第七話 恋心
失恋した弘美は、思いがけず矢崎の優しさに触れ、気持ちが揺れ動いていた。そして矢崎も・・
「おはよう。」
「あ、おはよう、弘美。昨日のデートはどうだった?」
「あれ?瑤子、矢崎さんから聞いてないの?」
「ええ、聞いてないわよ。」
弘美は、思った。(瑤子と矢崎さん、もしかして・・あまりうまくいってない?)
「あのね、高田君、彼女がいたのよ。」
「あら、そうだったの、残念ね。弘美、でもそれにしては元気ね。いつもはもっと落ち込むじゃない。」
(落ち込まなくてすんだのは矢崎さんのおかげ。)
そう心で思ったが、そんな言葉を飲み込む。
「ま、それほど思い入れがなかったっていうこと。」
「へーそうだったの。そんな風に見えなかったけどね。」
本当は瑤子の言うのが正しかった。いつもだったら、もっと落ち込んで瑤子に愚痴をいっぱい聞いてもらうところかもしれない。でも今回は、矢崎がそばにいて慰めてくれたから、それでもう十分だった。というより、失恋した弘美の心に優しく寄り添ってくれた矢崎に、ふと恋心が芽生えてしまったからかもしれない。弘美にもよくわからなかった。ただ、夕べから急に、矢崎のことが気になり始めているのは確かだった。
昼休み。矢崎からメールが入った。
『ランチ一緒にしよう。〜』
瑤子は『OK!』とメールしておいた。
弘美がやってきた。
「瑤子、ランチ一緒にどう?」
「あ、ごめん、矢崎さんと一緒に行くんだ。」
「知ってる、知ってる、矢崎さんから誘われたのよ。」
(え?なんで?)一瞬瑤子は戸惑いを感じたが、気を取り直して答えた。
「あ、そう。わかった、じゃ一緒に行こっか。」
(きっと昨日のことを話そうと思ったからか。)瑤子はそんなことをふと思った。
しかし、矢崎に誘われたというのは弘美の嘘だった。彼女は急いで矢崎にメールした。
『昨日はありがとうございましたm(__)m一緒にランチでもどうですか?瑤子を誘ってみたら、矢崎さんも一緒って聞いたから(^^)』
程なくメールが帰ってきた。
『了解。元気になった?昨日のショックは大丈夫?』
『大丈夫、ありがとう。でも矢崎さんがいなかったらどうかわからなかったな。そばにいてくれて本当に嬉しかったです!』
『それは良かった。じゃあとでね。』
『は〜い^^矢崎さんって優しいですね〜☆』
『いや、そんなことないさ。〜』
なぜかやり取りが今までになく長かった。弘美のメールで矢崎の心も何だか癒される気がした。昨日から矢崎は弘美の事を純粋に心配していた。一応彼は夕べ、恋のキューピット役だったわけで、それなのに弘美は悲しい失恋をしてしまった。少しだけ責任を感じていた。そのせいか、同情というのか優しさというのか・・そんな気持ちを自分なりに弘美に向けていた。でもそれは別にいやなことではなかった。自然の成り行きで、弘美の心に寄り添っていたのだった。ほおっておけなかったのだ。同時に、自分が必要とされていることが嬉しかったのかもしれない。でも彼は、そんな自分の気持ちを見ないようにしていた。しかし、そう思えば思うほど、なぜか弘美のことを心配してしまう自分がいた。
矢崎と弘美そして瑤子、果たしてこれからの三人の関係は・・・?