすぎだろ……。同情するぞ……狩野……。
「麻川君。狩野君のそれは魂にかかった呪いだからどうしようもない」
「ぶっ!」
井伊島の呪い発言に思わず吹き出す。
なんだよ! 納得できすぎて怖い!
「呪いって何ですか! 井伊島さん! 俺がモテないのは呪いのせいだって言うんですか!!」
「うん」
狩野と井伊島が呪いトークに突入したので、俺はスマホのニュースアプリを開く。
「どうしたの?拓斗」
「ん?例の爆破事件の続報がないかチェック」
園神の問いかけにスマホの画面をスクロールしながら答える。
本当はあの場にいた父さんにいろいろ聞きたかったのだが何も教えてくれなった。仕事のことは教えてくれないんだよな、父さん。
仕方ないので、こうしてニュースを漁っているのだ。
「何が知りたいの?」
「何って言われるとちょっと……」
そりゃ、園神の組織のことだけど……。
『須賀尾アドベンチャーワールド爆発事件』は武装集団クロコダイルによって行われたもので、目的は不明となっている。警察の特殊部隊がクロコダイルを制圧、逮捕したという報道しかない。
「ひょっとしてアタシたちのこと?」
「ぐっ……」
図星を付かれて答えに困る。
「そんなこと報道されるわけないじゃない」
「……だよな」
俺は諦めてニュースアプリを閉じた。
情報操作なんてよくあることなのだろう。世の中分からないことだらけだ。
こうやって学食に居ても、隣のテーブルのメンバーが誰でどういう繋がりなのかさえ分からない。まあ、そんなことは分からなくても何の影響もないけれど。
俺は窓の外へ目を向ける。穏やかな陽気だ。
「……」
俺は一体、どれだけのことを知らずに日々を過ごしているのだろうか――。
―完―
「同業者と連絡がつかなくなってる……。これは……」
薄暗い部屋で熊切朔眞は険しい顔をした。
ここまで読んでくださった方、ありがとうございました。
ですが、完結の後に1文付け加えてありますように、この作品は次回作とセットの話になっています。
次回作は『「日常」帰還できません。』です。
また投稿したら読んでいただけると嬉しいです。
それでは失礼します。
ありがとうございました。