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自家製。 其ノ壱

生まれて初めての書き方でした。

「ボイスドラマとは、なにか」

 とても真剣な顔で、愛莉は口を開いた。

「声だけのドラマ。声だけの劇の事。なら、別に衣装とかカメラ映えとかを気にせんとも構わないのではないか?」

 キッチンの前に仁王立ちしたまま、高々と頭を上げて語り出す。語る相手は、目に見える姿を持たない何かだ。言い換えると何も無いところに目を向けたまま一人語りをしている。

 うんうんと一人頷きながら、力強い声を発する。

「最近、TRPGを楽しんでいたら演技が上手になった。リスナーもみんな『上手ー』ってちやほやしてくれている」

 まるで演技でもしているかのように、手を広げ、風を受けようとする。室内だから当然風はない。

「何してんの?」

 あるのは、ドン引きしてるような声だけだった。

「演技よ、劇。ドラマ。偽物の心をまるで本物のそれに近くして客に伝えること」

「それが?」

 キッチンの真ん中で両手を広げた愛莉はとても目立っていて、主人公の如く。その場をまるで自分だけのもののように使っていた。

 つまり、邪魔。

「ま、それより。退いてくんない?お腹空いたけど」

「むぅ、無視したな?わたしの心を台無しにしたなぁ?さてはあなた、わたしが嫌いなのね?」

「急にどうしたの本当…」

 ぷんぷんと頭を振って、全身で怒りを表す愛莉はとてもとても動きが多くて、そのまま素通りしようとしたかなめとぶつかってしまう。

「あいたっ!!?」

 本当は、かなめが殴った。あまりにも迷惑過ぎたのでついつい、手のひらで軽く頭をぶっ叩く。

 ちょっとやり過ぎたかも……と、内心反省するかなめだったけれども。

「あんたが騒ぐのが悪いのよ。こっちは昨日から何も食べなかったせいで腹ぺこでイライラしてるっちゅうに。あぁ?なんだその顔。やんのかぁ?」

 謝りは負けだと思うかなめは、逆ギレした。またしてもぺちぺちと愛莉を叩きながら、怒りをぶつける。

「もーっ、わかったわかったから痛い!痛いってば!んもぅ……痕残ったら全部かなめのせいだからね?顔でお金稼ぐ人は顔が大事なのに、顔を思いっきりぺちぺち叩かないの!お行儀が悪いんだから本当」

 殴られた事への怒りは少なく、かわりに容赦なく頭を狙ったかなめに怒る愛莉だった。

 ほんのちょっとだけ、DVってこんな感じなのかなって思ったりもした。


 ◇


「ボイスドラマを作ろう!」

 呆然としている鞠絵を前に、愛莉は片手を大きく広げて、もう片手は自分の胸を強く押し付けた。

 服にしわが出来るくらい、ぐっと。

「突然だね。なんで急に?」

 その手にそっと触れてみて、おぉ強い…って感心する鞠絵だった。

「やりたくなっちゃって」

「ほぇー」

 すぐにすんっと元通りに戻る愛莉。

「演技って面白くない?そういえば鞠絵、昔は演劇部だったよね。どうどう?やらない?」

「演劇部ではあったけど。私演技はやってないよ。やったのは服と、たまに台本?」

「いいじゃないそれくらいで。あの時出来なかった夢を今こそ叶えるの!どうどう?興味が湧いたんでしょう?演劇やりたくて仕方がないでしょう?!」

「全然」

「なんで」

「私、演技が嫌で服作ったの」

「じゃあ演劇部入る理由なくね?」

「友達に誘われたから」

「そうだったんだ………」

 あまり興味がなさそうな鞠絵を前に、当たり前なほどに大きく落ち込む愛莉だった。

「興味、ないんだぁ…」

 どうしてもボイスドラマがやりたいと、愛莉は言葉にせず行動で訴えかける。

 渋々と、仕方なく、愛莉に負けて鞠絵は口を開く。

「……ま、なにするの?ボイスドラマって」

「気になるの?知りたいの?一緒にやりたいの?」

 暑苦しいなぁ……顔をぱぁっと明るくして近寄せる愛莉に心で文句を言いながらも、鞠絵はぐっと堪えて会話を続ける。

「知りたい。やるのは、聞いてから」

「ふふふふ。いいぞいいぞ。最初はみんなそうやって始まるんだから…」

「……やっぱ知らなくても――」

「うわぁああ!話すね?話すよ?聞いてね?お姉ちゃん、今とても話したい気分!」

 こう見えても愛莉は年上だった。

 それよりも愛莉は、また聞きたくないって言われるよりも先に自分の心を語る。

「ボイスドラマって言うのはね、その言葉通りボイスのドラマなの。声の劇。画像がないアニメって言ったら伝わるかな…?」

「声優さんのみ?」

「そうそう!天才だねー。よしよし」

「終わり?」

「いやいやいや。まだまだだよ?聞いててありがとうね。それでわたしがやりたいのは、その画像のないアニメなの。鞠絵も一緒にTRPGやってたらわかるでしょ?素人でもそこそこ楽しくしてたじゃん演技。あれをやろうとしてね」

「シナリオ通りの?」

「そうそう。台本通りの」

「えー、絶対ない方が面白くない?」

「やってるわたし達は面白くても、聞く側からしたらむしろ台本がある方が楽しいの」

「ふーん。配信者だね」

「まぁね。長年やってたんだから」

「でも愛莉、今更ボイスドラマにする必要はないんじゃないの?顔出ししてるし。演技もちょっと前やってたし」

「演技をやってたからこそ、ボイスドラマをやるのよ。わたし器用貧乏がモチーフなんだから」

 それ悪口じゃね?って思ったけど、口にはしない鞠絵だった。

「だからだから、一緒にやろ?鞠絵は声がいいからさ、まだ顔出しもしてないし、リスナーさんもみんなドキドキすると思うよ?」

「えー…私が?」

「そうそう。わたしはもう顔出ししてるから、声と顔が何となく結ばれちゃったの。でもあなたは違う。顔がないから、どんな顔も使える」

「でも顔使わなくない?」

「それはそうだね」

「そもそもなに作るの?」

「まだ考え中」

「じゃあ決めたら言って」

「え、ちょっと?え待って行くの?ねぇどこ行くのー。ぇ…無視……?」

 なんだか、面倒事になりそうでこっそり逃げ出す鞠絵だった。しかし愛莉はそんな鞠絵を見て、静かに闘志を燃やす。

「…作ってやるよ、ボイスドラマ」

 そう静かに、はっきりと口にするのだ。


 ◆


 ♤どうどう?こんな台本!素敵でしょう?ボイスドラマを作ろうと頑張るボイスドラマ!

 ♡素敵だね。うんうん素敵。

 ♤なんか適当じゃない?

 ♡いやぁまさか。

 ♤絶対適当に答えてるでしょ。

 ♧まぁいいと思いますよ。やってみたら?

 ♤なんか馬鹿にされてる感が……

 ♢私って普段こんなイメージだったの…?

 ♡まぁまぁ。全部愛莉の妄想だから。

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