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第一話 なんとなく寒気がするような

筆者がストレスを感じると投稿されます。


筆者はアホです。


頭を空っぽにしてお読みください。


万が一に魔がさしてシリアスが入った気がしても、気のせいのはずです。


以上、注意書でした。


黒里(くろさと) 亜心(つぐむね)は目付きが悪かった。


いや、より正確に言えば「顔が悪かった」。


無意味に国際婚を続けた家系ゆえに肌の色から顔立ちまでが国籍人種共に不明で異様な雰囲気を放っていたし、茶色の混じらない純粋な黒の瞳は切れ長で整っているにも拘わらず異常なまでの威圧感を人に与える。


声は変声期前も低かったのに、中学に入って早々に訪れた声変わりで地獄の底から響くような恐ろしい声色になってしまった。


日本人の平均よりずっと高い身長に、運動をしているわけでもないのに普通よりも筋肉質になる。


けれど運動はできない。持久力だけはあるのが、辛うじて救いというべきか。


それでも体格とそれに見あった筋肉量に対してあまりにも動きが鈍くさい。


見た目から鈍だとは想像してなかったのか、小学校時代のドッジボールで流れ弾に当たったとき、彼は周囲に笑いを巻き起こすどころか恐慌を引き起こした。


恥ずかしくて呆けていたことを黙っていたら予想外の展開が始まり焦ったのは忘れられない思い出である。


以降も余りの威圧感に混乱して殴りかかってくる不良の攻撃を食らって涙をこらえつつ黙って立ち去り家に帰って号泣(ただし唸り声にしか聞こえない)するという事件が起きた。


その不良に翌日から兄貴呼ばわりされるようになった。


亜心はいつの間にか「我に危害を加えたくばやってみるがよい。いつでも受けてたとうぞ、脆弱な愚民共が」という魔王なスタンスの持ち主だと思われるようになった…残念な話である。


その上、どうにも表情筋が上手く発育しなかった。笑えば嘲笑のようになるし、怒れば無駄に顔が強ばるし、泣こうとすれば狂喜を孕んだ笑みになる。


全体を見ればうっとりするほど整っているはずのパーツはどうしてか人の恐怖を煽り、劣等感を刺激し、全身を萎縮さてせばかり。


小さい頃は同年代の子どもには散々泣かれ。


思春期には女子に避けられ、男子は何故か勝手に小間使いになった。


社会人になって会社に勤めるようになっても、変わらない。


いつまで経っても女性は一人で声をかけてくれない。必ず集団か男性を伴って、距離を保って原稿を読み上げ事務的な会話しかしてくれない。おかげで、亜心は女性に対して適切なコミュニケーションが取れなくなってしまった。


どれだけ優しくしても男性は対等に話してくれない。上司さえ亜心の出方を探り、細心の注意と最大の敬意を払う。同期や後輩は言わずもがな。おかげで、亜心は男性に対して適切なコミュニケーションが取れなくなってしまった。


総合すれば、満遍なくコミュ障になってしまったということである。


声を出せば女性は崩れ落ちて後退るし、男性は泣いて慈悲を願うのだ。喋れなくもなる。


身振りで感情を伝えようとすれば、どこをどう間違ったのか誰かが死のうとしたり殺されそうになる。極力動くまいとした。


感情を顔に出せばとにもかくにも土下座される。もう、絶対に表情は動かさないと決めた。


亜心は彫刻のような会社の置物として出勤している。


他社との会議に出て黙っていればいいそうだ。


むなしい人生である。


ちなみに、彼はそのむなしい人生の潤いとしてニ◯テンドックスやどう◯つのもり、その他ギャルゲーを含むシュミレーションゲームで他者(?)との交流している。


特に◯ブプラスには感銘を受けていた。


そんな残念魔王ライフを送る亜心は夜道を歩いていた。


仕事は必ず定時の5時にはあげる…というか、あげられるのでいつもは夕方には帰れる。


だが、明るいうちに帰るとなけなしの仕事をしてるという実感が裸足で逃げていくので暗くなるまで適当に時間を潰すのだった。


ぶっちゃけ、クビになったのを言い出せないサラリーマンである。


今日も家に帰ったら一人かと思うと切なかった。


ふと亜心が空を見上げると、赤味を帯びた月がぷかりと浮かんでいた。


もう南東まで登った月は随分丸いものの、上が欠けていた。いわゆる上弦の月というもので、更に言えば十三夜月。


満ちゆく月。


なんとなく満ちる月を羨ましく思った亜心は自身のスマートフォンを取り出して画面を見た。


相変わらずの無着信。


メルマガすら届いていない。


ぐ、と呻いてアドレス帳を見た。


アドレス帳には叔父さんと仕事先と自称下僕の野郎共の連絡先しか入っていない。


要するに、たいした意味もなく連絡できる人間がいないのだ。


特に女性など、仕事の連絡先にもいない。


色々な意味で潤いが欲しいお年頃の亜心だった。


亜心はハッとして、最近笑顔ができるようになったことを思い出す。必死に懇願すればお食事くらい付き合ってくれる女性がいるのではないかという考えが脳裏を過った。


もうメンヘラちゃんでもおばさんでもいいから現実の異性と話したという事実が欲しい、亜心の願いは切実なのだ。


そうと決まれば、ナンパに勤しんでみるのも悪くない。


いつも人っ子一人自分の周りに近寄る人がいない事実を彼は思い出せない。自己の防衛は大切なのである。


鼻歌を歌うような気分で勢いよく振り向く。


顔が綻ぶどころか今にも人を射殺さんばかりの鋭い目になっていたが、問題ないはずだった。誰もいないから。


ところが。


突然足を止め、振り返った亜心の目の前に人影が現れた。



「あれ、なんですか、バレちゃったんです?」



亜心の凍えるバリトンとは正反対の春の日差しを彷彿とさせる優しいテノール。


電柱についた街灯をスポットライトのようにして現れたのは高校生くらいの少年だった。


少しだけくせのある焦げ茶の柔らかそうな髪に、優しさや誠実さが滲み出るような赤茶の瞳。亜心と同じくらい整った鼻梁でも与える印象はまるで逆。


親しみやすく、温かい気持ちになるような雰囲気を持つ少年だった。


亜心は内心「バレるって何だ?」と非常に焦っていたが、焦れば相手をこれ以上なく不安にさせる不敵な笑みになることがわかっていたので余裕を死ぬ気で醸し出した。


経験から偉そうにしたり余裕綽々で小馬鹿にしたような顔を心掛ければ素を出すより状況が悪化しないと知っていたのだった。


そんな表面上は泰然とどっしり構える亜心に少年は笑みを深めて語りかける。



「ねえ、いつ気付いたんです?僕、それなりに気配断ってたんですけれど」



お前が声かけた時だよ!と亜心は叫んでやりたかったが、沈黙を守った。


ここで下手に声を荒らげたら間違いなく通報されるという自信があったのだ。


こんなに好印象の塊のような少年を怒鳴り付けたりしたら、悪印象の権化たる自分など弁明の隙さえなく現行犯の実刑判決で何らかの罪に問われてしまう。


亜心は本気でそう思っていたのだった。


まず、亜心を通報したり逮捕する勇気のある人間などそうそういないのだが…知らぬが仏といったところか。


静かに、だがしかし、何よりも雄弁に語る視線を受けた少年は心底楽しそうに微笑む。



「…ふふふ、お見通しってことですか」



亜心は「怖いんで、ぜひお帰りください」と念じているだけだぞ、少年。


亜心が心の中だけで恐怖に震えてるとは露にも思わないらしい少年は燕脂色のズボンから何かを取り出して、歩み寄ってきた。



「やっぱり、貴方で当代の『悪』は決定です」



にっこり、爽やかな笑顔で少年はすっと亜心の手を取った。


意識の隙間をつくような流れる動きに反応が遅れる。


まあ、反応しようとしてもトロい亜心に抵抗する時間などないが。



「はい、首領たる証です」



ぽん、と軽いノリで掌に置かれたのは趣味の悪い指輪だった。


金属のような水晶のようなメタリックなのに透明で巨大なドクロが噛みつくような形の指輪である。


亜心は「ひぃいいぃ?!」と無表情ながら脳内で叫び、目の前の少年に恐怖した。



なんだコイツなんだコイツなんだコイツなんだコイツ!!!


こわっ!


怖い怖い痛い怖い怖い!


初対面の人間に意味不明なこと言って不気味な謎物質押し付けるとか?!



対人スキルが基礎もできていない自分には厨二病のお守り役は重すぎる。と亜心は踵を返して一目散に逃げ出した。


その動きは走るというには緩慢で、早歩きに見える程度だったが。


もちろん、指輪はぶん投げておいた。


河川敷の石に混ざれば見つけるのは大変だろう。と思って、5年ぶりの叔父以外の人間との会話が不成立だったのを残念に思いつつ亜心は最短の帰路についた。


十三夜月は上弦の月。


これからより面積を増すその赤い月に亜心はなんとなく身震いした。






亜心は一ヶ月後にどれだけこの瞬間を後悔するかをまだ知らない。


良くも悪くも。


運命と呼ぶべき何かが動いたのは、まさにこの時この瞬間だったのだ。


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