第八話 移り気
矢崎に惹かれる弘美は、自然と嘘をついてしまった。そして矢崎は、その嘘に少しずつ乗せられていく。
瑤子は、目の前の失恋したての弘美に気を使っていた。そして、隣に座っている矢崎も、しきりに弘美を慰めていた。
「彼はいいやつだけど、弘美には合わないって感じだったよ。」
矢崎は瑤子に説明した。
「そうだったの、でも、弘美のほうもそれほど、って感じだったんでしょ?」
そう瑤子が弘美に尋ねた。
「そうね、そういわれればそうかも。」
そう答えると、弘美は食後をコーヒーを飲み干した。
「そうなのか?弘美。俺は結構ショックなのかと思ったよ。」
矢崎も、コーヒーを飲みながら弘美に尋ねた。
「確かに、ショックはショックだったわ・・」
瑤子は、怪訝そうに矢崎の顔を見た。矢崎もきっと瑤子の方を見ると思った。でも、矢崎は弘美をとても心配そうに見ていた。(何だか、弘美、言ってることが違うみたい。)正直瑤子はそう思った。
弘美は、といえば、寂しそうな表情をしていた。(朝はそれほど落ち込んでないって言ってたのに、今は何だか落ち込んでる。どっちが本当なのかしら・・)瑤子はちょっと不思議に思っていた。
「そろそろ行こうか。今日は俺のおごり。」
伝票を持つと、矢崎はレジに向かった。瑤子と弘美は、礼を言うと、先に外に出た。
「ねえ、弘美。」
「え?」
「ほんとはどうだったの?そんなにショックだったの?」
「お待たせ。」
矢崎の声で、二人の会話は途中で終わった。
相変わらず元気のなさそうな弘美を、矢崎が気遣っている。男のほうが優しい、というのは、こういうときの態度から言うのかもしれない。そして反対に、女性同士というのは、見方が厳しいものなのかも知れない。瑤子は弘美のことをさほど心配してなかった。でもまだその時の瑤子は、少しも気づいていなかった。恋人の矢崎の心が、弘美に少しずつ移り始めていたことに。
何かがおかしいと気づき始める瑤子。弘美への同情が愛情に変わりつつある矢崎。そして弘美は、親友の恋人を、いけないと思いながらも・・・