第9話
「……ここは」
京間は目を覚ました。
場所を確認するべく、体を起こそうとするが痛みが走る。
「っ‼」
同時に今まで何が会ったのかを思い出した。
出来ることなら夢や幻ですましたかったが、痛みがあの出来事が事実だと教えている。
思わず身体を見てみると手当てがされていた。
この場所も良く知っている学園の保健室だった。
どうも京間は気を失った後、どうにか戻って来たらしい。
そこで誰かに拾われて手当てを受けたということなのだろう。
「どこで気を失っていたんだろう?」
自分が一体どこに戻って来たのか気になるところだ。
初めに気を失ったのは間違いなく京間の部屋だった。
次に目を覚ましたところがあの謎の施設だ。
では帰ってきたら一体どこだったのか?
さすがに京間では分からない。運んで来てくれた誰かに聞かないと分からない。
「問題は一体誰が運んでくれたのか、だな」
身を起こして誰かを考えてみる。
少なくとも京間がこの学園に通っていると知っている人物であるはず。
それならば絞れるだろう。
もし病院だったら誰がと考えてみてもいくらでも可能性が出て来てしまって別のことに切り替えていただろう。
「ありえるのはまずクラスメイト達、そしてユウ、響子、七海だな」
生徒会だったらおそらく病院の方だろう。
なにより京間を嫌っている節がある。
もちろん響子を除いた会員ではあるが。
「もし家だったらユウだろうな」
一番考えられない可能性だ。
もしそうなら一体誰が家に運んだのかという疑問になる。
前にも言ったと思うがあそこに行った方法も分からない。
運ばれたのであれば家に戻した人と同一人物だろう。
「あとは偶然だろうな」
一番目にユウがきたのは起こしに来ているのがユウだからだ。
それ以外は偶然になってしまう。
森や町などだったら誰でも可能性が出てくる。
「とりあえず後で聞いてみるか」
お礼も言わないといけないからその時でも構わないだろう。
起きたのであれば授業を受けるべきだろうと思い時間を見てみる。
「……5時、か」
外を見てみるとちょうど夕暮れらしく空が紅くなっていた。
京間は少しの間固まってしまった。
一体どれだけ眠っていたのだ。
もしかしたら数日眠っていたかもしれないと思うとどう考えてもやばいことになってしまう。
いくら京間に生みの親がいないといっても保護者が存在している。
あの人に心配をかけてしまったら1人暮らしが出来なくなってしまう。
下手をしたら帰ることにもなるだろう。
「……どうしよう?」
おそらくこの怪我のことも耳に入っているだろう。
今、頭の中で必死に言い訳を考えているのだが何一つ思いつかない。
どのように考えても帰ることになるだろう。
「はぁ、仕方ないか」
あの人にお世話になっている身だ。下手に逆らうことはできない。
元々無理を言って1人暮らしをしていたのだ。
これ以上の心配ごとを増やすのも考え物だろう。
確か今は出張か何かで海外に出ているはずだ。
すぐにそのような話にはならないだろう。
「帰るか」
この時間ならおそらく保健室の先生は職員室か、喫煙室だろう。
そのどちらかにいけば会えるだろう。
そう思い近くに会った自分の服を着て出ようとする。
がちょうどよく扉が開く。
「ん」
「あっ」
ちょうど入って来たのは保健室の先生だった。
「目が覚めたのね。良かったわ」
「いろいろとご迷惑をおかけしてすみませんでした。」
「そんなことはないわ。ここは保健室だもの。手当てをすることが役目ですもの」
「それでも1日は確実にここを使っていた事になります。それはさすがに……」
「だから言っているでしょう。ここは保健室、怪我を負っていたのであればなおさらでしょう。それに意識を失っていたのよ?ここでゆっくり休めたのであればそれでいいわ」
「……ありがとうございます」
この人は引くことがない。
ならばここは素直にお礼を言ったほうがいいだろう。
他にも聞きたいことがあるのだ。
「あの聞きたいことがあるのですが、今いけますでしょうか?」
「私も聞きたいのだけれどもちょうどよく怪我人が現れたのよね。だから少し待ってね」
困ったみたいな顔をしているのでなにか問題でもあったのかと思ったのだが今自分が立っている場所が扉の前だということに気がついた。
「すみません!」
急いで立ち退いて先生たちが入れるようにする。
先生が入り、少し遅れて怪我人の肩を持ってユウが入って来た。
「あ、京間。目が覚めたんだね」
「おはよう、京間」
「ユウ、それと葵。」
京間はまたか、と呆れてしまった。
葵が保健室に来ることはよくあることだった。
今日も部活は行っていたらしい。
京間が入っている技術研究部では電子回路の自作など行っている。
そして何故か改造して電動付自転車を実際に動かしてみたりしていた。
当然事故を起こしていたりして怪我が絶えずにいる。
その為、保健室には度々お世話になっていたりする。
もっとも多く来ているのが神奈備 葵だ。
彼女は速度狂であるため、自転車を改造しては最速タイムをよく測っていたりする。
京間としてはもう少し大人しくなってほしいところだが、もう説得することを諦めていたりする。
「なぁ、葵。もう少し落ち着いたらどうなんだよ」
「いやぁ、はははは」
ため息を吐きつつ、言っているのだが葵は苦笑いをするだけでこりた様子を見せない。
ユウに肩を貸してもらって何とか椅子に座っている。
見た所傷がそんなにもついていなさそうにも見える。
「痛っ‼」
「はいはい。それならこんな怪我をいつまでもしないようにした方がいいわよ。葵」
「え~。でも先生」
「そう言わないでよ。こう毎度怪我をして来られるのも困るのよ。なによりこの痛みと長い付き合いになるわよ」
どうも不満があるらしく言おうとしているのだが言わなかった。
先生の言う通りだと思う。
「先生の言う通りだよ。大事な体なんだからもう少し大事にした方が良いよ。なにより女の子なんだし……」
「あー、はいはい」
「まったく、始末書を書くことになる俺の身にもなってほしいよな」
「ここで始末書の心配⁉そこは普通に葵ちゃんの体の心配をしてあげてよ!」
「ごめんごめん。次から気を付けるからさ。今回もお願いしますよ」
「……2人とも、始末書の心配より今の事を心配した方が良いと思うよ」
こういう時の始末書を書くことが多い京間が無事だったから軽口を叩いているが最後のユウの言葉が気になった。
それはどういうことだと聞こうとした。
したのだが、扉の方を見た時に固まってしまった。
扉の方に般若のような気迫を纏った響子が立っていた。
その視線は京間と葵を捉えている。
ギギギッとぎくしゃくした動きで頭を動かしユウに助けを求める。
だが、ユウは両手で耳を塞ぐ仕草をして逸らした。
葵はまだ気がついていないらしい。
先生は苦笑いを浮かべているが助けてくれなさそうだ。
もう一度響子の方に向く。
「……」
無言であることがさらに怖くしている。
全身から冷や汗が流れる。
すぐさまに両手を上げて無条件降伏する。
今の響子はそれだけ恐ろしかった。
「なにか言うことは?」
「えっ!もしかして響子さん⁉」
響子の一言で葵も響子が来ていることに気がついたらしい。
だがその顔は真っ青である。
2人そろって言い訳を考える。
原因はおそらく
「……なんで2人とも無言なのかしら?それともそれについて言えないような事なのかしらねぇ?」
響子の後ろに般若さえ見えなければ言えると思います‼
2人ともそう思ったのだが声にはとても出せない。なによりそんな勇気はない。
「それよりもいいかしらぁ?」
ここで思わぬ人から一言が出た。
もしかしたら助け舟をだしてくれたのかもしれないと思って期待したのだが
「葵がどうもシャツの下にも怪我を負っているみたいなの。だから……」
先生に蹴飛ばされるように保健室から叩き出されてしまった。
京間がこれは幸いと逃げようとするが
「京間どこに行くつもりなの?」
どうも響子も一緒に出て来ていたらしく腕を掴まれてしまった。
「ははは」
「さて、先に京間から聞いておきますか。一体に何があったの?」
これはどうしたものか頭の中で必死に考えていた。