忠臣との別れ
「ディフェルナ様、到着致しました」
「そう、お疲れ様」
私たちはスイレースとの国境最前線の砦、ガレイン砦に到着した。
兄からの暗殺を恐れていたもののさすがに手を出せなかったようね。ここまで来たら野盗に見せかけた事件だとは言えないし、多くの目があり過ぎる。
それともこうして無事に引き渡すことによって自分の今後の成功を見せようとしているのかしら?
性格的には後者のような気がするわ。
「本日はすでに夕刻近いということで、ディフェルナ様をお送りいたしますのは明日となっております。無骨ながら貴賓室はございますのでそちらにお泊まりください」
「ええ、わかったわ」
私たちが馬車から降り、しっかりと整備された石道を歩いていくと、待ち構える人物がいた。
白髪混じりの茶髪に大きく蓄えたヒゲ。
銀色の鎧姿は大柄で、一目見て名のある騎士だと思った。
「ディフェルナ様、お初にお目にかかります。私、この砦の長を拝命しているグリッドでございます。鎧姿で申し訳ございません」
「いいえ。この場に置いてまで礼服を着用する必要はありません。短い間ではありますが、よろしくお願いします」
「寛大なるお言葉ありがとうございます。それでは中へお入りください」
グリッドが手を挙げると、門が自動的に開いていった。
そうしてグリッドを先頭に私はライゼン、サリナと一緒に砦内を歩いていく。
すると、兵士たちの姿が見えた。
スイレースは現在敵対国というわけではないためか、兵の数は少ないように見える。
それでも訓練を行う兵士たちもいたり、見張り台に立つ兵士もいる。気を抜きすぎてはいないようね。
それとも私が来ているからかしら?
できれば通常の日もこうして頑張ってほしいものだわ。
「ライゼンはここには来たことがあるの?」
「ええ、若い頃に研修兵として配置されました」
「それって何十年も前のことじゃないの?」
「そうですね。当時は訓練に次ぐ訓練で辛い思い出しかありません」
「ふふふ、それは忘れられないわね」
「ははは、できれば忘れたい記憶ではありますが、こうしてひとかどの騎士となれたのは訓練のおかげでもあります。私はこの場所に感謝していますよ」
そう言って笑うライゼンに私は安心感、そして喪失感を覚えていく。
これほど頼りになる人と離れることは辛いな。
「こちらでございます」
ライゼンとの会話を終えて少し歩いた頃、グリッドが立ち止まった。
「出来うる限りのことはしておりますが、不都合なことがあればお申し付けください」
「大丈夫です。一夜の宿に多くは申しませんから」
「重ね重ねのご温情、ありがとうございます。それでは私はこれで失礼いたします」
グリッドはそう言うと敬礼をして、この場から去っていった。
「それでは私もここまでですね」
「ライゼン……」
ライゼンの任務は私をガレイン砦まで送り届けること。
その任務が終わった今、彼は帰還しなくてはならない。
「またお会いしたいものですが、それは難しいことでしょう」
「……そうね」
赤ちゃんの頃までは覚えていないけれど、幼い頃から常に傍にいてくれた数少ない人。
そんな人と別れるのは辛いものなのに、普通ならば二度と会えない。
だけど……
「また、必ず会いましょう?長年の務め、ありがとうございました」
「ディフェルナ様……その言葉、信じております……私こそ、ディフェルナ様と過ごせた時間は大切なものです」
「フェルナ様……ライゼン様……」
私たちの会話を聞き、サリナが涙を溢す。
「サリナ、残されたのは君だけだ。君はいつまでもディフェルナ様の傍にいるようにな」
「もちろんです!私はフェルナ様の傍から離れませんから!」
「ならば、いい」
ライゼンはにこりと笑うと、
「それでは失礼いたします」
ビシッと敬礼をした。
そして私に背を向けて去っていく。
私の護衛騎士を解かれたライゼンがこの先、どの場所に配属されるかは分からない。
だけど、できうるならば……皇城の配備であるように……
私にはそう祈ることしかできなかった。




