ベクアールの最後
「殿下、ディフェルナ様、オルフェリア皇子ベクアールを捕らえてまいりました」
追撃をしていた私たちとリアス、ルヴィアの軍が合流すると、大きめのテントの中でベクアールが両腕に鉄枷を嵌められた姿で連れてこられた。
「貴殿がベクアールか」
そう問いかけられたが、ベクアールはアシュ様の隣にいる私を睨みつけて吠えてくる。
「この売女が!祖国を裏切りやがって!」
「無礼な!黙れ!」
リアスが制止させようとするが、ベクアールはまったく口を止めない。
「何が平和だ!貴様のせいで幾人もの兵士が死んだぞ!」
「そうですね。そのことに関しては何も反論しません」
「ははは!そうだろうが!」
「それで?」
勝ち誇るベクアールに私は笑って問いかける。
「……あぁ?」
「尊い犠牲は出ましたが、これで戦争はほとんど終わりです。傷跡は小さくはありませんが、これ以上血が流れることは防ぎましたので私にとっては大勝利です。それに比べてお兄様はどうでしょうか?皇子としての地位は喪い、あなたの命は永くないのですよ?」
「……貴様、私を殺す気か!?」
驚いた顔を見ると、どうやら本気で言っているみたい。
どうして自分が生きられると思っているのだろう?
「当然でしょう?あなたは他国を侵略し、兵士のみならず民まで害した犯罪者です」
「私がオルフェリアのどの法を犯したというのだ!」
「オルフェリア軍法、第七条、戦争時であっても他国の民の命や財産を奪ってはならない。しっかりと記載されていますね」
「……私はそのようなことはしていない!証拠はどこにある!」
「証言者はいくらでもいますよ。ルヴィア、呼んできて」
「はっ」
ルヴィアがテントを出ていくとすぐに五人の人間がやってくる。
「き、貴様らは!」
「よく見知った顔でしょう?あなたの部下だった方ですから」
私たちは逃げてきたオルフェリア軍、しかもベクアールの側近を捕らえていた。
というよりも自分たちから捕まりにやってきたという方が正しいわね。
「どうかしら?あなたたちはベクアールの命令で非道な行いをしたのでしょう?」
「はい……我らはベクアール様の命に従い、他国の民を害しました……」
「貴様らも楽しんでやっていたではないか!」
「そのことに関してはしっかりと重罪に課せられます。ですが命じたのはあなただということがはっきりしましたね」
「うっ、あっ……」
ベクアールは全てを察したようで絶望の表情を浮かべ、地面に膝をつけた。
「な、なんとか助けてくれ!ディフェルナ!家族だろう!?」
そして歪んだ笑みを浮かべて必死に命乞いを始める。
「家族だからこそ、私が裁くことは致しません。オルフェリアの裁判所があなたを待っていますよ。おそらく極刑が下されることに違いはないでしょうが」
「ぐ……ぐぎぎ……ぐがぁぁぁ!」
ベクアールは狂ったように頭を地面にぶつけ始めた。
「もうよい。この男を閉じ込めておけ」
「かしこまりました」
アシュ様の言葉にリアスが応じ、ベクアールを引きずるようにして外に出した。それに続きベクアールの配下たちも続く。
「ディフェルナ、これで一段落ついたな」
「ありがとうございます。全てアシュ様のおかげです」
「何を言う。君が進言してくれたからこそだ」
「いいえ、私を信じてくださったアシュ様のおかげです」
「お二方、仲がよろしいのは結構なのですが、一応私もいますので」
少し見つめ合っているとルヴィアの声で、はっと意識を取り戻す。
「こほん……それでは次はオルフェリア皇のもとに向かうのだったな」
「はい。散り散りになった兵士を集め、父は副首都であるヒグレシアにいるはずです」
「そこで決着だな」
「ええ、終わらせます。この無意味な戦争を」
「……本当に、君だけでオルフェリア皇に会いに行くつもりなのか?」
「それが私の責務ですから」
父を止められなかった私にとって最後のチャンス。
ここで止めてみせる。
父の野望を。
「わかった。私たちは君を信じて待っている」
「ええ、待っていてください」
「フェルナ、必ず帰ってくるのよ?」
「もちろん。ルヴィアとは一緒に買い物にも行きたいしね」
「ふふふ、そうね」
「あぁ……ルヴィア。君は買い物は長い方かな?」
「アシュ様?何かご意見でも?」
「いや、何でもない」
こそこそとルヴィアと話すアシュ様に優しく問いかけたのだけど、そっぽを向かれてとぼけられた。
その様子が可笑しくて、私は笑った。
あと少しだけ、頑張りましょう。
そうしたら必ず楽しい未来が待っているから。




