治療開始
「手伝いに来たわ!」
「姫様!」
第四診療室と呼ばれている室内は広くベッドも六台設置され、大勢の患者がくることを想定して造られているように思う。
そんな中で三人の医師が回復魔法を施しているけど、ベッドの上や床に敷かれた担架の上で寝かされている人数は十人を超えている。
これは酷いわね。
「こちらを代わっていただけますか!私の回復魔法では無理そうです!」
「わかった!それとこの子も私と同じくらいの回復魔法が使えるわ!指示して!」
「はい!それではあなたはこちらを!」
「はい!」
ベッドで寝かされている男性へと私は割り当てられた。
包帯が両腕や両足に巻き付けられており、そこからは血が滲んでいる。
これは重症ね。
癒やしの光よ……
彼の者の身体を回復したまえ……
「ヒーリング」
私の言葉に患者さんの身体は光の膜に覆われていく。
まだ顔色は悪いけれど呼吸は安定しているように見える。
とりあえずはこれで大丈夫のはず。
「次は?」
「も、もう終わったんですか!?」
「ええ、ですから次を」
「わ、わかりました!ベッドで寝ている方々をお願いします!そちらの方々が重症なので!」
「了解したわ」
私はペースをあげて回復魔法を施していく。
同じヒーリングでも魔力量や使用による修得レベルによって効き目が違う。私はほとんど使用することはなかったけれど魔力量の違いでかなりの効果を引き出せていると思う。
なので他の医師が一度では回復しきれない怪我でも、一度で回復が可能。
こうして救える力を持って生まれたことに感謝しかないわ。
ベッドの間を移動する際に、アイーナ様と目が合う。
額に汗を流す彼女は真剣な表情だったけど、小さく微笑んだ。
ありがとうと言っているようなその顔を見て私はさらに嬉しく思えた。
そうして治療を進めていくと、やがて先ほどまでのうめき声はなくなり病室内は落ち着いていた。
ただ医師たちの呼吸が荒いことを除けば。
「お、お疲れ様でした……これで完了です……」
一人の医師の言葉に私以外の人たちがどっと座り込んだ。
「そう……あなたは余裕そうね……」
アイーナ様は息を整えながら私を見上げてくる。
「そうですね。魔力量には自信がありますから」
「体力も相当使うはずなのだけど?」
「そこはほら、鍛えてますので」
「まったく、どんなお姫様よ……」
「こんなお姫様です」
「やっぱり変な人ね、あなた」
アイーナ様は苦笑すると手を差し出してきた。
起こしてほしいのかしら?
「よいしょ」
「握手よ!握手!握手だけ!私はまだ疲れてるの!」
「あっ、そうでしたか?でも他の場所を見回りませんか?まだ治療が追いついていない場所もあるかもしれませんし」
「……そうね。そうしましょう」
「お二人ともありがとうございました!」
「どういたしまして。ゆっくり休んでいなさい」
こうして私たちは第四診療室での治療を終えた。
病院内を歩き、他の診療室を見て回ったけれどほとんどの場所で治療が終わっていた。
「ふぅ……これで一安心のようね」
「そうですね。よかったです」
受け付けの待合室のソファーに座り、談笑していると、
「お二方、お疲れ様です」
院長先生が話しかけてきた。
「被害状況は?」
「はい、重傷者二十名に軽傷者が五十五名。ですが死者は0名です」
「そう、よかったわ」
「これもお二方の力添えあってこそです。本当にありがとうございます」
「その言葉、ありがたく受け取っておくわ」
民に感謝されること、それが王族にとっての誉れだと思っているのね。
アイーナ様は本当にいいお姫様だわ。
「あぁ!お姫様だ!」
そうして三人で談笑していると、なにやら可愛らしい声が横から聞こえてきた。
「こ、こら!マミヤ!失礼でしょう!」
振り向いた先には先日にアイーナ様が治療した少女がいた。
顔色は相当良くなり、自分の力で歩いているところをみると随分と回復しているようね。
「だって……」
「いいわよ。マミヤ、元気になった?」
アイーナ様は叱る母親に手を振ると、近づいてきたマミヤちゃんに話しかける。
「うん!お姫様のおかげですごく元気!ありがとうございます!」
「どういたしまして。後、お姫様っていうのはかた苦しいわね。アイーナと呼びなさい」
「アイーナちゃん?」
「それでいいわ」
「えへへ!あっ!あとお姉ちゃんもありがとう!」
「私はディフェルナです。フェルナでいいですよ」
「フェルナお姉ちゃん、ありがとうございます!」
うーん……この純真無垢な笑顔、身に染みるわ……
「ねぇねぇ?」
「なぁに?」
「アイーナちゃんとフェルナお姉ちゃんは恋人なの?」
マミヤちゃんの言葉にアイーナ様が絶句した。
「どうしてそう思ったの?」
「ちゅーしてたから!」
「あらあら……見られていたようですね、アイーナ様」
「マミヤ!あれは違うのよ!忘れなさい!」
「えぇ?そうなの?パパやママもちゅーしてるよ?」
「こ、こら!」
母親が慌てて止めに来る。
「だからそういうのじゃなくて!あなたもなんとか言いなさいよ!」
「私は別に構いませんが?」
「構いなさいよ!」
アイーナ様がプンプンと怒る中、私たちは笑った。
突然のことだったけれど、死者がいなかったのは不幸中の幸いね。
そしてマミヤちゃんが元気になって過ごしてくれている。
そのことが私たちにとって、とても嬉しいことだった。




