嵐の前の静けさ
コンクリートがむき出しの薄暗い室内。蛍光灯の灯りがチカチカと点滅している。充満する煙草の煙。新品の赤いL字型のソファとローテーブルが不釣り合いだ。
室内には2人の男と1人の女がいた。
2人の男のうち、1人は壁に背を凭れさせて立っている。長い黒髪を項の辺りで無造作に結っており、スラッとした体形をしている。もう1人はソファに腰かけ、煙草を吹かしている。スキンヘッドにガタイの良い厳つい男だ。
そして、1人の女はソファに足を投げ出し手元の銃を弄っている。前髪をおでこの真ん中辺りで真っ直ぐにカットし、金色に染め上げた髪を短く揃えている。
「ほんとあの組織ムカつくわぁ」
女が気怠そうに言葉を発した。
「この業界でも1,2を争う規模の組織だ。仕方ないだろう」
スキンヘッドの男が返す。
「サツに尻尾振って大きくなっただけじゃなぁい」
「その件だが」
長髪の男が女の話に割って入る。
「どうやらそこの2代目の孫娘が大学に通い始めたらしい」
「うそでしょお?殺し屋が大学ぅ?」
女はおかしそうに笑う。
「それってぇ、わたしたちに喧嘩売ってるんだけどぉ」
「何かの任務なのか?」
スキンヘッドの男が問いかける。
「いや、そんな情報は入っていない。どうやら正規の手続きを踏んで入学したようだ」
「意味が分からないな」
「どうでもいいじゃなあい?とにかくそこにその女がいるんでしょお?」
女は立ち上がると持っていた銃を壁に向けた。
「確かに。そんなことをされては黙っていられない」
スキンヘッドの男が言う。
「我ら《クロコダイル》が殺し屋のあり方を教えてやろう」
長髪の男が鋭い眼光で壁を睨む。
「んふっ」
女は壁に向かって引き金を引いた。
「ばーん」
壁には園神玄造と園神舞の写った写真が貼ってあった。
女の放った弾丸は舞の顔面を撃ち抜き、写真に丸い穴をあけた。