凱旋
私がアシュ様と合流しておよそ二時間ほどが経った頃、前方から馬が走ってくる姿が見えた。
どうやら二騎でやってきているようだ。
「あれがダクトレス皇か?」
「恐らくそうだと思われますが、斥候を出しますか?」
「いや、信じよう。不敬なことはしたくない。皆も手出し無用だぞ」
「かしこまりました」
アシュ様とリアスが会話をしている間も、私は黙ったまま駆けつけてくる馬の姿を見ていた。
ぼんやりとしていた姿はやがてくっきりと人の姿を映していく。
間違いない、お父様だわ。
そう確信した後、近づいてきたお父様たちは近くで下馬し馬を引き連れてやってきた。
お父様と先ほど一緒にいた老騎士の二人だ。
「お待たせしたな。私がオルフェリア皇、ダクトレスだ」
「初めまして陛下。私はアスタロスと申します」
「君がアスタロス殿下か。いい若者だ」
頭を下げるアシュ様にお父様は朗らかに笑いかけた。
「それと無理に娘を押し付けて申し訳なかった。このような状況になったのだから婚姻は解消してもらっても構わない」
「いえ……私はディフェルナ姫と出会えたこと、嬉しく思っておりますので」
「そうだったか。ディフェルナはいいのか?」
「……私も構いませんわ」
なんだか、凄く照れる。
そんな私たちの様子を見てお父様は笑った。
「爺よ。意外にもぴったりのパートナーとなったようだぞ」
「そうですな、陛下」
笑うお父様を見て、爺と呼ばれる老騎士も笑う。
あまり、接点のない人だったけれどよほど信頼しあっているのね。
なんだか羨ましいわ。
「それでは皇都に帰ろうか。爺よ、後のことは任せるぞ」
「……はっ」
「アスタロス殿下よ。この者は未だに残るオルフェリア軍を統率するために必要な人材だ。ヒグレシアに戻してやってほしい。反乱などは起こさないことは誓わせておく」
「オルフェリア皇の名において、しっかりと責務を果たすことをお約束します」
老騎士はアシュ様に跪き、お父様の名に誓った。
「わかりました、信じましょう。それでは陛下は我々とご一緒に」
「少しの間ではあるが、世話にならせてもらう。よろしくな、婿殿」
「い、いやぁ……気が早いですよ、陛下」
「何を言う、ディフェルナはまんざらでもない様子だぞ?なぁ?ディフェルナよ」
「もう!お父様!からかわないでください!」
「ふははは!」
お父様は上機嫌に笑った。
いつも無愛想な表情をしか見せてくれなかったお父様が、たくさんの笑顔を見せてくれる。
それが私にとっては嬉しく、そして悲しかった。
そして、それからの皇都への旅路はとても楽しいものとなっていく。
アシュ様もお父様と楽しく会話をし、ルヴィアも私の友達として紹介でき、私自身もお父様といっぱい話した。
だけどもそんな旅路もやがては終わりを告げる。
皇都に到着したのだ。
「ここからは私は歩かせてもらおう。ここまでの敗軍の将への温情を感謝する」
お父様は馬から降りると、騎乗しているアシュ様に礼をした。
「……わかりました。いざ凱旋だ!入城するぞ!」
うぉぉぉぉぉぉ!!!
アシュ様の号令に多くの歓声が上がる。
こうしてオルフェリア軍との戦争は終わりを告げた。
後は一番大変な戦後処理である。
そこからは私は関われないのだけど、陛下やアシュ様たちも悪いようにはしてくれないはず。
ただ、侵略されていた国たちがどこまで譲歩してくれるかはわからない。
「お願いします、アシュ様。どうかこの国を守ってください」
私は馬を進ませながらアシュ様にお願いをする。
「ああ、約束する。絶対に君の期待を裏切らないことを」
その頼もしい言葉が、私にとっての唯一の救いだった。
「ありがとうございます」
「それで……全てが終わったら……」
まっすぐに私を見て彼は言う。
「君と結婚したい。受けてくれるだろうか?」
「……本当に私でよろしいのですか?」
「ああ、君しか考えられない」
「よろしく、お願いいたします……」
「そうか……そうか!やったぞ!」
馬上ではしゃぐアシュ様の嬉しそうな表情。
それを見た私の顔も熱くなっていく。
まるで初めて恋を知った少女のように。




