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戸惑い  作者: 星空
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第九話 携帯メール

親友の恋人に心惹かれていく弘美。そして、矢崎もだんだん弘美の事が気になり始める。

 少しずつ弘美からのメールが増えていく。

『矢崎さん、おはよう^^』『今日はあったかいですね』『ねえねえ、昨日のテレビ見ました?』・・・たわいもないメールだったが、いつのまにか、矢崎は彼女からのメールを待つようになった。一日に多くても2・3通くらいだった。それほど多くはない。しかし、だから余計待つようになったのかもしれない。メールというのは、不思議な効果を持っている。だんだんマジックにかかってしまうような感じだった。

『昨日眠れなかったの。は〜(;;)まだ私、失恋から立ち直ってないのかも。』

『そうか・・そんなにすぐに立ち直れるものじゃないさ。』

『ありがとう、慰めてくれて。・・そうだ、明日の夜、飲みにいきません?』

『いいよ、いやなことは、時には飲んで忘れるといいよ。』


 弘美は内心(やった〜)と思った。自然に矢崎を誘うことができたのである。二人きりで飲むのは、これが初めてだった。いろいろ考えた。でもやっぱり一番自然なのは、彼のほうから弘美を好きになってもらうこと。だって、弘美から告白するわけにはいかない。理由は簡単。親友の恋人だから。ただそれだけ。

 その夜弘美は、わくわくしてなかなか寝付けなかった。


 瑤子は明日の夜、再びラリー・カールトンのライブだった。今度は横浜。東京のときと同じように、また心が躍っていた。そんな時、メールが入った。

『明日の夜、弘美に誘われたんだけど、一緒に飲み行かないか?』

(え?なんで?)

どうして弘美が矢崎を誘うのだろう。どうしてだろう・・・。まさか・・・。(そんなはずないわよね)瑤子は少し混乱した。でも、すぐに気を取り直した。(何か相談事があるのかも。)矢崎に返信メールをした。

『あら、弘美からデートのお誘い?』

皮肉た埔里のメールをわざと送った。それだけ瑤子は、矢崎が自分を好きだということに自信を持っていた。

『そんなんじゃなくてさ、失恋から立ち直れないらしいよ。』

(嘘よ。)あれ以来、弘美の様子は、矢崎が言うような「失恋から立ち直れない」という、そんなふうにはとても見えなかった。瑤子には隠しているのか。それとも、矢崎に対して嘘をついているのか・・・?何のために嘘を・・?瑤子は妙に頭が冴えていた。もしかして・・・ひょっとしたら、そのもしかして、かも知れない。弘美の気持ちは同じ女だからわかる。少し考えてから、矢崎にメールを返した。

『あら、弘美、かわいそうにね・・。矢崎さん、じゃ、よく話聞いてあげてね。』

きっと矢崎はあわてるはず。瑤子のメールで、きっと言い訳を言い始めるはず。そんな気持ちで、皮肉たっぷりのメールを送った。

 そのメールを読んで、矢崎は、少しむっとした。(なんていう返事なんだ。)

『君はこれないのか?』

再び矢崎からメールが入った。今度は瑤子がカチンときた。(どうして?忘れたの?)

『私は明日はコンサートに行きます。前にそう言ったでしょ?』

そうメールを送った。二人の会話が少しずつすれ違っていく。

 瑤子は、何だかむしゃくしゃしてきた。結局、弘美と矢崎が二人で飲みに行くということなのだ。瑤子がいないのを知っていてのことではないのか。猜疑心さえ生まれた。しかし、そんな考えはすぐに打ち消して、矢崎からのメールの返事を待った。


 矢崎の携帯電話がなった。

「もしもし。」

「矢崎さーん・・・」

「どうした、弘美・・・」

「・・・」

「弘美?」

「・・・」

「一体どうしたんだ、弘美!」

電話の向こうで弘美のすすり泣く声が聞こえた。

「・・ごめんなさい。なんでもないの。ちょっと矢崎さんの声が聞きたくなって。」

「どうしたんだ、大丈夫?〜」

「〜・・うん。もう大丈夫。」

突然の電話に矢崎も困惑したが、泣いている彼女をほおって置けなくて、わけもわからず励ましていた。弘美は、寂しさに耐え切れず、矢崎に電話をした。そして、つい泣いてしまった。それは、けして狂言でもなんでもなかった。矢崎をそれほど思っていた。しかし、本心を言うことのできない苦しさゆえに、涙が出てしまったのだ。

 弘美は矢崎を頼っていた。寄りかかってきたのだ。矢崎は、そんな弘美をかわいいと感じた。

 明日また会う約束をして、電話を切った。矢崎はその夜、複雑な思いに駆られた。(俺は何を考えているんだ。弘美は瑤子の親友じゃないか・・)矢崎は一人、悶々としていた。そして、すっかり瑤子からのメールのことは忘れてしまっていたために、返事を返すことをしなかった。


 矢崎から返信メールが来ないので、瑤子はきっと、矢崎は怒っているのだと思った。なぜなら、もともと一人でコンサートに行くことを良しと思っていない彼に、前日になってそれを伝える形になってしまったからだった。勿論、彼には前から伝えていたつもりだった。でも、つい忘れたのだろう。しかし、瑤子はそんな矢崎を攻める口調でメールしたのだ。返信がないということは、きっと怒っているのだ。矢崎が良く取る手段だった。



 

弘美は完全に矢崎に心を惹かれてしまう。そして矢崎も。そんなときに瑤子と矢崎は心がすれ違ってしまう。果たして、二人の溝は埋まるのだろうか。それとも・・。

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