第十話 嘘
親友の恋人、矢崎に思いを寄せる弘美。つい携帯に電話をしてしまう。寄りかかってくる弘美に、矢崎もつい心が動く。
次の日、会社で弘美と顔を合わせると、瑤子は言った。
「おはよう、弘美。」
「おはよう、瑤子。」
「ね、弘美、今夜矢崎さんと飲みに行くんですって?」
「そうなの、でも瑤子は来られないんでしょ?」
「え?あ、うん。そうなの。」
「残念だわ。せっかく3人で行こうと思っていたのに。」
弘美は、次から次とよく嘘が出るものだと自分でも不思議に思った。
「どうして?」
「え?」
瑤子はストレートに聞いてみた。
「どうして、彼を誘ったの?彼は私の恋人なのよ。」
「あら・・誘ったのは矢崎さんのほうよ。」
「そんなはずないわ・・・」
そう言いながら、瑤子は戸惑いを隠せなかった。
弘美はさすがに胸が痛んだ。本当に、どうしてこうも嘘ばかりつけるのだろう。
「ね、瑤子、瑤子は本当は矢崎さんのこと好きじゃないんじゃないの?」
「え・・?」
「あ、ううん、なんでもない。冗談よ、冗談。違うの、今日は、矢崎さん、失恋した私を慰めてくれるつもりなのよ。本当は瑤子と一緒に、ね。でも瑤子は来られないって聞いたから・・・残念だなって思って。どうして来られないの?」
瑤子は、少しくらくらしていた。弘美が自然に何気なく話してくる矢崎への信頼が、少しずつ崩れていくのを感じた。
「今晩はコンサートなのよ。」
「あら、今日も?」
「ええ、そうなの。」
「確か、この前もそうだったわよね。私がダブル・デートを企画した日。」
「ええ、そうよ。」
「そうか、なるほど・・・誰かと一緒に行くの?」
「いいえ、ひとりよ。え?なに?何がなるほど、なの?」
「ううん、なんでもない。じゃ・・」
そう言うと弘美は自分の部署に戻った。
瑤子は心が揺れ動いていた。(いいえ、そんなはずはない、矢崎さんが弘美を誘うなんて・・・)
弘美は、自然と瑤子に嘘をついてしまう。そのせいで、少しずつ矢崎に対する瑤子の信頼が崩れてきてしまう。矢崎への不信と、瑤子の心にできた隙間、これから彼らの三角関係は、一体どうなっていくのか・・