第二話
いつも通りに授業が終わり、放課後になった。
クラスメイトは次々と帰るか、クラブに行く準備をしたりしていた。
そんな中京間は荷物をまとめて向かおうとしていた。
「お、京間!今日は空いているか?」
「いや、本来あいていたのだが面倒なことに響子に頼まれごとされてな。」
申し訳ないというように返答する。
「今朝の件は本当だったか?」
「間違っても付き合っていないからな。」
どうも今朝の響子とのことがすでに広まっているらしいことにため息をついた。
ユウが上手く七海の誤解を解けていればいいのだがどうやら。
「ははは。そうだよな!いくらなんでもあんなレベルの高い人と付き合えるわけなよな!」
話しかけて来た奴は笑いながら言っていくれたのだが
「ねぇ。あの2人って付き合っているのかな?」
「さすがにないと思うよ。」
「でも、そんなわりに仲よさげだったよ~。わりとホントだったりして!」
「まさか~。」
笑いながら会話している女子たちの話が聞えて来た。
「・・・。」
「・・・。」
気まずい空気が流れる。
「そ、そんなわけないよな?」
「ああ、ないな。」
行く準備をしつつ、同意をする。
かなり冷や汗が流れるのを感じる。
噂が結構流れてしまっているような気がする。
ユウ、早くどうにかしてくれと願わずにはいられなかった。
「そろそろ行かないと間に合わないから行って来る。」
「ああ、じゃあな。」
微妙に引き攣っているクラスメイトを後に響子がいるであろう生徒会室へ向かった。
「失礼しま~す。」
ノックをしてから部屋に入室する。
中に入ってみるとまだ響子しかいないようだった。
「来たわね!」
気合が入っている様子の響子に思わず後ずさってしまう。
「なんでそんなに響子が気合入っているんだよ。」
思わず呟いてしまうほどだった。
なんで気合が入っているのか分からないのだがどうも今朝からのように見える。
「それじゃ言うわよ。まず、この書類の制作と経費を出して。それが終わったら・・・。」
「ちょっと待て!頼まれごとは一つじゃないか⁉」
複数の事を言い出そうした響子に慌てて待ったをかけた。
ユウは先生からの頼まれごとあるのかさっさと行ってしまった。
手伝ってくれる人がいないのに複数の頼まれごとはさすがに難しい。それどころか今日一日で終わるかも怪しくなってしまう。
それは出来れば勘弁してほしいところだ。
「大丈夫よ!京間なら今日一日で出来るわ!」
「どこに確信があるんだよ!あとどれだけ頼むつもりなんだよ!今の言葉だと下手したら今日中に終わらないと言っているようにしか聞こえない!」
信頼してくれるのは嬉しいのだが量が多ければさすがに難しくなってしまう。
以前も似た事があって響子が今日中というので徹夜で行ったのだが、本人はどうもその時は寝ていたらしい。さらに別に急いでいるわけでもない案件だったらしく、今日中というわけでもなかった。
その時は一体俺の苦労はと嘆いてしまった。
さらに次の日は寝ようとしたのだが悲しい事にユウが起こして無理やり登校させられてしまった。授業中も寝るわけにもいかなかったので丸二日起きていたことになる。
あの時、せめて一時間でも寝させてほしいと頼んだが一蹴されてしまった。
放課後、さらに響子に頼まれたが、全力に逃げ出した。
そして家でさっさと就寝についた。
後日、散々な目にあってしまったのでさすがにユウに泣きついた。
ともかく、あの時みたいな事はもう二度と勘弁してほしい。
もしそうだったらユウを何としてでも巻き込もうと決心していた。
「・・・まぁ、それなりの量だと思うわ。たぶん。」
「・・・。」
おそらく以前の事を思い出したのだろう。
ユウが珍しく響子に説教をしたのが効いているのだろう。
だが最後に呟いた言葉は聞こえていた。
たぶん、ということはそれなりの量だと言っているようなものだ。
内容がかなり疑わしくなってきた。
「ま、まぁ。気を取り直して内容を言うわよ!
」
こちらとしては気を取り直すわけには行かなくなったのだが、とりあえず聞いてみる。
「えっと確か、まずこの書類の整理、その後は・・・。」
その後もいくつもの数を言っていく。
「…それ全て俺1人で行えと?」
自分でも顔が引き攣っているのが分かる。
それ全て引き受けたらさすがの俺でも今日中には終わらないだろう。
「いや、別に今日中にとは・・・。」
「俺1人で・・・ですよね。」
確かに今日中ではないのだろう。
だがそれは当たり前だと言える量だ。
「これでは俺は体の良い雑用ですね!」
雑務も混ざっているがそれなりの量を行ってきたはずだ。
さらにこれだけの量を頼まれるとあればそれは雑用係といっても過言ではない。
「は、半分に・・・。」
「五分の一で限界だ。これまでもそれなりの量をこなしていますが、今回の量は多すぎだ!」
さすがの響子も京間の勢いに押されているようで最初の気合がしぼんでいくようだった。
京間としても今までこなしているがさすがに今回は行いたくはなかった。
これでは自分の一週間が潰れてしまう。
「・・・分かりました。とりあえずこれを優先的に行ってください。」
「分かりました。」
話し合いの結果、最後に響子が折れてくれた。
引き受けた量は聞いた量の三分の一になった。
響子は少しがっかりしたように首を落としていた。
五分の一とは言ったがその通りになるとは考えていなかったが、予想以上にあった。
空を仰ぎ見ながら一つ一つ潰していくかと呟いた。
この時がっかりした様子の響子が悪戯が成功したような笑みを浮かべていたことに全く気が付かなかった。
作業を始めて2時間が経った。
「・・・なんで終わらないだよぉぉぉ!」
未だに終わる様子を全く見せない作業に京間は叫んでいた。
これが本当に五分の一かと怪しんでしまうほどであった。
「どう考えてもおかしい!響子の奴、今度覚えていろよ~!」
京間は怨嗟の声を上げつつ、作業の手を止めない。
何だかんだ言っても一度引き受けた以上、行うしかなかった。
それを途中で放り投げるという選択を取らない京間はお人好しなのだろう。
それに付き合うもう一人も十分お人好しと言えるのだろう。
「京間、文句を言うのも分かるけど、作業は止めないでね・・・。後で僕の方からも言うから。」
京間は頼まれたとき同じ場所で作業を行う。そこに偶然にもユウが来たのだ。
そこで事情を話したら手伝うと言ってくれたのでお言葉に甘えることにした。
それでここにユウが居る理由なのだが・・・。
「どう考えてもこの量はおかしいよ。とても1人でこなす量ではないね!」
「そうだろ!俺もそう思うよ!」
ユウの同意に京間も感じていたことを怒鳴るように答える。
確かに頼まれた書類は少なかった。
だが、内容の濃さがとんでもなかった。
それに気が付かなかった京間も悪いのかもしれないが・・・元凶に前回の反省が無いのかと疑ってしまう。
そしてここで行うと知っているはずなのだが、元凶は未だに様子を見にすら来ていない。
「ユウ、もしかして・・・。」
「言いたい事は分かるけど、言わないで。言ってしまったら腹が立つから。」
京間の言葉にユウが遮って言ってきた。
2人の間では前回の事を思い出していた。
まさかとは思うのだが十分にありえるので否定することが出来ない。
この後2人とも黙々と作業をこなして行った。
ほとんど会話がなく、最低限のものだった。
作業が終わったときもあまり会話を交わさなかった。
作業が終わって背伸びをしている最中に京間がふっと言い出した。
「なぁ、ユウ。今日は俺の家に泊まらないか?」
「・・・別に構わないけど、良いの?」
「良いも何もユウは遠いだろ。今からだったら電車も動いてないだろう。それに手伝ってもらったから何かした方がこっちも気が楽になるし。」
「それならお言葉に甘えようかな。」
「今から帰っても大した晩飯が出ることはないけどな。」
「ははは。」
ユウが家に来ることになったが時間が深夜でもあるから大したものも食べずに寝ることになるだろう。
帰宅準備をしつつ雑談をしてから帰って行った。
帰った後は風呂と簡単な食事をして眠りについた。と言っても3,4時間の睡眠でしかなかった。
ユウは疲れていたらしく京間が早く起きた。
起こさないように気を付けつつ登校の準備を行い、朝ごはんを作り始めた。
ユウの寝顔を撮っておけば面白いことになるかもしれないと思ったのだが知られたら最後どうなるか分からないので止めておいた。
ただでさえ昨日の響子とのやり取りで妙な噂になっているのにユウが泊まったとなればどうなるか考えたくもない。
朝ごはんを無事に作り終わったところでユウが起きた。
「・・・なんで京間がいるの?」
「昨日、俺の家に泊まったからだ。」
ユウはどうも寝ぼけているらしく、どこに泊まったかも忘れているみたいだった。
余り見ないユウの姿に自然と笑みが出て来てしまう。
「・・・言わないでよ。」
「一体誰が言うのだろうな。」
どうも見られたくない姿だったのだろう。
それを今度は逆に受け流す。
「それよりも朝ごはんが出来ているぞ。食べるか?」
「・・・いただきます。」
話題の帰られたうえ、ごまかされたことでまだ不満があるようだが戻すつもりはないようだ。
こちらも下手に言ったらいろいろと面倒なことになりかねないので誰にも言うつもりもなかった。
「あれ、パンじゃないの?」
「ユウはパンが苦手だと聞いたのでな。今回は和食だ。」
以前にパンを余り食べないと聞いていた。
1人なら簡単なパンにしていただろうが今日はユウがいる。
ならばお客さんに合わせるべきだろう。
「京間ってなんでも作れるんだね。」
「別になんでもといわけでもないんだがな。1人暮らしをしていればそれなりにできるようになって当然のことだと思うのだが。」
京間は今は1人でアパート暮らしをしていた。
その関係で家事は一通り出来るようになっている。
飯を作るぐらい朝飯前だ。
「うん!良い嫁さんになれるよ!」
「だれが嫁だ!」
ユウの感想に思わず突っ込んでしまう。
さっきの仕返しかと睨むが全く気にしていない様子だ。
「せめて婿にしてくれ!」
「えっ。でも去年の・・・。」
「ユウ!それに触れないでくれ!」
去年のアレに関しては思い出したくもない思い出になっている。
京間は両耳を塞いで絶叫してしまう。
「ごめん。ごめん。おちついて。」
苦笑いをしつつ止めに来る。
あの事ははっきり言って忘れるべき出来事だ!
最近になってようやく薄れて来たのにまた思い出させないでほしい。
ユウが京間を落ち着かせるのに登校する時間まで続いてしまった。
あの後、落ち着いた京間たちはいつも通りの時間に出た。
校門に見知った人影を見つけた。
「いや~。良い朝だな~。」
「ああ、とても良い顔だね~!」
「おはようございます!」
「!!!」
2人ともその後ろからどんよりした雰囲気で話しかけた。
びっくりした響子が後ろを振り向いたら・・・。
「どうしたの?」
「・・・。」
「・・・。」
2人そろって笑顔なのだが恨みの込めた目線を響子に向ける。
そんな様子の2人に戸惑っている様子だった。
まだ気が付かないらしい。
「もしかして、俺たちの様子がおかしく感じているのか?」
「・・・もちろん原因も分かっているはずですよね、副会長?」
「あ、あの~。2人ともどうしたの?」
まだ分からないのか響子が質問には答えずに質問で返してきた。
どうやら昨日の件を忘れているみたいだ。
「ともかく、昨日の件は終わらしておいた。あとの事はやってくれ。」
「失礼しました。」
終わったという事の報告して教室へ向かおうとする。
「ちょっと待って、昨日の件て何?」
何を言っているのか分からなかった。
ユウは昨日の件が本当に響子から頼まれたのかと疑いの目を向けている。
「・・・アレを頼んどいてそれか!」
お前の責任だろという目で響子を見る。
「え、え、なに?」
響子は心辺りがないらしく混乱している。
畳みかけるように2人が言う。
「・・・昨日の俺が登校した時間帯にお前が俺に頼み事したよな?」
「放課後、いつもの部屋の電気がついていたので中に入りました。京間から頼まれたと聞いたので手伝うことにしました。」
京間も、ユウも相当怒っているのが分かる。
その雰囲気に押されたのか響子が後ずさりして逃げようと考えているのだろうがそれを許す2人でもない。
「えっと・・・。そうだっけ?」
「やぁぁぁっぱり!忘れていやがったなぁぁぁ!」
「・・・自分で頼んどいて忘れるのはどうかと思いますが。」
2人とも忘れたと感じていたが、言ったそばから忘れるとはまるで思わなかった。
その後2人は響子に愚痴を思いっきり言ってから仕方なく教室に向かった。
響子は作業の確認に行ってその量に唖然としたが我に返り急いで作業に取り掛かった。
だが確認のためにかなりの時間がかかってしまい、悲鳴をあげることになるのだが京間たちには関係のない事だった。
だがこの時、京間のスマートフォンにあるアプリのダウンロードが始まっていたのだがそのことに気が付くことはなかった。