教えてください……アシュ様……
「教えていただきたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
私はアシュ様の執務室に向かい、そう切り出した。
「私が君に?」
「はい」
「どういったことだろう?」
「少しお恥ずかしいのですが……」
女性からこういうことを頼むのは一般的ではないので、なんとも気恥ずかしい。
「な、なんでも言ってくれ。私ができることならなんでも構わないぞ」
「でしたら……」
私は、思い切ってアシュ様に伝えてしまった。
それからすぐに移動する。
そこは見晴らしいの良い芝生が生えた場所。
そこで
「……馬の乗り方を教えよう」
不機嫌そうなアシュ様に教えてもらっている。
「なぜそんなに不機嫌なのですか?」
「君にはもう少し男心を学んでほしいと思う」
「はぁ……」
「ふぅ……それはもういいとして馬の乗り方だったな」
「ええ、オルフェリアでは馬に触らせてもらえなかったので乗ったことがないのです」
「それはそうだろう。姫という立場で乗馬をすることはないからな。現にアイーナは馬に乗れん」
「フェレス様は乗れるのですか?」
「母上は特別だが乗れる。貴族時代はおてんばだったようだ」
「そうなんですか。お姉様らしいです」
私がクスッと笑うとアシュ様が手綱を引いている馬が、ひひんと鳴いた。
「どうどう。この子は小柄だが駿馬でな。しかし大柄な騎士には不向きで扱いに困っていたのだが、フェルナにならちょうどいいと思う」
真っ黒な毛の馬は私を興味深そうに見つめてくる。
元の世界では馬なんて競馬くらいでしか知らなかったけれど、なんて愛らしいのだろう。
乗馬体験でもしておけばよかったな。
「ふふふ、可愛い子ですね」
私が手を伸ばし顔を撫でると、黒馬は鼻を押し付けてくる。
ぶるっぶるっ!
「どうやら気に入られたようだな」
「そうなのですか?」
「ああ」
「ありがとう……えっと、この子のお名前は?」
「ジェンナという。三歳になる牝馬だ」
「女の子なんですね。私はディフェルナ、仲良くしてね?」
私が話しかけるとジェンナはスリスリと頬を寄せてきた。
可愛い。
「それでは乗ってみるか?」
「早速ですね……」
「そのために動きやすい服に着替えているのだろう?」
今の私はドレス姿ではなく、パンツスタイル。
髪もポニーテールに整えて騎乗準備は万全なのだけど……
やっぱり怖いという感覚はある。
時速60キロで走るというサラブレッド種よりは、スピードは出なさそうだけどそれでも結構なスピードが出ることには変わりないはず。
ジェットコースターが苦手だった私にとっては少し怖いものに違いはないのよね。
「そうですが……」
私が戸惑っていると、ジェンナが乗らないの?と言っているように見え、心なしかしょんぼりとしてしまっているようだった。
「ほら、ジェンナも君を気に入っているんだ。またがってあげたらどうだ?」
「……でしたら、ちゃんと見ていてくださいね?」
「ああ、見ているとも」
なんだか幼少時、補助輪付きに自転車に乗ろうとしていた時のことを思い出す。
あのときは父が面倒を見てくれていたと思う。
「#鐙__あぶみ__#に足をかけて」
「こうですか?」
「そう、それでそのまままたがるといい」
私は鐙という足場に足をかけて、思いっきりまたがった。
「きゃぁ!?」
いや、またがろうとしたのだけど……勢いが強過ぎてそのまま転がってしまった。
「……ふふっ」
「アシュ様!笑いましたね!」
「ははは!草が髪の毛に付いているぞ!」
「えっ!?もう!どこですか!?」
私は頭をパパっと払う。
「ふふっ、取ってやるから大人しくしていろ」
アシュ様はそう言うと、私に近づき草を取ってくれた。
「ほら、これで大丈夫だ」
「あ、ありがとうございます……」
「気にするな。今度は反対側でこけないように押さえるようにするから安心するがいい」
「……信じてますからね」
「ああ、私を信じろ」
こうして再び私は、鐙を足にすると勢いよくまたがった。
だけど今度もまたバランスを崩しかけたのだけど、アシュ様が腰を押させてくれたので、なんとかバランスを保てた。
「よし、そのまま手綱を握って前に重心を置いてみるといい」
「こ、こうですか?」
私は恐る恐る前傾姿勢へと体勢を変えた。
するとジェンナがトコトコと歩き出した。
「きゃっ!」
馬の背中は横で見ているのとは違い、バランスを取ることが難しい。
私はふらふらと身体が揺れると、ギュッと太ももを掴まれた。
「落ち着いて。しっかりとバランスを取れ」
アシュ様は真剣な表情でこちらを見あげてくるので、少しの羞恥心くらいは無視する。
「お、押さえていてくださいね!」
「大丈夫だ。ちゃんと前を見て」
私は上下するジェンナの背中に合わせてバランスを取ると、だんだんと心臓の鼓動も落ち着いてきた。
すると次第に、緑の草原が続く景色を美しく思え始めていく。
うわぁ……気持ちいい……
青い空に白い雲。
燦々と輝く太陽が温もりを感じさせてくれる。
「どうだ?気持ちいいだろう?」
「は、はい……」
「ならば、一緒に散歩をするか。ジェンナ、少し負担をかけるぞ」
アシュ様は勢いよく私の後ろに飛び乗った。
「さあいくぞ!しっかりと掴まっていろ!」
背後から手綱を取ると、ピシャリと波打たせた。
ひひーん!
ジェンナは勢いよく鳴くと、すかさず速度をあげていく。
「きゃぁぁぁ!?速い速い速い!」
「ははは!気持ちいいだろう!?」
風を切るスピードがとても怖い。
だけど背中に感じるアシュ様の身体の大きさが恐怖を薄めてくれていた。
「気持ち、いいです!」
そうして私はその後、一人でジェンナを乗りこなすことができるようになる。
ディフェルナは騎乗スキルを手に入れた!
なんてね?




