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上臈姉小路・弐

 前回、ぽちゃぽちゃもちもちな外見の下の、ダークな一面を見せた阿部伊勢守さま。

 一方、利用されるだけ利用され、ポイ捨てされた哀れな姉小路さま。


 世間の同情を一身にあつめた(?)アネゴですが、今回その考えがかわるかもしれません。



 姉小路さまなど上臈御年寄のお住まいは、大奥内高級官舎『長局向・一の側』です。


 広大な大奥は、男性職員が勤務する『広敷向』、将軍家族が住む『御殿向』、そして職員住宅の『長局向』にわかれ、長局はだいたい三~四棟ありました(時代によって多少かわります)。


 幹部用『一の側』は、一番南側。

 日当たり良好なメゾネットタイプの長屋で、一室約七十畳ほど。

 専用の台所、風呂、トイレ(二か所)、押入れ数か所、薪置き場・物置など、収納スペースもばっちりの快適空間です。


 上臈御年寄や御年寄たちは、個人的に使用人(部屋方)を十人ほど雇い、この広~い部屋の用をさせていました。


 ちなみに、幕末ころの上臈御年寄年俸は、いまの金額になおして約二千六百万円ほど。

 所得税・社会保険料負担なし、そのほか付届ワイロという雑所得もあります(うらやましい)



 さて、恵まれた労働条件のもと、優雅にお勤めしていた姉小路さまですが、天保十五年五月、自分の部屋ところから火を出してしまいました!


 火災は大奥だけにとどまらず、官庁・官邸・公邸…つまり本丸御殿全焼っ!


 今風にたとえるなら、首相官邸・公邸・私邸、国会議事堂、霞が関の官庁街を燃やしちゃったわけです。


 江戸時代、なにが一番こわかったかというと、それは火事。


 どこもかしこも木と紙でできた可燃都市・江戸。


 なので、放火は文句なしの凶悪犯罪。

 よって、市中引廻しのうえ火罪。


 依頼放火は、市中引廻しのうえ死罪。


 たとえ、過失であったとしても、平日失火は火災の程度により、十~三十日の押込。


 将軍外出日失火はとくに厳しく、火元――手鎖五十日、家主地主――三十日の押込、五人組――二十日押込。(恐怖の連帯責任)



 アネゴの場合、自室が火元となり、国の最高機関を焼き、公方さまを危険にさらしてしまったんです!


 当然、タダじゃすみません。

 最低でも、押込確実!

 ヘタしたら、自分自身がファイアー(解雇クビ)の危機っ!


 ところが、やはり最恐のラスボスは常軌を逸しておりました。


「うちじゃないわよ! となりの萬里小路のところから出火したのよ!」と主張。


「いやいやいや、みんな見てるからね?」

「あんたのところから、ボンボン燃えはじめたでしょう」

「うわっ、冤罪!」

「「「ないわ~!」」」


 と、みな思ったものの、ラスボスに逆らえるほどメンタルのつよい者など、だれひとりおりませんでした。


 かくして真実は闇にほうむられ、かわいそうな萬里小路さんは刑に服したそうです(ぐっすん)。


 このとき、ひとりの少女が御台所・広大院(島津家出身)からの命令で、寝たきりの幹部ババサマを救助しにもどり、ふたりとも焼死してしまいました。


 その少女は『奥女中の鑑』と褒めたたえられ、後世にまで美談として語り伝えられたのです。


(そうじゃなくて、姉小路をなんとかしようよ)



 ほかにも焼死した奥女中が数人おり、旧事諮問録によると、焼死者は十人におよんだとか。


 こんなオソロシイ惨事を引き起こし、同僚に罪をなすりつけた上臈姉小路さまは、その後もシレっとお勤めをつづけ、高給プラスワイロうはうはの日々を過ごしたのでした。


 めでたし。めでたし。

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