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第17話 経過選別

八歳のとき、アイリスは一度、選別を受けている。


ただし、それは「判定」ではなかった。


記録上の呼称は、

暫定観察。


力の有無を確認し、

将来的な危険性を測るための、

いわば 予備線引き だった。


今回の呼び出しは、それとは違う。


経過選別。


力が「残っているか」

性質が「変化していないか」

制御が「継続されているか」


それを確かめるための儀式。


結論は出さない。

だが、方向性は固定される。


馬車の中で、父レイモンは何度も口を開きかけ、やめた。


十歳の娘に向ける言葉として、

正しいものが見つからなかったのだ。


アイリスは、それを理解していた。


(……父上は、私を守れなかったと思っている)


だが、彼女は否定しない。


守れない状況があることを、

彼女自身がよく知っていたからだ。


「これは、最終ではありません」


大司教は、儀式の冒頭ではっきりと告げた。


「最終選別は、十二歳。

貴族学校入学前に行われる」


王権側も頷く。


ここで確定すれば、

取り返しがつかない。


図書館魔法は、

まだ「使途」が定義できない。


だから、保留する。


それが、彼らの合意だった。


画像

魔法陣は、静かに反応した。


八歳のときと同じ。


光でもなく、闇でもなく、

元素の揺らぎもない。


ただ、整然とした応答。


安定している。


それが、最も評価され、

同時に、最も警戒された。


「力は減衰していない」


「むしろ、整理が進んでいる」


司祭たちの低い声が交わされる。


父レイモンは、背筋を正した。


誇らしい。

だが、同時に分かっている。


この安定は、

「管理可能」と判断される材料になる。


大司教が告げる。


「よって、結論は変わらず」


保留。


ただし、条件付き。


「教育体制を、強化する」


その言葉に、アイリスはわずかに息を整えた。


(……来る)


「現行の家庭教師は、任を解く」


名前が出た。


「ミザリー女史を、新たに配属する」


空気が変わる。


ミザリー女史。


宮廷内で知られた名だ。


礼法の鬼。

感情を許さない教育者。

「余計な思考」を削ぐ専門家。


本に触れる時間は、

ほぼ消えるだろう。


父レイモンは、一瞬だけ拳を握った。


だが、何も言わない。


ここで異を唱えれば、

それは「危険視」の材料になる。


彼は理解していた。


だから、娘を見る。


その視線には、

謝罪と信頼が混ざっていた。


アイリスは、静かに一礼した。


反抗もしない。

迎合もしない。


信義を守る。


それが、今できる唯一の選択だった。


儀式は短く終わった。


祝福もない。

拍手もない。


ただ、記録が残る。


十二歳、最終選別予定。


その一文が、

彼女の未来を縛る。


外に出ると、風が吹いた。


長くなった髪が、

頬にかかる。


父は、それを見て思う。


(……もう、子どもではない)


だが、まだ少女でもある。


その曖昧さこそが、

今の彼女の立ち位置だった。


王都侯爵邸に戻る馬車の中で、

父は初めて言葉を絞り出した。


「……すまない」


アイリスは、首を振る。


「必要なことです」


その答えに、

レイモンは胸が詰まった。


この娘は、

自分よりも早く、

世界の仕組みを理解してしまった。


その夜、書棚が封じられた。


翌朝、ミザリー女史が来る。


より厳しい日々が始まる。


だが、アイリスの中では、

すでに整理は終わっていた。


(……十二歳まで)


それが、ひとつの期限。


そこまで生き延び、

学び、

構造を読み切る。


信義は、まだ失われていない。

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