表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/36

第21話 最終選別の日

ここから物語の2部に移ります。アイリスを応援ください。

最終選別は、祝福の儀式ではなかった。


それは、通過を許されるかどうかを確認するための、静かな検問に近い。


十二歳の春。


王都の空は高く、冷たかった。


馬車の中で、アイリスは窓の外を見ていた。

王城の尖塔が、少しずつ近づいてくる。


隣に座る父レイモンは、黙っている。


話すべき言葉は、すでに尽きていた。


この二年間、

二人は手紙で多くを語り、

直接会うたびに、逆に言葉を失ってきた。


それは、距離ではなく、

理解が深まった結果の沈黙だった。


王城の奥、選別の間。


天井は高く、音が反響する。


並ぶのは、司祭、王室魔法顧問官、記録官。

誰一人として、感情を表に出さない。


名前が呼ばれる。


「アイリス・エンゲルス」


彼女は一歩前に出る。


ドレスは質素だった。

派手さはない。

だが、よく整えられている。


子どもでもなく、

まだ少女とも言い切れない。


その境界に立つ姿。


儀式は、淡々と進む。


魔力の測定。

属性の確認。

精神安定性の観測。


光でもない。

闇でもない。

四大魔法のどれにも属さない。


顧問官の一人が、低く言った。


「……やはり」


司祭が記録を確認する。


「図書館系統。極めて稀」


言葉に驚きはない。


驚くこと自体が、

この場では不適切だからだ。


「危険性は?」


短く、王の代理が問う。


顧問官は答える。


「使用者の精神構造に依存します」

「現時点では、攻撃性なし」

「ただし……」


一瞬の間。


「知識の集積が、思想形成に直結します」


それは、警告だった。


アイリスは黙って立っている。


恐怖はない。


すでに知っている。


知は、常に警戒される。


画像

司祭が問う。


「貴族学校への入学を、望みますか」


形式的な質問。


答えは決まっている。


「はい」


声は、静かだった。


強くも、弱くもない。


それが、最適だった。


最後に、父が呼ばれる。


「文部卿レイモン・エンゲルス」


父は一歩前に出る。


「この子の後見を、引き続き務めるか」


「はい」


「王室と教会の命令に背いた場合、

 責任は?」


「私が負います」


その言葉に、迷いはなかった。


アイリスは、その横顔を見ていた。


(……この人は、守り方を知っている)


過剰に庇わない。

だが、退かない。


儀式は、それで終わった。


判定は、後日通知される。


だが、空気で分かる。


通過した。


祝福はない。

拍手もない。


ただ、次の場所が指定されるだけだ。


王城を出たとき、

風が強く吹いた。


アイリスは、思わず息を吸う。


外の空気は、自由に近い。


父が言った。


「……よく耐えたな」


それだけ。


褒め言葉ではない。

事実の確認だ。


アイリスは頷く。


「準備は、できています」


それもまた、事実だった。


その夜。


宿舎の小さな部屋で、

アイリスは一人、目を閉じる。


内なる空間に、

あの一冊の本がある。


『貧困』


まだ、一冊。


だが、もう分かっている。


貴族学校では、

本が増える。


人が増える。

思想が増える。


それらを、

書架にする時が来た。


入学は、救いではない。


だが、観測点ではある。


アイリスは、静かに理解する。


ここから先は、

学ぶために行くのではない。


編むために行く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ