初戦
「ようやく見えてきたぞ!」
ベクアールは馬の尻を懸命に剣の鞘で叩きながら馬を飛ばしている。
「で、ですが皇都前に広がる軍勢は……」
「あれはスイレース王国の軍です!」
隣にいる騎士たちが驚きの声をあげた。
「くそ!遅かったか!」
ベクアールは唇を噛みつつも即座に今後のことを考えていく。
完全に皇都は制圧されているようだ。
それに相手の数は多い。
見るからに三万はいるだろう。
一方で我が軍は三千ほど。
一旦退いて父上と合流するか?
口惜しいがそれしかない状況か……
一瞬での思考、そして決断。
「減速!止まれ!」
ベクアールの命令で騎馬はすぐさまスピードを落として、やがて止まった。
よく訓練されている。
そんな状況の中、単騎でベクアールに近づくものがあった。
「あれは!?ディフェルナァァァ!」
一旦は落ち着いたベクアールの気概が再び燃え上がる。
「お久しぶりですね。お兄様」
「貴様か!貴様がこのような状況を生み出したのか!?」
「別に私だけの力ではありません。ただただ、オルフェリアという国が嫌われていただけですよ。自業自得です」
「オルフェリアの皇家に生まれた者がなんだその言い草は!」
「ただの事実です」
「貴様!殺してくれる!全軍!ディフェルナを討ち取れぇぇぇ!」
「ですがベクアール様!背後には多数の軍勢が!」
「あの程度!私が打ち砕いてやる!それとも貴様!私が信じられないというつもりか!?」
「いえ……わかりました……」
「全軍!突撃だ!オルフェリアの強さを見せつけてやれ!」
ベクアールの軍はディフェルナに向かって突撃を開始した。
「すぐに熱くなるのは、お兄様の欠点ですね」
ディフェルナはそう言うと迫ってくる軍を背に走り出した。
───オルフェリア皇都外壁前───
その様子を後方で見ていたアスタロスは、命令を発する。
「魔導兵!アイスアロー詠唱開始!」
「はっ!」
「槍兵は中央を開きつつ前進せよ!」
「はっ!」
「騎兵は半分に分かれ左右から包囲するように移動せよ!」
「はっ!」
アスタロスの命を受けて素早く実行していく兵士たち。
「詠唱完了いたしました!」
「よし!放て!」
アスタロスは前方にディフェルナがいることを承知で、魔導兵に命を発した。
数百もの氷の矢が分かれた槍兵と騎兵の間を通り、ディフェルナを先頭としたオルフェリア軍に襲いかかる。
「ふぅ……結構怖いわね……」
前方から襲いかかってくる大量の氷の矢。
大丈夫だとわかっていても恐怖心は残っている。
「守護、発動」
ディフェルナのその言葉で薄いベールの光が彼女と愛馬の前に現れ、彼女たちの周囲を包み込んだ。
そのベールはディフェルナに襲いかかる氷の矢を打ち砕く。
「ジェンナ、あなたは強い娘だわ」
ディフェルナは愛馬の首をさすると、ジェンナは嬉しそうに首を縦に振った。
アイスアローの群がディフェルナによって僅かに砕かれたものの、その多くはオルフェリア軍に襲いかかる。
だが、
「皆のもの!盾を展開せよ!」
ベクアールは即座に対応し、盾を展開させて身を守る。
氷の矢は鎧や盾に防がれ、砕かれたものの馬に当たり落馬をするものもあった。
しかし、それでもオルフェリアの突撃は止まらない。
「ディフェルナァァァ!」
ベクアールの叫びは先ほどよりも身近に感じているディフェルナだったが、彼女は安全圏に達した。
スイレース軍の槍兵とすれ違ったのだ。
「槍兵!中央集中!突撃を阻止せよ!」
アスタロスの命で一気に槍兵たちは生きた柵となり、槍を構える。
それは騎馬の突撃を止めるには最も効果的なものだった。
「ベクアール様!このままでは串刺しにされます!」
「くそ!半分を貴様に預ける!中央から二手に分かれるぞ!」
「しかし!スイレースの騎兵たちがこちらを囲うように展開しています!このままでは包囲され各個撃破されていきます!」
「ぐぬぬぬ……!」
ここまでバカにされて退かねばならんのか!
これが……これがオルフェリアの皇子の姿か!
「……退くぞ!包囲を突破して後続と父上と合流する!」
その命が発せられた同時に騎兵は減速し、反転する。
そして今度はディフェルナから遠ざかっていく
った。
「あのまま突撃してくるかと思いましたが、冷静さがあったのですね」
ディフェルナはアスタロスと合流すると、ジェンナから降り立った。
「皇子としてよりも指揮官としての立場を優先したのだろうな」
「意外な一面を見た気分です」
「だが、退いたところで結末は変わらない」
「ええ、むしろここで散っていった方が楽だったと思います」
「それではいくか」
「はい」
二人はオルフェリア軍が巻き上げる土煙を見つつ、動き始める。
「全軍!追撃に入る!」
アスタロスの声は天にも届くほどに広原に響いていくのだった。




