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ハズレの仲間たち

ようやく異世界編突入。


国名修正 2015.10.14

×ルクス→○ルタニア

世界名修正

×テネブラエ→○ネブラエラ

 指先にチクリと痛みを感じて、彼はゆっくり目を開いた。白い石の床を、やはり白い布がひらりと動いている。

 

「ああ、これもハズレだ」

 

 侮蔑するような声が降り注いできた。

 

「ケルス、そちらはどうだ」

 

「ワッツ様、この者もハズレでございます。今回の召喚で使える者は四名のみです」

 

 少し離れた場所から誰かが答える。

 

「ふん、町ひとつ無駄にしたか。よかろう、その四人は手厚く看護せよ。大切な我がルタニアの勇者様たちだ。他の者どもはいつもの通りに…」

 

「畏まりました」

 

 会話が終わる頃になって、彼ははっきり意識を取り戻した。床の上で寝返りを打った彼は、白い裾の長い装束を身に付けた男を見上げる。

 中年の男の顔に一瞬驚きが浮かぶ。頬骨の高い白人種だ。着ている服には袖と裾に金糸の裾飾りがされている。先ほどの口調から、それなりに高い地位に就いているようだ。どうやら先ほどの声の一人はこの男らしい。

 

「目が覚めましたか、グレン」

 

 体を起こして彼はぼんやりと周囲を見回した。見覚えの無い部屋…いや、部屋というよりも大広間のようだ。どこまでも高い天井と装飾的な柱、白い床には不思議な模様が描かれていた。

 広間には彼の他に数十人ほどの人間がいるようだった。その中の何人かは床に倒れ、彼と同じ服を着ていた。だが、どの顔にも見覚えはない。他は白衣の男と同じ格好をして、倒れた人たちの上に屈みこんで何かしている。

 

「あの…僕は誰ですか?ここは…どこですか?」

 

 ふと、自分のことを考えて、何の情報もないことに気付く。彼はオロオロしながら傍らの男に尋ねた。

 

「君の名前はグレンですよ。善なる女神ヴァニタスの御召しに応じ、異界から参上した…勇者様の御付です」

 

 異界、勇者…そんな言葉を聞いても、彼の表情に変化はない。

 

「いや、本当に何も覚えてないものなのだな」

 

 白衣の男は面白がるように言い、一枚の紙を彼に見せた。そこには彼にも読める文字で『グレン』と書かれていた。紙の端が赤く汚れているのは、彼の指先に滲んでいる血と関係がありそうだった。

 

「君たちは女神ヴァニタスのご慈悲で、このネブラエラに生まれ直したのですよ。ある者は大いなる使命を帯びて、またある者は女神ヴァニタスにお仕えするために。残念ながら、君は勇者ではありません。これから先は女神ヴァニタスの御心に従い、この世界を守るために働くのです」

 

 矢継ぎ早に言われる言葉を咀嚼する暇もなく、グレンは額に指を当てられた。

 

「もう少しお眠りなさい」

 

 急激に睡魔が襲ってきて、グレンは床にぐにゃりと横になった。瞼が落ちる瞬間、再び男のあざ笑うような声を聞いた。

 

「それにしても…職業が『脇役』というのは何だろう。無能力にしても程がある。これでは闇獣の餌くらいにしかならない」

 

 深い眠りに沈みながら、グレンはどこか満足そうに微笑んでいた。

 

 

 

「まずは自己紹介だな」

 

 ゴトゴトと揺れる馬車の中で、ありふれた茶色の凡庸な容貌の男が切り出した。グレンが二度目に目覚めると、すでにこの居心地の悪い馬車の中だった。いや、馬車というよりも、護送車に近いだろう。

 鉄格子の付いた窓、板張りの床、水も食べ物も与えられずに、放置されたままだ。馬車の中には、彼の他に八人と一匹…なぜか犬がいた。

 そして、全員が目を覚ました頃を見計らって、茶色の髪の男が口を開いたのだった。グレンは背中を壁に預けて男に視線を向けた。おそらく、これから運命を共にする仲間たちになるのだろう。

 

「俺は…コウキ。お前たちも同じだと思うが、これはあの神官たちが渡してきたカードに書かれていた情報だ。齢は17歳、職業は村人Aだ」

 

 誇らしげに胸を張る村人Aに、長身で筋肉質の厳つい男が呆れる。そこ顔もやはり美形とは言い難い。

 

「偉そうだな、村人A。俺はカエンだ。齢は18だな。あと、職業は…大道芸?」

 

 カエンの申告にコウキが笑う。

 

「なんだよ、大道芸って。見掛け倒しにも程があるだろ」

 

「うるさい、村人A!」

 

 コウキの笑い声で張り詰めていた空気が緩んだようだった。他の人間も肩の力を抜いていく。

 

「ええと…僕はエドガー。齢は17、職業はニート?え、ニートって職業なの?」

 

 次に自己紹介したのは、長い前髪を顎まで垂らした長身痩躯の青年だった。

 

「ニートってなんだ?わいはコウゾ、齢は17で鍛冶が出来るらしい。で、こっちは双子の弟のようだ」

 

 ずんぐりと小柄で幼い顔をしたコウゾの隣で、そっくりな若者が自分のカードを見る。

 

「わいはイワオ、石工だな」

 

 イワオの側にいたグレンは、次は自分の番かと口を開いた。

 

「僕はグレン、17歳。職業は…脇役です!」

 

 弾むような声で自己紹介すると、周囲からどっと笑い声が上がった。

 

「すでに職業のカテゴリーじゃない!」

 

「おかしいだろ、それ」

 

「何をするんだよ、脇役って」

 

 大うけだった。

 笑いがひとしきり収まると、細身ののっぺりとした印象の青年が片手を上げた。

 

「次は私の番だな。私の名はユーリ。齢は17、職業は村娘Bだ」

 

 ざわっと馬車の中の空気が揺れる。

 

「なに、アレで男の娘気取りなのか?」

 

「いや、これから手術するつもりかもな」

 

「村娘はちょっと厳しい」

 

「五月蝿いわ!全部、聞こえているぞ。私は正真正銘の女だ。村娘Bだ。文句を言う奴は引っこ抜くぞ!」

 

 青年の…いや、村娘Bの脅迫紛いのセリフに、若者たちは「なにを?」と聞けないまま視線を逸らしていく。

 

「あんまり女の子に酷いこと言わないでよ。私はミハル、17歳よ。商人見習いらしいわね」

 

 カードを指で挟んで、赤毛のポニーテイルの少女が言う。ごく普通の容姿だが、その明るい雰囲気に場が華やいでいく。最後に残った冴えない三つ編み眼鏡の少女が俯いたまま、小声で自己紹介した。

 

「ルナ、16歳です。仕事は…見習い治療師だそうです」

 

 消え入りそうな声で言ってから頭を下げると、二つのおさげがぴょこんと揺れた。

 

「よし、後はこいつだな」

 

 村人Aコウキが灰色の小犬を膝に乗せて周りを見渡した。

 

「こいつはロウガ、俺の犬らしい。さて、俺たち9人と一匹がハズレ組みの仲間ということだ。そこの脇役と偉そうな神官が喋っているのを盗み聞きしたが、俺たちはこの世界もしくは、この国の勝手な都合でどこからか攫われてきたようだ」

 

 再び馬車の中の空気が揺れる。

 

「まあ、それは置いといて。俺たちと一緒に召喚された中に、勇者と聖騎士、魔道士、聖女がいたらしいぞ。国の待遇も俺たちとは段違いで、王城に運ばれたようだ。ハズレの俺たちはどこかに追い払われるらしいが、、せっかくだから異世界生活を楽しまなくちゃな」

 

 村人Aの能天気がセリフに、深刻になりかけた空気が霧散していく。

 

「気楽なことをいう。殺される可能性もあるんだろう」

 

 自称村娘が呆れてコウキを睨むが、村人Aは自信たっぷりに答える。

 

「大丈夫だ。その時は逃げれば良いだけだ。俺たちのような低能力者、いてもいなくても同じだろ」

 

 へらへらと笑う村人Aにグレンも同調した。

 

「そうだよね、僕はモブ。町の片隅で好きなことをやっていても、誰にも咎められない脇役なんだ。最高だね、村人A君!」

 

 どういう理由か、グレンには脇役という職業が何よりも素晴らしいものに思えてきた。

 

「異世界か。元の世界を覚えてないから何とも言えないけど、楽しんだ者勝ちだな、弟よ」

 

「おうよ、兄。せっかくだからこの世界の技術を盗みまくろうぜ」

 

 双子も、既に気持ちを切り替えているようだ。

 

「そうね、来ちゃったものは仕方がないもの。美味い商売見つけて、ガッポリ稼いでやるわ」

 

 前向きなミハルの発言に、エドガーが拍手を送る。

 

「凄い、ミハルさん。僕のことも養って下さい」

 

「お前な、自分の食い扶持くらい、自分で稼げ」

 

 カエンが呆れてエドガーの背中を叩くが、本人は真剣に言い返す。

 

「だって僕はニートだし、なんだか働いたら負けな気がするんだ」

 

「だからニートって何だっけ?」

 

 コウゾの疑問にみな首を傾げるだけだった。その時、馬車が大きく揺れて横倒しになった。鉄格子の外からは獣の咆哮と男たちの怒声が響いてくる。

 異世界を楽しむ前に、全てが終わるような気配がひしひしと伝わってきていた。


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