お出迎え
ガレイン砦にて一夜を過ごし、朝食を食べた私は旅服からドレスへと着替えることになる。
真新しい純白のドレス。
前世で言えばウエディングドレスのようなデザイン。
私が持ってこれたのはこのドレスのみ。
他国へと嫁ぐ際には今まで使っていたものはほとんど持っていけない。
オルフェリアの人間ではありませんという決意表明。
この時代に王家同士で嫁に行くというのはそういうことなのだ。
正直、サリナを連れてきたことは印象として良いものではないけれど彼女の熱心な願いを聞き捨てることはできなかった。
「フェルナ様、お綺麗です……」
着替えを手伝ってくれたサリナの言葉に少し照れてしまう。
そうまじまじと見つめられて言われると恥ずかしいわね。
「ありがとう、サリナ。これからも苦労をかけると思うけどよろしくね」
「はい、もちろんです!どんな文句を言われましてもくっついてきますから!」
「うふふ、サリナったら」
彼女の明るさに何度救われたことかしら。
私はつい、彼女の頭を撫でる。
「もう!私の方がお姉さんなんですよ!」
「あらあら、ごめんなさい」
サリナは私よりも少々発育がよろしくない。
頭一個分の身長差はどうしても撫でやすい位置なのよね。
「それじゃ、そろそろ行こうかしら」
「はい、スイレース王国の方もお待ちになっていると思いますから」
ここから先はスイレース王国の騎士が護衛となる。
その護衛騎士の方々がこの砦の外で待っているはず。
あまりお待たせし過ぎて悪印象を持たれないようにしないと。
「おお、ディフェルナ様。お美しい限りでございます」
外で待機していたグリッドが私にそう言ってくれる。
「ありがとう。スイレース王国の方々はもうお待ちかしら?」
「ええ……来られていらっしゃいます……」
あら?なんだかはっきりしない言い方ね。
「どうかしたんですか?」
サリナがその様子を見て声をかけた。
「その、相手の方が……」
私たちはグリッドの続きの言葉を待った。
「アスタロス・ルト・スイレース様。つまりディフェルナ様の夫となられる方なのです」
「「……えっ?」」
あまりにも意外な言葉に、私たちは理解することに時間を要したのだった。
「君がディフェルナ・レス・オルフェリア殿か?」
「はい、そうでございます」
夫となる方の初顔合わせが、砂埃舞う屋外であり鎧姿だとは思いもしなかったわ。
ただ、白い鎧がタキシードと思えば悪くないかもしれない。
確か私よりも3つ上の18歳。
ふんわりとした金髪は女性よりもサラサラで、長いまつ毛も羨ましい。
男装の麗人と称した方が相応しいとも思える顔立ちながら、その瞳には力強さが伺える。
簡潔に言えば美少女らしい美少年って感じかしら。
「君を迎える前に、少し話したいことがある。あちらの馬車に乗ってくれないか?」
「従者は一緒でも構いませんか?」
「いや、二人きりだ」
「わかりました」
私は傍で跪くサリナに向かうと、そのまま話しかける。
「少し待っていてくれる?」
「……大丈夫ですか?」
「ええ、もちろん」
「話はついたか?それではこちらに」
「かしこまりました」
私は兵士同士の視線が集まる中で、馬車へと先に乗り込んだ。
その後にアスタロス殿下が入ってくると扉は閉まった。
そして数巡の沈黙が流れてから、彼の口が開く。
「君と結婚は出来ない。このまま帰ってくれ」
まるで斬られたかのようなその言葉は私の胸を傷つける。
オルフェリアから追放され、迎え入れ先のスイレース王国でも拒否される皇女。
それが私という存在であった。




