第8話
目の前に拘束されている女性が見える。
どういった理由で拘束されているのか全く分からない。
いや、可能性はあるのだがそれはできるだけ考えないようにしていたのかもしれない。
あのロボットたちの目的がこれなのかもしれない。
死んだらそれまで、捕らえられたらで構わないということかもしれない。
もしかしたら自分もこんな風になっていたかもしれないと思うとゾッとする。
「そんなことより降ろさないとっ‼」
あのロボットに追いかけられたのであれば傷が大量にあってもおかしくないだろう。
手当てがされていなかったどうなるか分かり切っている事だった。
急いで女性に近づく。
まずは降ろそうとするのだが拘束されている位置が高いため手が届かない。
「何か台になる物は⁉」
周りを見渡してみるがそのような物が見当たらなかった。
近くにあるコントロールパネルに椅子すらなかった。
「っ!」
これを操作すればもしかしたら外せるかもしれない。
急いで操作してみる。
まだここから操作を受け付けているようだ。
だが特殊なソフトを利用してあるらしく京間では詳しくは分からない。
だがそれでも中にあるであろう拘束を解けるコマンドを探す。
もしかしたら他にも操作できるところがあるかもしれない。
だとしたらすぐにでもここを止められても仕方ない。
「あった‼」
てきとうに操作していたらそれらしきものが出て来た。
急いで操作してみる。
ガチンッ‼
後ろでそんな音が鳴ったので振り向いてみると拘束が外されて女性が降ろされていた。
「大丈夫かっ⁉」
急いで近づき無事かを確認する。
特に傷を負っている様子もなかった。
ただ意識を失っているだけのようだ。
「……はぁ」
外見からでも傷の確認はできただろうがいろいろと考え事をしてしまい余裕がなくなってしまったのだ。
だから改めて見てみると気がついたこともある。
「……ここの施設はかなりのロボットがいたはずなのになんで服が無事なんだ?」
同い年であろうこの女性の服装は全くの無傷、埃や汚れまで全く見当たらない。
京間自身がここに来るまで間に走っていて壁に擦ってしまったり、銃で撃たれた際にかすったりして服に汚れがある。
それがないということは
「……ここで操作していたのか、もしくはすでに何か月も囚われていたか、だな」
考えたくもないことではあるが警戒しておくことにはかわりない。
素性も名前も分かっていないのだ。
目を覚ましたあと話を聞いてみなければどうにもならないだろう。
取りあえず彼女を休める体勢にして京間は再びコントロールパネルの操作を行う。
「彼女のことはひとまずおいといて、先にここの情報を見ていきますか!」
ここの見取り図を探すつつ、その際に開いた所から情報を見てみる。
幸いにも先ほど操作した時に分かったのだが言語が日本語になっていた。
これなら京間でもそれなりに探せそうだ。
「……?どういうことだ?」
先ほどからここの見取り図を探しているのだがそのような物が全く出てこない。
それどころかここの施設の情報すらない。
普通は何かしらの物があってもおかしくはないはずだ。
命令権
ロボットに関しての情報
生産に関して
動力炉
例のコンテナ
どれも情報が全くなかった。
どう考えてもこれは不自然だ。
まるでこの施設が存在していないと言われているような感覚だった。
「どうなっているだんよっ⁉」
思わずパネルを叩いてしまう。
これでは帰ることすらできない。
もうユウや響子、七海にあうことが出来ない。
どうしようもなかった。
ここまでなんとか来れたのだが何一つ分からなかった。
京間が入って来た扉と逆の位置に別の扉が在るがあそこが出口であるとは言えなかった。
「……とりあえず目を覚まして話を聞いた後だな」
あの扉の先に進むとしても人を抱えてロボットから逃げられるかと聞かれたらさすがに難しい。
取りあえず休むべく座る。
一体どうなっているのか全く分からない。
コントロールパネルがあれば必要な情報が引き出せると思っていたのだが当てが外れてしまった。
これからどうするか考えなければならないだろう。
「うっ」
「っ‼」
そんなときに呻き声が聞えて来たので女性に近づこうとした。
だがそれと同時に妙な音が京間の耳に入って来た。
これは嫌な予感しかしない。
「まさか……な」
乾いた笑いしかでない。
女性が意識を取り戻そうとしているのは嬉しい事だ。
だがそれ以上の危機が迫っているとしか思えない。
ロボットの駆動音とそれに混ざっているもう一つの音
その音の正体、まるで何かを破壊しているようなものだ。
それもだんだんと近づいているようだ。
女性に腕をまわして立ち起こして部屋から出ようと急ぐ。
音がどの方向から鳴っているのかは分からない。
ともかくこの部屋から出る方が先決だろう。
だが、
「っ!!!」
反対側のどこに繋がっているかが分からない扉から出ようとしたのだがいきなり壁が崩壊してしまった。
いや崩壊と言うよりも破壊されたといった方が正しいのだろう。
崩れていく壁の奥から双眸の目がこちらを睨んでいる。
思わず後退りしてしまう。
「ははは……」
顔が引き攣っている。
あの目の大きさから考えると全体はどうなっているのか分からない。
ただ壁を壊したであろう片手が部屋の端を掴んでいる。
その手が大きいのだ。
ここで追いかけられた最大のロボットよりも大きいということは分かる。
その化け物が目の前にいる。
それもこの部屋意外がもはや存在していないというように平然と立っている。
「……本当にどうなっているだよ、ここは」
呆然とするしかなかった。
元々京間たちには引くという選択ができない。
京間が散々走り周って出口が存在していないと分かっている。
そっちへ逃げても出口がなければいずれ追いつかれて叩き潰されてしまう。
もはや逃げ道が存在していなかった。
「すまん。どうもここまでらしい……」
さっき目を覚ましかけた女性に謝る。
ここで操作していたかも知れないと思ったりしたが、化け物は京間たちを確実に逃がさないように来たみたいだ。
彼女は京間が来てからここで一緒にいた。
操作している暇もなかっただろうと思いたい。
京間は覚悟を決め、目を瞑る。
七海、響子、ユウすまない。
母さん、父さんそっちに行くことになりそうだ。
「謝る必要はないわよ」
そんな時に声が聞こえる。
思わず目を開ける。
この場には京間以外にいないはずだ。
では一体誰が?
周りを見渡してみる。
そこには女性がこちらを見ていた。
「あら、なに幽霊でも見たみたいな顔になっているの?」
当然だろう。
先ほどまで意識を失っていたはずの彼女がいつの間にか目を覚ましていたのだ。
これを驚かない人はいないだろう。
「あの……、もう大丈夫なんですか?」
「なにが?」
「もしかして身体のこと?それなら問題ないよ。京間」
「そうですか。良かった」
どれだけの間拘束されていたのか分からないが身体に不調があってもおかしくないのだが、どうも彼女は全く問題ないようだ。
それよりも気になる事を言っていた。
顔を見てから感じていた事だったのだが、どこかで見たような気がするのだ。
「ところでなんで俺の名前知っているんですか?」
「それは…」
彼女が答えようとしたがそのときあの化け物の腕が再度、手を伸ばしてきた。
だが、京間に、正確には近くにいる彼女に触れる前に何かに阻まれたようだ。
「いったい何が⁉」
「人が話している最中なんだけどね…」
彼女は全く動じていなかった。
その事に京間は驚く。
まるで慣れているようにも見えた。
「仕方ないな」
その声に恐れを感じない。むしろ意思の強さを感じ取れる。
その背中は頼もしく、見える。
一体誰なのか。
分からないが妙な安心感がそこにはあった。
もうこれで助かるという確信を得た時だ。
「っ!⁉」
いきなり足場が崩れ始めた。
「うわぁぁぁぁぁ‼」
崩れていく部屋、
京間も彼女も真っ逆さまに落ちていく。
そんな中でも彼女は真っ直ぐに京間を見ていた。
口が動いているのが見える。
何かを言っているようだがよく聞こえない。
手を伸ばすが届かない。
知りたくても聞こえない。
それでも全てが落ちていく。
もはや何が原因かは分からない。
ただ分かるのは、このままでは確実に地の底にぶつかるとういう事実だけだった。
そして京間はぶつかる前に意識を失った。