平原での会談
「殿下、前方より馬車が接近中とのことです」
一般兵から報告を受けたリアスがアシュ様に伝える。
「一般の馬車か?」
「それがそうではないようですが、武装した兵士はいないとのことです」
「ふむ……とりあえず速度を落とすことにしよう」
「はっ」
アシュ様が命を下すと、すぐに騎馬のスピードは常歩程度にまで落ち着いた。
それから少しして前方から馬車がやってくる。
確かに一般の馬車とは違い、しっかりとした外装が施されているようね。
その馬車は少し離れた場所で停止すると、中から一人の老人が降りてきた。
あれは……!
「あの方はドレシュと言ってオルフェリアの内務大臣をしている方です」
「ふむ。そのような方がわざわざ前線までやってくるとは、私とフェルナで対応するとしようか」
「はい」
「皆はここで待つように」
「かしこまりました」
あちらが徒歩なので私たちも馬から降り、徒歩で近づいていく。
すると手を伸ばせば触れられるような位置にまでやってきた。
「お久しぶりですな。姫様」
「ドレシュ先生、元気にしてましたか?」
「ホホホ、先生はもうやめてほしいものですぞ?」
「いいえ、ドレシュ先生はいつまで経っても私の先生です」
「姫様は頑固な御方じゃ。お初にお目にかかります。アスタロス殿下、私はドレシュと申します」
「丁寧な挨拶痛み入る。だが、場所が場所だ。早速用件を聞きたい」
「はい。スイレース王国はオルフェリアをどうなさるおつもりですか?」
先生の表情が今までに見たこともないような恐い様相へと変わる。
そしてその強い言葉に私は息を呑んだ。
「私は良い隣人となりたい。それは陛下も同じ気持ちである。私が望むのは侵略主義の放棄だ」
「では民には一切手を触れないということですか?」
「ああ、オルフェリアを統治するつもりもない。必要なのは、責任者の首だけだ」
「……そうですか」
責任者、お父様とお兄様の命は必須条件。
これらがないとオルフェリアの存続に周辺国が納得しない。
正直、同じ時を過ごしたお父様とお兄様を討つことには抵抗がある。
お母様を愛したお父様は、私には無関心を装うっていたもののたまに撫でられたときの優しい瞳は今でも覚えている。
お兄様だって小さなころは一緒に遊んでくれていた。
だけど今は、許されないことをしているのが事実。
だからこそ、私は二人を討つ覚悟を持ってここに来ている。
「……姫様もその気持ちはご一緒ですか?」
「ええ、それが平和になるために必要なことだと思うから」
「強く、なられましたな……わかりました。留守を預かる私ドレシュ、ここに降伏を宣言いたします」
「そうか。ありがとう」
「ドレシュ先生、ありがとうございます」
「いえいえ、皇都に残されているものは姫様の派に属するものばかりです。儂がいなくても結果は同じだったでしょう」
「いいえ、ドレシュ先生がいてくれたからこそ私を指示してくれた人もいるのですから」
「そう言っていただけると教師冥利に尽きますな。それでは私と一緒に皇都へ向かっていただけますか?」
ドレシュ先生は再びアシュ様に問いかける。
「もちろんだとも」
「姫様も顔を見せてあげてください。皇都の民は姫様がいなくなって寂しがっておりましたから」
「ほう、フェルナは愛されているのだな」
「それはもう。民の為に陛下に苦言を呈していたことは皆が承知ですから」
「……あまり役に立てたとは思えませんでしたけどね」
「声をあげてくれている方がいるというだけで希望が持てていたのです。誇りに思ってください」
「私もそう思うぞ。フェルナ」
「……少し、照れますね」
二人から称賛されて、気恥ずかしい思いをした私は馬にまたがった。
「さあ行きましょう。お父様やお兄様が戻ってくる前に混乱を治めないといけません」
「そうですな。陛下は時間がかかりそうですが、殿下は最速で戻っていらっしゃるでしょう」
「皇子が帰ってくるまでに何日ほどかかるだろうか?」
「そうですな。二日といったところでしょうか。ですが軍としての規模は小さいものでしょう。敗残兵にも等しいのですから」
「精強と言われたオルフェリア兵もバラバラとなってはその強さは発揮できないということか」
アシュ様は私に顔を向けると、優しく微笑んだ。
「後もう少しだ。そしてここまで来れば、私たちの仕事となる」
お兄様が相手だとこれまでのように説得は通じないだろう。
「だから、君は皇都で待っていてくれないか?」
これは肉親同士で争わないようにするためのアシュ様の優しさだとすぐにわかった。
だけど、
「ここまで来て私が責任を放棄するわけにはいきません。最後まで傍にいさせてください」
「しかし……」
「殿下、諦めてください。大人しく聞く方ならば、こういったことにはなっていないはずでしょう?」
「ふふっ、そうだな」
アシュ様も先生も二人して笑う。
「もう、なんですか二人して」
「ははは!」
「ふぉふぉふぉ!」
むくれた私が相当おかしかったようで二人は大きな笑い声を発した。
むぅ……!
私はこの怒りをどう表現すればいいかわからず、大きくため息を吐くのだった。




