紅い満月
何も、見えない。
なにも、感じられない。
ただの恐怖だけが、今の私を襲う。
ただ聞こえる、発砲する拳銃の音が私の恐怖を煽りたてる。
紅い満月、見えなくても感じられなくても、本能でひしひしと伝わってくる。
「マリ……?キロ……?みんな――――?」
今そこにいるかもわからない自分の友達の名前を呼び続ける。
もしかしたら発砲した銃弾の餌食になっているかもしれないのに、一人になる自分が怖くて、誰かに助けを請いたかった。
「・・・・・・・・・・」
でも、決して私の声に反応をしてくれる仲間いなくて、一人ぼっち。
誰か……誰か反応してよ――――
怖いんだ、「もう」一人になるのは―――――
「こっちだっていってるでしょ!」
誰かわからない、でも確かに私の手を引いてくれる強い手の温かさを感じとった。
なされるがままにその手の引かれるままに、私はついて行った。
敵だろうが味方だろうが、関係ない。
ただ、その人について行くしかなかった。
「あんたなにやってるのよ!あのままじゃ一瞬でハチの巣だったわよ!?」
しばらくすると、いきなり怒鳴り散らされた。
声が響く。ここは洞窟か何かなのだろうか。
それすらもわからない、今の私は「何も」みえないのだから。
「狼ともあろう者が、視覚と嗅覚が優れてなくてどうするの!」
ものすごく怒鳴り散らされている。全くその通りなわけなのだが、言い返す言葉も見つからない。
視覚は奪われ、嗅覚は昔からよくないからだに生まれてしまったのだから。
私の呪いは嗅覚から始まり、5感すべてを蝕み再起不能にしていくのだから。
しかも、その進行具合が著しく早くなった時に、この「残虐」が起きたのだ。
「……もしかしてあなた――――」
しばらく何も言い返せないでいると、何かを察したかのような声のトーンになった。
表情もきっと違うんだろう。怒りの表情から、驚愕の表情に変わっているに違いない。
でもしょうがない、今の私は驚かれるような体をしているんだから。
「見えない……の……?」
「……はい」
「感じれない……の……?」
「……はい」
何も言えない。ただ、肯定をして首を縦に振ることしか、私には出来ない。
悔しい、この世界が苦しい世界になってしまった今、私にはどうしようもない思いしか残っていなかった。
どうしたらいいんだ、どうしようもない感情だけが心の中を駆け巡っている。
「……全く、早くそれ言いなさいよね。それじゃなかったら私だってこんな怒らないわよ」
「すみません――――」
「謝らないで頂戴。とにかく、この残虐からあなたは必ず『逃げなくちゃ』ならないの」
「どうして……ですか?」
確かに死にたくはない、まだやりたいことはたくさんある。
だけど、この人のいい方は明らかにそれと違った言い方をしている。
要は、私には何かの役目があると、そうとでもいいたいのか。
こんな何もできない自分に、果たして何ができるんだと。
「あなたは『行かなくちゃ』ならないの。ここにいては、いけない子なの」
「……?」
「くわしい話しはこの残虐が終焉を迎えてから。あなたはとにかく逃げなさい」
「でも……逃げるところなんて――――」
「この奥、そのまま進行方向に進んで行けば穴があるわ。そこは逃げる世界。あなたは今からそこに行きなさい」
「え――――」
「早くしなさい!あなたはここで捕まってはいけないの!この残虐の首謀者のアンフェール・ローガンに捕まってはいけないの!!そうしたら、『完成』してしまう」
「完成……?何で父上に捕まっては――――」
「ここに反応があるぞ!」
「なんだと!?急ぐぞ!!」
「しまった、見つかってしまったわ。いいから、私やアンフェールのことは考えないで!行きなさい!
―――――――――レーヴェ!!」
「………ん――――」
チュンチュン――――
「朝……」
嫌な夢を見た。
残酷な、あのときの夢。
「どうして―――――――」
「おーい、だいぶうなされてたけど、大丈夫か?」
「あっ、主。おはようございます」
何も変わらない朝。
主が私の事を起して、いつも通りの笑顔で迎えてくれる、そんな朝。
嫌な予感がする。こんな夢、そんなに見れたものじゃない。
「さっき涙声みたいな感じだったんだけど、ホントに大丈夫か?」
「えぇ、大丈夫ですよ?気にしないでください!」
「お、おぅ……」
そうだ、気のせいだ。
私の気がちょっとだけ違うんだ。
だから、気にしないでおこう。
たとえ今日があの日と同じ、紅い満月の夜だったとしても――――――――
どうでしたか?
感想は書けるかわかりませんが、下さると本当にうれしいです!
文面の構成とか、その辺の指摘も待っております!