父との対面
ベクアールを皇都に送る部隊と分けて、私たちは進軍を続け副首都であるヒグレシアが見える場所までやってきた。
「あれがヒグレシアか」
「はい、そうです」
アシュ様の問いにライゼンが答える。
「私も見るのは初めてですね」
「そうなのか?」
「はい、皇都から出たことがありませんでした」
「ふふっ。君はよほど父上に大切にされていたのかもしれんな」
「そうだったのかもしれませんが、私はいろいろな場所に行ってみたいと思っていました」
「父娘とはなかなか相容れないものだな」
アシュ様の言葉に父の不器用な愛情を今になって思う。
それでも私は、父を説得するためにここまでやってきた。
それが父の命を奪うものになることも重々承知の上で。
「それでは、行ってまいります」
「……ああ」
私の言葉にアシュ様は少しのためらいを見せたものの、しっかりと頷いてくれた。
心配と信頼。
その二つを十分に感じ取った私は、ヒグレシアの門へと愛馬のジェンナを走らせた。
ドッドッドッドッ。
一定のリズムで走るジェンナの力強さが私に安心さを与えてくれる。
その頼もしさを嬉しく思い、私は背中を撫でた。
するとさらにスピードを上げて、城門へとたどり着く。
戦時中ということでしっかりと閉められた鉄製の門からは威圧感を覚える。
きっと多くの門兵が門の背後にいるのだろう。
「誰だ!貴様は!」
城門の上から声が聞こえた。
「私はディフェルナ!オルフェリア第一皇女です!父に会いにやってまいりました!」
「……陛下に確認するので少々お待ちください!」
その言葉をもらってからおよそ五分後、重い門が開いていく。
「陛下がお会いになるそうです。どうぞご案内いたします」
数人の騎士が、馬を携えて私を迎え入れてくれる。
武器は持っていないことによって敵意を感じない。
「ありがとう」
私は先導を任せて、ヒグレシアへと入っていった。
───一方、陣で待機するアスタロス───
「殿下、ディフェルナ様がヒグレシアへと入っていかれました」
「ふぅ……やはりフェルナが言うように説得の余地はあるようだな」
アスタロスはリアスの言葉に安堵の息を吐いた。
「ですが、都内で暗殺するという手段を取る可能性もございませんか?」
「ダクトレス皇に戦い振りを聞く限り、そこまで卑劣なことはするまい。それに相手は娘だぞ?」
「娘だからこそ、自分の手で討ちたいと思われていませんかね?」
「……なぜ貴様は私を不安にさせるのだ?」
「そ、そういうわけではございませんが、可能性の話でして……」
「そんなことを言われてみれば、確かにその可能性はあるやもしれん……やはり止めるべきだったか……」
「殿下、フェルナが言ったことを信じましょう。それが待つことのみができることの定めです」
おろおろしだしたアスタロスにルヴィアがきっぱりと言い切った。
「う、うむ……そうだな……ルヴィアの言うとおりだ。私は信じて待つ」
そう言って、再びヒグレシアの方へと向かうアスタロスであったが、その足は若干の震えが伴っているのだった。
───ヒグレシア、王の間───
副首都であるヒグレシアにも王の間は存在し、ディフェルナはそこに通された。
そこには父であるダクトレスが玉座に座り、一人の老騎士が傍らで立っている。
「来たか、ディフェルナ」
「お久しぶりですね。お父様」
ディフェルナに視線をやる皇の表情は、とても和やかなものであった。
「どうしてここに来た?……なんて言葉はいらんだろう。私の首を取りに来たか」
「……そうです」
「ふははは!そなたの話を聞こう。それで私の首をくれてやるか決めてやる」
ディフェルナは豪快に笑う父を見て、その心中を察した。
父上は、すでに……
「これ以上の戦いは無意味です。軍を退いてください」
娘は死ぬ気でいる父に言葉を紡いでいくのだった。




